復活した村田諒太 /衝撃のKO勝利の要因は?
2019年7月12日、村田諒太はWBA王者のロブ・ブラントを2RKOで下して王座を奪還しました。大方の予想を覆す勝利で、アメリカにも衝撃をもたらしました。ESPNはこの試合の第2Rを今年のベストラウンド候補と報じ、伝説のハグラーVSバーンズ線を彷彿させたと最大級の賛辞を送っています。なぜ村田は復活できたのでしょう。前回のロブ・ブラント第1線から振り返ってみたいと思います。
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村田がこの2人がいるステージに立つには、ブラントにただ勝だけでは不十分でした。アメリカの観客、そしてプロモーターに、これら2人と戦うだけの強さと人気を備えていることを証明しなくてはなりません。ブラントもこの2人がいるステージを目指していて、共に負けられないだけでなく、強烈な印象を残す試合が必要でした。
何度か流れを変えようと打ちに出ますが、ブラントはすぐに距離をとって村田の間合いから外れ、再び入ってくると反応が遅い村田を狙い撃ちします。やがて村田はボディブローすら空を切るようになり、一度も見せ場を作ることもなく、後半は安全運転に入ったブラントに何もできないまま試合を終えました。ポイントは圧倒的な差でブラントにつき、村田は王座を失いました。
結果としては村田の惨敗で、手数の少なさ、スピードのなさ、局面を変える打開力のなさ、そして引き出しの少なさなどが全て出た試合でした。自慢の強打さえ発揮できず、ただ悪い点ばかりが出てしまいました。
新たなトレーナーとしてカルロス・リナレス(ホルヘ・リナレスの弟)を迎え、カルロスからは上体を起こされないように低く構えることを徹底されます。これは前々から多くのボクシング関係者が指摘していたことで、村田は上体を起こされ棒立ちに近い状態でパンチを振るうので、強打が出せずに打たれていました。これを徹底的に矯正していきます。
そして村田自身の気持ちも変化したようです。アマエリートらしい正確なボクシングから、打たれても打たれても前に出るファイタータイプに変化していく姿勢は、やはり負けた影響が大きかったと帝拳ジムの本田会長は言います。
村田とブラントの試合は、誰がみてもブラントの勝利で疑問の余地がありません。しかしトップランク社はダイレクトリマッチを組んできました。どういう経緯があったのかはわかりません。しかし村田の人気、そしてトップランク社のプロモーター、ボブ・アラムの手腕がなければ不可能だったでしょう。極めてイレギュラーな試合です。
ブラントにしても、完勝した相手と再戦するのは得るものがない試合です。よほどファイトマネーが良かったのでしょうか。上のステージを目指すブラントが、よく了承したとものだと感心しました。
日本のボクサーからも苦戦を予想する声が出ていました。多くの声をまとめると、ボクシングをするのではなく殴り合いに持ち込めば勝機があり、様子を見るのではなく1Rからガチガチの殴り合いをするしかないというものでした。ロングレンジではブラントの距離になり、リズムを握ったブラントを崩すのは容易ではありません。グチャグチャな殴り合いこそ、チャンスがあると多くの人が考えました。
ブラントにとって、きっちり自分のボクシングをすれば問題なく勝てる相手です。そして先を見ているブラントにとって、村田は通過点の1つにすぎません。ブラントはアルバレスらがいる次のステージを見ていたことでしょう。負ける要素は何もない試合でした。
もしブラントに上昇志向がなく、ただWBAタイトルを守ることしか頭になければ、様子を見ることもあったかもしれません。突進してくる村田をかわし、じっくりリズムをとる戦術を取れば村田の作戦は空振りに終わったはずです。しかしブラントは前に出ました。WBA王座を守るのではなく、村田に勝ってゴロフキンやアルバレスがいる上を目指したのです。
そして積極的にブラントが打って出たため、村田は一気にプレッシャーをかけて打撃戦に持ち込むことができました。前回はブラントの攻撃に上体が上がってしまい、後退させられました。しかし今回の村田は前傾姿勢のまま、被弾覚悟でファイターのように前に出ました。前に出る村田の右ストレートがブラントのガードの上から突き刺さると、ブラントは驚いた顔をしました。前回は感じなかった村田の強打がブラントを襲います。
前回はブラントの連打を浴びた村田は、態勢を崩して反撃していたので強打が出せませんでした。しかし今回の村田は低い姿勢から得意のボディブローを放ち、ガードの上からでもお構いなしに強打を浴びせました。以前のガードの隙間を狙う村田の戦い方ではありません。ボクシングではなく純度の高い殴り合いを村田は行っていました。
恐らくブラントは困惑し、混乱していたでしょう。前回、何もできないまま棒立ちになっていた村田とは別人が目の前にいます。この時の村田は、のろまで貧打で解決策を持たないボクサーではなく、獰猛でタフで凶悪でした。しかしこれだけのラッシュがいつまでも続くはずがなく、流れを乗り切ればチャンスがあると思ったかもしれません。一方、村田もガス欠になる前に仕留めなければ、前回と同じ展開になるかもしれません。
村田は最後までエンジン全開で走り抜け、ブラントをKOしました。レフリーのストップがもう少し早くても良かった気がしますが、村田の完勝でした。前回とは別人のようになった村田は、手数でも破壊力でもブラントを圧倒し、王座を奪還しました。
ややこしいのは、ドル箱王者のアルバレスはWBO王者のデメトリアス・アンドラーデとの試合を望んでいると伝えられているのに対し、スポンサーのDAZN(ダゾーン)はゴロフキンとの3度目の対戦を望んでいるからです。このため誰もが対戦したいアルバレスの次戦の相手が、今も白紙状態になっています。ここに村田が入り込む余地は、あまりないと言えます。そこで次に名前が挙がるのはWBC王者のジャーモール・チャーロや、現在は無冠のダニエル・ジェイコブスです。
ジェイコブスは以前に村田との対戦を希望するコメントを出したことがあり、また今年の5月にアルバレスとの対戦で王座を失ったことから、復帰を探っています。そのため次の試合はもっと楽な相手になる可能性が高いのですが、村田を組みやすしと考えれば再び希望するかもしれません。
村田の次の対戦相手が見えにくいのは、これまで組みやすしと思われていたのに、今回のブラント戦で簡単な相手ではないと印象付けたことです。ジェイコブスが希望した時は、明らかに村田を踏み台にするつもりでした。しかし今の村田は簡単に勝てる相手には見えなくなりました。そこで現在注目されているのは、再々戦を希望しているロブ・ブラウンです。彼は次の村田の試合の指名権を持っているので、自分が挑戦したいとアピールしています。
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2018年10月20日
WBAの指名試合で、WBA王者の村田はロブ・ブラントの挑戦を受けました。場所はラスベガスのパークMGMで、ミドル級最強の王者を目指す村田にとって、最高の舞台になりました。村田はWBA王者ですが、ミドル級最強はメキシコのサウル・アルバレスかカザフスタンのゲンナジー・ゴロフキンです。村田はこれらの選手との試合を望んでいました。※ミドル級の頂点に立つアルバレス |
村田がこの2人がいるステージに立つには、ブラントにただ勝だけでは不十分でした。アメリカの観客、そしてプロモーターに、これら2人と戦うだけの強さと人気を備えていることを証明しなくてはなりません。ブラントもこの2人がいるステージを目指していて、共に負けられないだけでなく、強烈な印象を残す試合が必要でした。
村田の悪い点ばかりが目立った
ブラントは初回から積極的に出て、自分のリズムで試合を運ぼうとします。村田はいつものように手数が少なく、プレッシャーをかけていきます。そんな展開が続くと、優劣がはっきりしてきました。村田はハンドスピードも足もブラントよりはるかに遅く、手を出したくても出せない状態に陥りました。何度か流れを変えようと打ちに出ますが、ブラントはすぐに距離をとって村田の間合いから外れ、再び入ってくると反応が遅い村田を狙い撃ちします。やがて村田はボディブローすら空を切るようになり、一度も見せ場を作ることもなく、後半は安全運転に入ったブラントに何もできないまま試合を終えました。ポイントは圧倒的な差でブラントにつき、村田は王座を失いました。
結果としては村田の惨敗で、手数の少なさ、スピードのなさ、局面を変える打開力のなさ、そして引き出しの少なさなどが全て出た試合でした。自慢の強打さえ発揮できず、ただ悪い点ばかりが出てしまいました。
引退を考えた日々
ボクサーとしてのポテンシャルの違いを見せつけられた試合で、アルバレスやゴロフキンのいるステージどころか、その手前にすら行けない現実を突きつけられてしまいました。1ヶ月間悩み、息子に「あと1回負けたらボクシング辞めてもいいよ」と言われたこともあり、復帰を決めます。※村田の家族 |
新たなトレーナーとしてカルロス・リナレス(ホルヘ・リナレスの弟)を迎え、カルロスからは上体を起こされないように低く構えることを徹底されます。これは前々から多くのボクシング関係者が指摘していたことで、村田は上体を起こされ棒立ちに近い状態でパンチを振るうので、強打が出せずに打たれていました。これを徹底的に矯正していきます。
そして村田自身の気持ちも変化したようです。アマエリートらしい正確なボクシングから、打たれても打たれても前に出るファイタータイプに変化していく姿勢は、やはり負けた影響が大きかったと帝拳ジムの本田会長は言います。
ダイレクトリマッチ
原則として各団体はリターンマッチを禁止しています。王座が2人の間で行ったり来たりするような状況は、他の選手を待たせることになるからです。リターンマッチが認められるのは、試合結果に疑義がある場合で、それ以外には有力な挑戦者がケガなどで見つからない場合です。村田とブラントの試合は、誰がみてもブラントの勝利で疑問の余地がありません。しかしトップランク社はダイレクトリマッチを組んできました。どういう経緯があったのかはわかりません。しかし村田の人気、そしてトップランク社のプロモーター、ボブ・アラムの手腕がなければ不可能だったでしょう。極めてイレギュラーな試合です。
ブラントにしても、完勝した相手と再戦するのは得るものがない試合です。よほどファイトマネーが良かったのでしょうか。上のステージを目指すブラントが、よく了承したとものだと感心しました。
戦前の予想
誰もがブラントの勝利を予想していました。前回の試合を見れば、誰もがそう思うでしょう。しかしトレーナーのケニー・アダムスは帝拳ジムに招かれて村田のトレーニングを行った後に、村田の勝利を確信したと語っていました。村田のストロングポイントは右ストレートで、それを如何に出せるかが鍵になるというアダムスは、修正は可能ですでにできていると語っていました。日本のボクサーからも苦戦を予想する声が出ていました。多くの声をまとめると、ボクシングをするのではなく殴り合いに持ち込めば勝機があり、様子を見るのではなく1Rからガチガチの殴り合いをするしかないというものでした。ロングレンジではブラントの距離になり、リズムを握ったブラントを崩すのは容易ではありません。グチャグチャな殴り合いこそ、チャンスがあると多くの人が考えました。
自身たっぷりのブラント
会場入りした時、リングインした時もブラントの表情には余裕がありました。なにせ前回は、完勝した相手なのです。村田は自分のスピードに追いつけず、翻弄され、リズムをつかむこともできず、何もできないまま負けたのです。どんなに集中しても、わずかな心の隙ができてしまうのが人間だと思います。ブラントにとって、きっちり自分のボクシングをすれば問題なく勝てる相手です。そして先を見ているブラントにとって、村田は通過点の1つにすぎません。ブラントはアルバレスらがいる次のステージを見ていたことでしょう。負ける要素は何もない試合でした。
試合開始
ブラントにとって村田が最初から出てくるのは想定の範囲内だったはずです。だから前回同様に、自分から仕掛けて主導権を奪いに行きました。村田に主導権を握らせず、自分が先に出ることで序盤で試合を決めてしまおうという考えです。もしブラントに上昇志向がなく、ただWBAタイトルを守ることしか頭になければ、様子を見ることもあったかもしれません。突進してくる村田をかわし、じっくりリズムをとる戦術を取れば村田の作戦は空振りに終わったはずです。しかしブラントは前に出ました。WBA王座を守るのではなく、村田に勝ってゴロフキンやアルバレスがいる上を目指したのです。
そして積極的にブラントが打って出たため、村田は一気にプレッシャーをかけて打撃戦に持ち込むことができました。前回はブラントの攻撃に上体が上がってしまい、後退させられました。しかし今回の村田は前傾姿勢のまま、被弾覚悟でファイターのように前に出ました。前に出る村田の右ストレートがブラントのガードの上から突き刺さると、ブラントは驚いた顔をしました。前回は感じなかった村田の強打がブラントを襲います。
前回はブラントの連打を浴びた村田は、態勢を崩して反撃していたので強打が出せませんでした。しかし今回の村田は低い姿勢から得意のボディブローを放ち、ガードの上からでもお構いなしに強打を浴びせました。以前のガードの隙間を狙う村田の戦い方ではありません。ボクシングではなく純度の高い殴り合いを村田は行っていました。
第2ラウンド
ブラントは距離をとろうとしていました。打撃戦につき合うのは得策ではないと考えたはずです。しかし強打を浴びたことで、村田のプレッシャーが効いていました。村田は1ラウンドと同様に、ガードの上からでもお構いなしに打ってきます。そして村田はペース配分を無視していました。12ラウンドまで戦うつもりでペース配分をしていたブラントと、2ラウンドでエンジンを全開にした村田の間には、大きなギャップがありました。恐らくブラントは困惑し、混乱していたでしょう。前回、何もできないまま棒立ちになっていた村田とは別人が目の前にいます。この時の村田は、のろまで貧打で解決策を持たないボクサーではなく、獰猛でタフで凶悪でした。しかしこれだけのラッシュがいつまでも続くはずがなく、流れを乗り切ればチャンスがあると思ったかもしれません。一方、村田もガス欠になる前に仕留めなければ、前回と同じ展開になるかもしれません。
村田は最後までエンジン全開で走り抜け、ブラントをKOしました。レフリーのストップがもう少し早くても良かった気がしますが、村田の完勝でした。前回とは別人のようになった村田は、手数でも破壊力でもブラントを圧倒し、王座を奪還しました。
今後の展開
村田はサウル・アルバレスやゲンナジー・ゴロフキンとの対戦を希望しています。この2人がミドル級のトップだと言われているからで、特にアルバレスはWBAスーパー王者とWBCフランチャイズ王者に認定されている特別なボクサーです。そのためファイトマネーも高額で、日本に呼ぶことはほぼ不可能です。かつての統一王者ゴロフキンは、王座を全て失ったものの復活を見せています。ゴロフキンは実力に対してファイトマネーが不当に低いと不満を持っており、こちらも安いファイトマネーでは動いてくれそうにありません。※デメトリアス・アンドラーデ |
ややこしいのは、ドル箱王者のアルバレスはWBO王者のデメトリアス・アンドラーデとの試合を望んでいると伝えられているのに対し、スポンサーのDAZN(ダゾーン)はゴロフキンとの3度目の対戦を望んでいるからです。このため誰もが対戦したいアルバレスの次戦の相手が、今も白紙状態になっています。ここに村田が入り込む余地は、あまりないと言えます。そこで次に名前が挙がるのはWBC王者のジャーモール・チャーロや、現在は無冠のダニエル・ジェイコブスです。
※ジャーモール・チャーロ |
ジェイコブスは以前に村田との対戦を希望するコメントを出したことがあり、また今年の5月にアルバレスとの対戦で王座を失ったことから、復帰を探っています。そのため次の試合はもっと楽な相手になる可能性が高いのですが、村田を組みやすしと考えれば再び希望するかもしれません。
※ダニエル・ジェコブス |
村田の次の対戦相手が見えにくいのは、これまで組みやすしと思われていたのに、今回のブラント戦で簡単な相手ではないと印象付けたことです。ジェイコブスが希望した時は、明らかに村田を踏み台にするつもりでした。しかし今の村田は簡単に勝てる相手には見えなくなりました。そこで現在注目されているのは、再々戦を希望しているロブ・ブラウンです。彼は次の村田の試合の指名権を持っているので、自分が挑戦したいとアピールしています。
まとめ
大方の予想を覆し、再戦に勝利した村田は素晴らしいの一言に尽きます。そして勝利より価値があるのが、今までのスタイルから変えて強打者としてアピールできたことだと思います。村田の価値は一気に上がり、ビッグマッチ実現の可能性も見えてきました。帝拳ジムの本田会長は、マッチアップはトップランク社に任せてあると言っていました。ブラントとの再戦の舞台にはボブ・アラムも来ていたので期待の大きさが伺えます。村田の新たなる挑戦に期待しましょう。関連記事
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