キース・ムーン /誰も越えられない破天荒なドラマー

派手なパフォーマンスや暴力的なパフォーマンスが人気を得た時代があります。話題作りのためにホテルの部屋を破壊したり、乱行パーティをしたり、頑張って騒動を起こすロックバンドが多かった時代に、私生活も破天荒でデタラメながら、なぜか周囲に愛されたキース・ムーンというドラマーを紹介します。



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ザ・フーのリズムを支えないドラマー

ザ・フーがドラマーを探していると聞いたキースは、酒をしこたま呑んで度胸を据えると、演奏中のザ・フーの前に現れます。生姜色の服に生姜色の帽子を被ったキースを変な奴だと思いつつ、ドラムを叩かせてみることにしました。

キースはとにかくでかい音でドラマを叩き続け、次第に酔いが回って気持ち悪くなり、途中で倒れてドラムセットを壊してしまい、ゲロまみれで床に転がりました。それを見たメンバーは「俺たちのバンドにピッタリだ!」と、キースを雇うことにしました。


キースはリズムを支えることを拒否し、調子が良い時は速くなり、悪いと遅くなる癖がありました。ドラマーとしては致命的な弱点ですが、全編がフィルインと呼ばれる手数の多さで、ばザ・フーのサウンドに彩りを与えました。当然ながら、他のメンバーはキースに合わせて演奏することはありませんでした。

バンド解散の危機

酒とドラッグが大好きなキースでしたが、それは他のメンバーも同様でした。ただ1人、ボーカルのロジャー・ダルトリーはドラッグを嫌い、さらにヤク中によって演奏が聴くに耐えないレベルになっているのが我慢なりませんでした。そこでロジャーは、キースが隠し持っていたドラッグを全てトイレに流してしまいました。

※ロジャー・ダルトリー

怒ったキースはタンバリンでロジャーに襲いかかりますが、ヘロヘロのキースはロジャーのパンチ1発で伸びてしまいます。激怒したロジャーは「こんなバンドやめてやる」と宣言し、そのままクビになってしまいます。その後、なんとか仲直りしてバンドは継続しました。なぜキースの凶器がタンバリンだったのか?単にふざけていただけなのかは不明です。

キースのドラムセット

要塞のようにあらゆるキットを並べるのが好きでしたが、どれも最大音量で鳴るようにセットされていたそうです。そのためどれも同じ音がするので、どれを叩いても同じと言われていました。そして多くのキットを並べながら、使わないものも多くあり、なぜ並べているのかは本人にしかわかりませんでした。


大好きなマックイーンに嫌われる

たまたま隣に住んでいるのが映画スターのスティーブ・マックイーンだと知り、なんとか彼のホームパーティーに呼ばれたいとキースは考えます。そこでマックイーンの映画「大脱走」のように、バイクでジャンプして現れると気に入ってくれると思い、庭にジャンプ台を作ってバイクでマックイーンの家の庭に飛び込みました。

その様子に恐怖を感じたマックイーンの妻は、キースの家との壁を高くして乗り越えられないようにします。バイクで飛び越えられないと悟ったキースは、庭に穴を掘って塀を地下から超えてマックイーンの家の庭に向かいます。ところが犬が気づき、吠えられたので犬に噛み付いて警察に通報されました。

以前からキースの変人ぶりの噂に加え、キースの家から聞こえる騒音に悩まされていたマックイーンはキースと会おうとせず、仕方なくキースは庭にトランポリンを置いて、ジャンプしてマックイーンの家を覗き込みました。マックイーン夫妻は、ノイローゼになったと言われます。

裸になるのが好き

テレビ番組の最中に、司会者が偉そうな態度をとると言い出し、ズボンを脱いでカメラを止められました。パーティでは全裸に靴下と蝶ネクタイだけをつけて給仕をするなど、意味もなく裸になりたがりました。記者会見を行うと連絡があったので記者たちが指定されたホテルに向かうと、ボンテージ衣装に尻を出したキースが縛られていて、女王様がキースをムチで叩く中、キースは記者の質問に答えました。あちこちで裸になりたがるため、さまざまなクラブで出入り禁止になっています。



何かと壊したがる

ギターのピート・タウンゼントがギターを破壊するパフォーマンスを見て、自分もやりたくなったようです。ドラムセットを完全に破壊するパフォーマンスを始めました。



ホテルのロビーに車で突っ込み、ロビーをめちゃくちゃに破壊してから何食わぬ顔でフロントから鍵を受け取ったり、運転中に泳ぎたいと言い出して車ごとホテルのプールに入ったこともあります。ホテルの部屋はあちこち壊すので、ホテルは改装前の部屋を割り当てていました。

誕生日に車をもらい、あまりの嬉しさにそのまま車ごとプールに飛び込んだという話もあります。テレビ番組に出演した際にもホテルの壁をクタクタになるまで壊し続け、水道を壊して水浸しにしていました。

インタビュアー泣かせ

BBCからインタビューを受け、上機嫌で色々なことを話します。しかしインタビュアーが「そろそろ本当のことを話してくれないか?」と言うと、「それだけは無理だ」と真顔で答えていました。上機嫌で嘘ばかりを話していたわけです。

他にもインタビューの答えが意味不明だったり、意図的に質問を混ぜ返したりしました。相手が喜んでくれると思っていたようですが、大抵のインタビュアーは混乱し、無軌道にあれこれ話すキースにあたふたしていました。インタビュー中にテレビカメラの前で脱ぎだしたときは、カメラを止められてしまいました。

意味不明の行動

整髪料が切れていたため、ジャムで髪をセットして出かけています。会う人会う人に、髪を舐めろと迫りました。また全裸になってボンネットにしがみつき、そのまま知人に車を走らせてスタジオに向かいました。



玄関の門の前にプールを作って中に入られなくしたり、象の麻酔を酒に入れて飲んで救急車で運ばれたり、友人の家に車で突っ込んだりしています。これらの行動は、全てみんなが喜んでくれると思ったから行ったそうです。

演奏中の奇行

ドラムを水浸しにして、叩くたびに水しぶきが上がる演出は良かったのですが、バスドラムに爆薬を入れたのは失敗でした。テレビで「マイ・ジェネレーション」の演奏後にドラムを爆破しますが、火薬の量が多すぎてメンバーの鼓膜が破れ、ステージの袖にいたベティ・デイビスは失神し、自分も怪我をしました。


ドラマーとしてのスキル

最悪の部類に入ります。リズムをキープできないのにうるさいという、ドラマーとして最も嫌われる資質を持っています。なぜかリズムをクラッシュシンバルでガチャガチャ刻み、とにかく可能な限り手数を多くしたドラムだったため「リードドラム」という謎の言葉を生みました。



ではドラマーとしてダメだったかというと、キースの死後にザ・フーは2度としてかつてのサウンドを再現できませんでした。しかしキースが他のメンバーとセッションをすると、大抵はめちゃくちゃになりました。キースはザ・フーに特化したドラマーだったと言えるでしょう。

キースが上手く叩けずにレコーディングが進まず、メンバーから文句が出た時にキースはこう言っています。「あのな、俺はキース・ムーン・タイプのドラマーとしては世界一なんだ」

まとめ

デタラメな行動に加えてデタラメな演奏も多かったため、目指してはいけないドラマーの代表格になっていますが、ザ・フーにとっては無くてはならないドラマーだったことが異彩を放っています。極度の寂しがり屋で、バンドの解散を最も恐れていたのがキースだったと言われますし、ピート・タウンゼントは夜な夜な「寂しい」と電話してくるキースの相手をしています。寂しさを紛らわすためにパーティを繰り返し、誰にでも好かれたいという思いが過激な行動に走らせていたようです。しかしそれによって相手が喜ぶのか、迷惑がるのかの境目がわからなかったため、ますます孤独を深めてアルコールや薬物に依存するようになりました。

1978年9月7日、キースはアルコール依存症の離脱症状を抑える薬を32錠も飲み、それによるオーバードーズで死亡しました。32歳でした。


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