ライブ・アット・リーズ /名作アルバム紹介05

1970年にザ・フーが発売したライブアルバムで、ザ・フー初のライブ盤です。ライブで真骨頂を見せるバンドが、デビュー以来ライブ盤を出していなかったのは不思議ですが、とにかくこのアルバムは当時のザ・フーのライブを生々しく伝える貴重な音源になっています。リーズ大学で録音されたこの音源は、今でもザ・フーが稀有な強力さを持っていたことを証明してくれます。



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ザ・フーとは

1964年にデビューしたイギリスのロックバンドで、ビートルズ、ローリング・ストーンズと並んで60年代のイギリスの三大バンドと呼ばれることもあります。ギター・ベース・ドラムスの4人編成のバンドで、シンプルな音を基本にした攻撃的なサウンドが魅力でした。ヴォーカルのロジャー・ダルトリーはマイクを鞭かヌンチャクのように振り回し、ドラムスのキース・ムーンはメチャクチャな叩き方で大音量を奏で、ギターのピート・タウンゼントは腕を振り回しながらギターを弾き、最後には叩き壊してしまうパフォーマンスで人気を得ていました。



68年にアルバム「トミー」を発売するとロックでオペラを作る新たな世界観を見せ、単にうるさい音でロックを演奏するバンドではないことを証明しました。「トミー」は世界的評価を得て、後に映画化もされました。ライブで「トミー」をアルバム1枚まるごと演奏すると、観客は熱狂で応えていたようです。ライブバンドというだけでなく、ザ・フーは芸術的なセンスも見せつつ観客を興奮のるつぼにする稀有なバンドになっていきました。

ザ・フーのライブ盤

早くからライブ盤の制作は予定されており、68年にアルバム「セル・アウト」を出した後のツアーで録音が行われました。しかしバンドが急速に演奏力を向上させている時期でもあり、発売するために音源を聴いたメンバーは、すでにサウンドが色あせていることに気が付きました。そのためこの時の音源はボツになっています。さらに「トミー」のプロモーションで、アルバムを丸ごと演奏する69年のツアーでも録音が行われました。

※リーズ大学


しかしライブが2時間以上になり、音源だけで80時間を超えるものになってしまったので、聴いているだけで疲れてしまったメンバーは、この音源を放棄しました。ライブ盤を出す計画は頓挫しましたが、リーズ大学とハル大学でのライブに録音機材を持ち込んで録音することになります。ハル大学での公演は機材のトラブルでベースの音がほとんど録音で来ておらず、結果的にリーズ大学でのライブ音源を使ってライブ盤の制作が行われました。

収録曲

A面
ヤング・マン・ブルース
恋のピンチ・ヒッター
サマータイム・ブルース
シェイキン・オール・オーヴァー

B面
マイ・ジェネレーション
マジック・バス

このアルバムで最も話題になったのは、エディ・コクランのカバー「サマータイム・ブルース」です。コクランが58年に発表と同時に話題になった曲で、海外ではビーチ・ボーイズ、ベンチャーズ、Tレックスなど多くのミュージシャンにカバーされています。日本でも、子供ばんど、RCサクセション、ウルフルズ、ギターウルフなどがカバーしています。ザ・フーはウッドストックでも演奏し、その後のザ・フーの代名詞的な曲になりました。

暴力的なサウンド

ザ・フーのサウンドは、どこまでも暴力的です。それは音量がギネスに認定されるほど大きいとか、楽器を叩き壊すといった安易なものではありません。キース・ムーンのドラムは全編がフィルインと言われるほど手数が多く、時にリズムから外れても攻めるフィルインを刻みます。ベースのジョン・エントウィッスルはリードベースと言われるほど、高速で手数の多いベースを演奏して攻めの演奏を見せます。本来はリズムをキープするはずのリズムセクションが、このような演奏をするのでギターのピート・タウンゼントが必死にリズムをキープしている場合があります。リード楽器とリズム楽器の役割が入れ替わることがあるのです。



時にキース・ムーンはピート・タウンゼントを茶化すかのように、意図的にリズムを外します。それを睨みつけ、この野郎と言わんばかりにコードカットを続けるピートは怒りの表情を浮かべながら演奏を続けていきます。その隣ではヴォーカルのロジャー・ダルトリーが分厚くもハイトーンの声で歌詞を叫んでいきます。演奏中にケンカが起きているかのような音の交換があり、それを楽しむかのようなキースに我関せずのジョン、そして「こんなバンド、やってられるか!」と言わんばかりにピートがギターを叩き壊すのです。

※リーズ大学に設置された銘板


ザ・フー以降、多くのバンドが暴力的なパフォーマンスをステージで見せました。しかしサウンドそのものが暴力的なバンドは今でも稀有な存在です。70年代後半に起こったパンクムーブメントは、あらゆる既存のロックバンドを否定しましたが、ザ・フーだけは特別でした。どんなにパンクバンドが過激なことをやっても、これほどサウンドを暴力的に奏でるバンドはいなかったからです。「ライブ・アット・リーズ」には、ザ・フーの暴力的なサウンドが満載です。

まとめ

ザ・フーの名盤となると「トミー」を挙げるべきだと思いますが、私が最初に衝撃を受けたのがこのアルバムでした。ザ・フーという存在自体が奇跡のようなバンドの、最も高い熱量を感じることができるアルバムです。楽器を壊すことばかりが注目されたザ・フーですが、完成度の高いアルバムを何枚も制作していますし、ライブも密度の高い演奏をしています。絶対に真似してはいけない、だけどこれ以上ない熱量を持ったライブ盤です。

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