バンドの人間関係か戦略か /バンドメイドの不仲説
大抵の場合、バンドの人間関係の不和は突然表面化します。ある日突然、メンバーがメンバーを批判したり、脱退すると言い出したり、バンドが休業したり、それをきっかけにメンバーの不和が表面化するのです。仲が良いことをアピールするバンドはあまりありませんが、不仲をアピールするということもありません。そのため不和が表面化するとファンは驚き、戸惑うことになります。そんな中、以前紹介した女性5人で構成されるバンドメイドはちょっと異質で、メンバーの不仲をアピールしていました。これはちょっと珍しいスタイルだと思うので、このことを考えてみました。
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バンドメイドとは
バンドメイドに関する細かいことは、前回の記事を読んでいただければと思います。女性5人で構成されるハードロックを中心に演奏するバンドで、メイド服姿とハードなサウンドのギャップが海外で大人気になっています。2015年にアメリカで突如ブレイクし、ワールドツアーを何度も実施していて、今や日本よりも海外で人気の高いバンドです。
※小鳩ミク(左)と彩姫(右) |
小鳩ミクはメイド服で演奏するバンドという構想を元にメンバーを集めたバンドの中心人物であり、リズムギターとサイドボーカルを担当しています。彩姫(さいき)は小鳩のボーカル力不足を補うために、最後に加入したリードボーカルです。
小鳩をディスる彩姫
「スリル」のPVが海外で話題になり、ワールドツアーを成功させるとバンドメイドはメディア露出が急激に増えていきました。テレビ出演や雑誌のインタビューも増えていき、その対応は主にバンドのフロントマンである彩姫と創設者である小鳩の2人が担当しました。2人でインタビューに答えるわけですが、彩姫は小鳩に対して辛辣な発言を繰り返していきます。それは彩姫が一方的に言うケースがほとんどで、仲良くしたい小鳩を彩姫が拒絶しているかのような内容でした。
インタビュアーに「(2人の)共通点ないんですか?」と尋ねられると、彩姫は「マジでないです。絶対、友達にならないタイプ(笑)」と言い、2人は「生きてる世界が違う」と言い切ります。事務所が新幹線の指定席を手配すると、彩姫と小鳩は隣の席になることが多いそうですが、ほとんど会話はないと言っていました。またホテルで同部屋になると、ほぼ無言で過ごして必要最低限の会話しか無いと語ります。また小鳩の事を「ムリなんです。マジで(笑)」と拒絶するようなことを言い、基本的に小鳩を「お前」呼ばわりしていました。小鳩を見ているとイライラすることも多く、ちょくちょく蹴っていることもテレビで言っていました。
これに対して小鳩は、「彩ちゃん、彩ちゃん」と話しかけることを試みるも「うるさい!」の一言で一喝されたり、彩姫に似合いそうな服を選んだりしては「小鳩がかわいいと思うものを全くかわいいと思わない」と全否定されています。こういったやりとりは媒体を変えて何度も繰り返され、ファンの中には「さすがに彩姫は言い過ぎ」「事務所は彩姫に注意するべき」と言う人もいたようです。小鳩のファンとしてはいたたまれない気持ちになるようで、彩姫に嫌悪感を抱く人もいたと聞きます。
そもそもバンドは仲良くするべきか
当時、この彩姫の辛辣なコメントを聞きながら、これほどメンバーへの不快感を赤裸々に話すバンドは珍しいと思いながらも、彩姫と小鳩はプロフェッショナルな関係なんだと思っていました。バンドのメンバーが仲良しならそれでも良いのですが、仲が良いことは必ずしも必要ではありません。むしろ相手に気遣ってばかりで言いたいことが言えない方が、バンドとしては危険な状態です。
70年代からアメリカを代表するバンドのエアロスミスは、90年代のインタビューでバンド内で喧嘩が多いことを語っていました。レコーディングで激しい言い合いになり、怒って誰かが出て行くこともあるそうですが、それは最高の作品にしたいという意志のぶつかりだというわけです。彼らは80年代に麻薬と内部不和でバンドが崩壊しかけ、奇跡的に復活した経緯があります。そのため、互いに言いたいことを遠慮なく言うようにしているのではないでしょうか。
※エアロスミス |
また会社勤めをしている人であっても、仲良くしたいとは思わないけど仕事上では信頼している人がいると思います。仕事の上で信頼し合える関係は、週末に一緒に遊びに行くとか食事を共にするより良い仕事をするうえでは不可欠なことです。ですから仲が良いならその方が良いのですが、それよりも仕事上で信頼できる関係を築けているかの方が遥かに大事になってくるはずです。
仕事上の信頼関係はどうか
では彩姫と小鳩の仕事上の信頼関係はどうでしょうか。彩姫はバンドメイドの楽曲作りやステージの話になると、辛辣なコメントは消えていました。多くの曲の作詞を担当している小鳩に対して、自分達が感じていることを上手に歌詞に落としてくれると言っていますし、無口で話すことが苦手な彩姫はステージ上のMCは小鳩に頼りきりになっていると語っています。メイド喫茶のノリのMCに自分から参加するつもりはないとしつつも、アメリカでは怪しげな英語で、ドイツならデタラメなドイツ語でオーディエンスに語りかけ、不思議と盛り上げてしまう小鳩を頼りにしていると語っていました。
一方、小鳩はバンドメイドを軌道に乗せるためには絶対に彩姫の声が必要だったと語ります。だからバンドメイドに参加してくれただけで感謝しきれないと言い、最初は着たくもないメイド服を受け入れて歌っている姿は感動的だとも言っていました。さらにステージアクトの多くは彩姫の指導(命令?)で行われているらしく、バンドメイドが目指す格好よさは彩姫がいなければ今のスタイルはなかったとも語っています。このように仕事の上では、互いを信頼しているコメントを残しており、一部のファンが騒ぐような心配はこのバンドにはないと思っていました。
幻想を売るアイドル音楽を売るミュージシャン
しかし最近になって、この不仲は意図的に演出されたものではないかと思うようになりました。バンドメイドがデビューしてから約2年間、アイドルなのかミュージシャンなのかどっちつかずのポジションでした。それは本格的なバンドと胸を張れるほど音楽的に核になるものがなく、演奏や歌も満足のいくレベルではなかったからです。メイドの衣装という奇抜さもあり、アイドルのように受け入れられている部分の方が大きかったと思います。しかし2015年に「スリル」でブレイクし、ハードロック路線を固めてから演奏スキルも劇的に向上し、さらに国内に加えて海外マーケットを意識するようになると、急速にミュージシャンとしての立ち位置を模索するようになりました。
よくアイドルは歌が上手いわけでも踊りが上手なわけでもないという批判的な声を聞きますが、アイドルが売っているのは歌や踊りや芝居ではなく幻想だからです。それはファンの永遠の恋人という幻想だったり、楽しく素晴らしい仲間に囲まれた理想的な人物という幻想だったりと様々ですが、その幻想を守るために恋人ができてもひた隠しにし、結婚をせず、タバコを吸う姿を隠して、決して人の悪口を言わないように良い子を演じています。アイドルにとって幻想こそが最大の商品であり、歌が上手いとか芝居が上手とかいうよりも大事なことになります。
しかしミュージシャンは音楽を売ります。もちろん彼らも幻想を売ることもありますが、最も重要な売り物は音楽です。そのため音楽に目を向けてもらうために、意図的に幻想を破ることもあります。例えば80年代後半にブレイクしたガールズバンドのプリンセス・プリンセスは、楽屋裏の映像を公開してタバコを吸いながらあーだこーだと言い合う姿を見せていました。当時の女性アイドルは飲酒の話も控えていましたが、彼女達は居酒屋で起こったバカ話をして、やれ勢いで便器を破壊してしまったとか、誰がマネージャーに飛び蹴りしたとかをラジオで嬉々として話していました。これはプリプリもアイドルとして売り出されていた時期があり、自分達はそういったことを気にするアイドルではないと宣言するためだったと思います。
バンドメイドが繰り返し不仲を言っていたのは、フロントマンの2人(彩姫と小鳩)が、一緒にインタビューに答えるのに仲が悪いというのは目を引きますし、自分達をアイドルではなくミュージシャンとして見てもらうためにあえて行っていたのではないか?そんな気がしました。まあ、深読みのしすぎなのかもしれません。バンドメイドのファンの中にはもっとシンプルに見ている人もいて、構って欲しい小鳩と手厳しい彩姫の関係は、年季の入った夫婦のようなものだと言う人もいます。案外、それが正しいのかもしれないとも思います。
ディスらなくなった彩姫
意図的に不仲を演じていたのでは?と私が考えた理由の1つに、いつ頃からか彩姫が小鳩をディスらなくなったというのがあります。2018年のインタビューでは、彩姫は小鳩を部屋に呼ぶことないのかと質問されて「出禁です。出禁」と拒否し、バンドメンバーの仲に話が及んだ際に小鳩が「でも、仲が悪いわけじゃないんですっぽ」とコメントしたのに対し、彩姫は即座に「別に良くもないんですけどね」と答えています。
しかしコロナ禍で活動がほとんどできなくなった際には、これまでほぼ1年中一緒にいたのに自宅で待機するのは変な感じだとメンバーは口々に答えており、会えない代わりにオンラインで繋げっぱなしにしていて、気が向くと話しかけていたそうです。絶えず一緒にいるような環境をオンラインで作っていたというのは驚きですが、これはメンバー全員の仲が良いから繋がり続けていたと小鳩は説明しています。「仲が悪いバンドだったら自粛期間であんなにつながったりしないっぽね」と言う小鳩に対して彩姫は、「私たち、気持ち悪いぐらい仲いいんで。周りから引かれるもんね」と、これまでとは一転して仲の良さを語っています。これはバンドメイドが独自の足場を築き、メイド服を着たハードロックバンドとして名前が知られるようになったからではないでしょうか。
※BAND MAIKO |
そう考えるのも、このバンドは戦略を良く考えていると思うからです。売り出し戦略と言うと事務所の話をする人が多いのですが、たとえ事務所主導であっても本人達が真剣に考えていなければ今の時代は広く浸透しません。エイプリルフール企画で舞妓の格好をしたバンドマイコなどは事務所の仕掛けかもしれませんが、メンバーのサプライズ誕生日会の配信なども含むSNS発信は、個々のアイデアのように思えるものが多くあります。良い意味でメンバーがガツガツした感じがあり、どうにかして自分達の存在を知らせようとしているのだと思います。
まとめ
日本のガールズバンドはアイドル性を求められることが多く、そのため中途半端な存在になるケースが多々ありました。アイドルらしい可愛らしさが足りず、ミュージシャンとしては技量が不足している状態です。バンドメイドも同様で、その中途半端な状態から脱却する過程で、バンド内の不和を演出して脱アイドルを図ったのではないではないかと思いました。またガールズバンドが乱立する中で、自分達に注目を集めることにも有効だったのではないでしょうか。これほどの実力を身につけた現在では、このようなギミックは不要のようにも思いますが、かつては鳴かず飛ばずの状態だったのですから、「スリル」のブレイクからあの手この手を打ったとしても不思議ではありません。実際にどうだったのかは本人達にしか分かりませんし、私の想像でしかありませんから、全くの検討外れかもしれませんので、気に障った方は忘れてください。
運命共同体または仲の良いいとこ同士のような…しかしパフォーマンスは常に最高で、どの曲も際立ち人生にパッションを与え続けてくれる稀有な存在の完全な共同体で進化が止まらない!
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