投稿

12月, 2019の投稿を表示しています

壮大なキューブリックのジョーク /「アイズ・ワイド・シャット」に見る神の視点

イメージ
鬼才スタンリー・キューブリックの遺作として大々的に報じられた「アイズ・ワイド・シャット」が、日本で公開されたのは99年の夏でした。妹が見に行き「何のことかさっぱりわからんかった」と言っていて「見に行って解説して」と言う頼みで私も見に行きました。私はキューブリックの映画が大好きですが、全ての映画が好きというわけではありません。この映画は、あまり気が進まない映画でした。 ここに書くのは私なりの感想と解釈です。キューブリックの映画はどのようにも捉えられるので、誰かの感想や解釈を否定するものではありません。 あらすじ ニューヨークの開業医のビルと妻のアリスは、クリスマスパーティに出席します。倦怠期を迎えた夫婦は、別々に分かれてパーティを楽しみますが、ビルもアリスもそれぞれ誘惑されてしまいます。それぞれ誘惑を断ち切り帰宅した2人は、ベッドで体を重ねるも口論になってしまいます。 浮気心を一度も抱いたことがないというビルに、アリスは以前出会った海軍士官との浮気を想像したと告白し、ビルはショックを受けます。そんな時に電話が掛かり、ビルの患者が急死したと連絡が入りました。アリスが他の男に抱かれるところを想像して苦悶するビルは、街を彷徨います。 不覚にも笑ってしまった 映画が終盤を迎え、アリスを演じるニコール・キッドマンがアップで「帰ってファックしなくちゃね」と言い、「アイズ・ワイド・シャット」の文字が画面に登場してエンドロールを迎えると、私は不覚にも笑ってしまいました。周囲の観客が怪訝な目で私を見ましたが、笑いが収まらずにいました。そして映画館を出て妹に電話し「この映画はジョークだ。キューブリックが何年も掛けて作ったジョークに、みんな騙されたんだ」と伝えました。 これが私が最初に見た時の感想の全てです。この映画は人を小馬鹿にしたキューブリックのジョークだったと今でも思っています。さまざまな解釈がこの映画にもたらされましたが、私にはあの世にいるキューブリックが、人の下世話な心理をバカにして笑っているような気がしていました。この映画は退屈でつまらない映画で、多くの人がそう言っていました。そういう人に「なぜつまらなかったの?あなたはこの映画に何を期待していたの?」と問いかける映画であり、私も自分の下世話な心を見透かされバカにされた気分にな

N-3Bを米兵から買った話 /暖かさ抜群のコートでした

イメージ
また90年代の前半だったと思います。オートバイでフラフラしていた私と友人は、食事を取ることにしました。なんとなくアメリカンな雰囲気の食堂に入ると、数名の米兵が食事をとっていました。彼らは軽く酔っていて、私たちにオートバイを見せろとか言って、話しかけてきました。 関連記事: フライトジャケットはロマンで着る なぜか宴会に どうやら米兵の1人が帰国することになったそうで、みんなで飲んでいたようです。私たちが「オートバイに乗ってきたから」とアルコールを断ると「俺が爆撃機で家まで送ってやる」というメチャクチャなことを言い出し、さらに店のオーナーが端っこに駐めているなら明日取りに来ればいいと言い出して、なぜか私たちも加わって酒盛りになっていきました。 1人だけ女性兵士がいて、彼女は飛行機の整備士だと言っていました。他はヘリのパイロットで、無駄に陽気なノリにくたくたになりながら、呂律の怪しい彼らの話を聞いていました。とりあえず悪い人たちではなさそうで、とにかく面白かったですね。 バイクを見たい 私たちは古いハーレーダビッドソン(私のは76年製、友人のは65年製だったと思います)に乗っていたので、それをじっくり見たいと言い出し、私たちは駐車場に出ました。あまりの寒さに全員が店に戻り、アウターを着て震えながらバイクの前であーだこーだと話が続きます。その時に、女性兵士がN-3Bを着ているのに気がつきました。 私「それ、暖かい?」 女「最高よ」 私「俺も欲しい」 女「その革ジャンと交換して」 試しに交換して着てみると、お互いにほとんどピッタリでした。女性兵士は、みんなにヒューヒュー言われて、ストリッパーのような怪しげなセクシーダンスを踊ります。寒空の駐車場でも、この人達のノリは変わりません。ちなみに彼女はセクシー系というより、いかにも軍隊にいそうなドスコイ系でした。 【売り尽くし★冬クリアランスSALE】送料無料 ALPHA INDUSTRIES アルファ インダストリーズ ジャケットNー3B フライト ジャケット Nー3B FLIGHT JACKET MJN31000C1 メンズ 価格:19400円(税込、送料無料) (2019/12/21時点) 楽天で購入 ※アルファ社のN-3B

私が見た最悪のボクシング2 /マンシーニVS金得九

イメージ
以前、リング禍が起こった悲劇的なボクシングの試合として、ジェラルド・マクレラン対ナイジェル・ベンの話を書きましたが、レイ・マンシーニ対金得九(キム・ドゥック)の試合はリアルタイムではなく、数年後に見ました。しかし結果を知らずに見たので、これほど悲劇的な結末を迎えるとは思いませんでした。後味が悪い試合で、ボクシングの世界戦が15ラウンド制から12ラウンド制に移行するきっかけになった試合です。 関連記事: 私が見た最悪のボクシング /ジェラルド・マクレランの悲劇 レイ・ブンブン・マンシーニ 1961年にオハイオ州で生まれたアメリカのボクサーです。79年にプロデビューし、81年にライト級世界王者のアレクシス・アルゲリョに挑戦するも、14回負けで王座獲得に失敗します。82年にプロ24戦目でWBA世界ライト級王座を獲得し、出入りが激しくパワフルな戦い方から「ブンブン」(旋風などの音を意味する)と呼ばれ、その陽気なキャラクターもあって人気のボクサーでした。 金得九 1955年に韓国で生まれたプロボクサーで、幼いころに父を亡くし母親が再婚を繰り返す影響で、学校にも満足に行けない少年時代を過ごしました。78年にプロデビューすると、80年に韓国ライト級王座を獲得し、82年には東洋太平洋タイトルを獲得しました。東洋太平洋タイトルは3度防衛し、マンシーニの持つ世界タイトルに挑戦しました。 ※計量を行う金と覗き込むマンシーニ(右) 魔の13ラウンド 12ラウンドが始まる時、金のグローブのテーピングが剥がれていたため、レフリーは巻くようにセコンドに指示します。露骨な時間稼ぎが必要なほど、金は体力的に尽きていました。13ラウンドではマンシーニはニックネームのブンブンの通り、スピーディな回転力を活かした打撃で金を追い詰めていきます。金は立っているのがやっとというほど疲れ果てますが、それでも終盤には反撃を見せ、勝利への強い執念を見せます。金の盛り返しは見事ですし、その執念には驚かされました。 ※13Rにダウンした金 しかし13ラウンドの打撃戦で、金は力尽きていました。14ラウンド開始早々に、マンシーニの右ストレートが金を捕らえ、後ろに倒れました。金はロープの最下段で後頭部を打ち、さらにキャンバスに後頭部を打ちつけました。しかし

ライブ・アット・リーズ /名作アルバム紹介05

イメージ
1970年にザ・フーが発売したライブアルバムで、ザ・フー初のライブ盤です。ライブで真骨頂を見せるバンドが、デビュー以来ライブ盤を出していなかったのは不思議ですが、とにかくこのアルバムは当時のザ・フーのライブを生々しく伝える貴重な音源になっています。リーズ大学で録音されたこの音源は、今でもザ・フーが稀有な強力さを持っていたことを証明してくれます。 関連記事: キース・ムーン /誰も越えられない破天荒なドラマー ザ・フーとは 1964年にデビューしたイギリスのロックバンドで、ビートルズ、ローリング・ストーンズと並んで60年代のイギリスの三大バンドと呼ばれることもあります。ギター・ベース・ドラムスの4人編成のバンドで、シンプルな音を基本にした攻撃的なサウンドが魅力でした。ヴォーカルのロジャー・ダルトリーはマイクを鞭かヌンチャクのように振り回し、ドラムスのキース・ムーンはメチャクチャな叩き方で大音量を奏で、ギターのピート・タウンゼントは腕を振り回しながらギターを弾き、最後には叩き壊してしまうパフォーマンスで人気を得ていました。 68年にアルバム「トミー」を発売するとロックでオペラを作る新たな世界観を見せ、単にうるさい音でロックを演奏するバンドではないことを証明しました。「トミー」は世界的評価を得て、後に映画化もされました。ライブで「トミー」をアルバム1枚まるごと演奏すると、観客は熱狂で応えていたようです。ライブバンドというだけでなく、ザ・フーは芸術的なセンスも見せつつ観客を興奮のるつぼにする稀有なバンドになっていきました。 ザ・フーのライブ盤 早くからライブ盤の制作は予定されており、68年にアルバム「セル・アウト」を出した後のツアーで録音が行われました。しかしバンドが急速に演奏力を向上させている時期でもあり、発売するために音源を聴いたメンバーは、すでにサウンドが色あせていることに気が付きました。そのためこの時の音源はボツになっています。さらに「トミー」のプロモーションで、アルバムを丸ごと演奏する69年のツアーでも録音が行われました。 ※リーズ大学 しかしライブが2時間以上になり、音源だけで80時間を超えるものになってしまったので、聴いているだけで疲れてしまったメンバーは、この音源を放棄しました。ライブ盤を出す計画は頓挫

まだヒートテックが暖かいと信じている人へ

イメージ
2003年に ユニクロ が発売したヒートテックは大ヒット商品になりました。ヒートテックは東レとユニクロが共同開発した新素材の名前で、吸湿発熱の原理を利用した冬でも暖かい素材です。その評判は一気に広がり、利用者は爆発的に増えていきました。今やヒートテックは冬にはなくてはならないものになっています。その一方で、実際に買ってみたけど暖かくないと言う人もいます。そして中にはヒートテックは体を冷やすと言う人もいます。そこで今回は、冬用のインナーについて書いてみたいと思います。 関連記事 インデラミルズ /最強のインナーと言われるサーマルシャツ ヒートテックの原理 ヒートテックは吸湿発熱を利用していると書きました。要するに人体が発する汗を利用して発熱するもので、水分が乾く際に出る気化熱を利用して暖かくなる仕組みです。こう書くと最先端のテクノロジーをふんだんに使っている気がしますが、綿やウールが暖かいのも同じ理由で、古くから防寒に使われていた原理です。最先端の技術を使っているように錯覚しがちですが、言ってみれば当たり前のことを言っているに過ぎないのです。 ヒートテックのポイントは、これを薄手の生地で実現したことです。吸湿発熱を行うには、一定の水分が生地に浸透して、同時に乾かなくてはいけません。そのため生地が厚い方がこの効果を得やすいのです。Tシャツよりセーターが暖かい理由の一つがこれです。しかしヒートテックはペラペラの素材なのに、この吸湿発熱を持続して可能にしているとうたっています。 本当に暖かいですか? 03年の発売直後から話題になり、妻が買ってみようと騒ぐのでユニクロに出かけて買ってみました。正直言って、感想は微妙でした。というか、既に持っているキャンバーやチャンピオンの厚手のTシャツの方が暖かいと感じました。やはりヒートテックは、薄手のTシャツなりのものです。それでも微妙と書いたのは、サイズ選びを間違えなければ体にピッタリ張り付くので、従来のユニクロの薄手のTシャツよりは暖かく感じるからです。 私はこのヒートテックの暖かさの評判の大半は、この感から来ているように思います。体にピッタリ張り付くインナーは、摩擦熱によっても発熱します。ところがなぜかゆるゆるサイズのTシャツをインナーとして着る人が多くいます。友人と買い物に行くと「その