最も間抜けな置引きの顛末 /モーリス・グリーンに追われた置引

※この記事は2016年3月13日に、前のブログに書いた記事の転載です。

その間抜けな置引き犯の名は、ラウル・サンチェスといい、主にスペインの空港で犯行を重ねていました。一瞬の隙を突いて観光客の荷物を奪い、俊足を生かしてあっという間に逃げ切ってしまいます。その素早さから「アンダルシアの鷹」と呼ばれ、警察はマークしながらも現行犯逮捕が最も難しい男とされていました。そのアンダルシアの鷹が、なんとも間抜けな逮捕のされ方をしました。


事件発生

サンチェスは、99年の夏に空港にいたアメリカ人の一団に目をつけます。その中の一人は、話に夢中で足元のカバンには全く気を使っていません。体格が良い男ばかりの団体なので、捕まったらひとたまりもないでしょう。しかしサンチェスには自慢の脚力がありましたし、空港内の通路にも熟知していました。これまで何度も犯行を重ねていましたが、サンチェスの逃げ足に誰も追いつけなかったのです。ですからお金を持っていそうなアメリカ人の一団がいかに体格が良くとも、サンチェスには逃げ切れる自信がありました。

※事件が起こったセビリア空港

サンチェスは周囲に気をつけながら、一瞬の隙を突いてカバンを奪いました。すぐそばにいた黒人男性が気づき、アッと声を上げました。その男はすぐに追いかけてきました。さらにその声で気づいたカバンの持ち主も、盗まれたことに気がつき追いかけてきます。しかしサンチェスにとって、これはいつものことです。このまま楽に逃げ切れるはずでした。サンチェスは空港内を全力で走り、一気に引き離しにかかります。優れた脚力と空港内を熟知しているサンチェスにとって、最も危険なのは盗む瞬間に取り押さえられることでした。それに成功した今、サンチェスは自信を持って逃走しました。

追跡者たちの素顔

しかし追いかけてきた男の走る速さは、サンチェスの予想を遙かに超えていました。距離が一瞬で縮まります。さらに遅れて追いかけてきたバッグの持ち主も、尋常ではない速さで迫ります。完璧に逃げ切るはずのサンチェスは、あっという間に捕まってしまいました。

※モーリス・グリーン

追いかけてきた男の名は、モーリス・グリーンといい、陸上100m走の現役世界記録保持者でした。そしてバッグの持ち主はラリー・ウェイド。110mハードルの世界王者だったのです。サンチェスが狙ったアメリカ人の一団は、ただの観光客ではなく世界選手権セビリア大会に向かうアメリカ代表チームでした。グリーンとウェイドは造作もなくサンチェスに追いつき、屈強な肉体で取り押さえてしまいました。

言い訳もむなしく

サンチェスは、落ちていたカバンを返そうとしただけだと主張します。そこにスペイン人がやってきました。実はサンチェスがお喋りに夢中になっていると思っていたのは、テレビのインタビューを受けていたからで、スペイン人はそのテレビスタッフでした。ウェイドのインタビュー映像を再生すると、そこには置いてあるカバンを盗むサンチェスの姿がしっかり映っていました。



最も現行犯逮捕が難しいと言われていたサンチェスは、絶対に奪ってはいけない相手から、奪ってはいけないタイミングで犯行におよび、現行犯逮捕となりました。逃げるサンチェスは、どんな気分だったのでしょう。世界記録保持者に追われるなんて、ホラーな体験ですよね。



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