ジャンピエロ・ヴェントゥーラ /イタリア代表の予選敗退

 2017年11月13日、イタリアvsスウェーデンのプレイオフの2ndレグで、ベンチから試合を見守っていたイタリア代表のダニエレ・デ・ロッシは、ウォーミングアップを開始するように言われました。しかしデ・ロッシはこれを拒否し、不満をぶちまけます。交代要員が交代を拒否する異常事態は、当時のイタリア代表を象徴していました。イタリア代表は混乱を極め、選手には監督への信頼も忠誠もありませんでした。こうしてイタリア代表は、60年ぶりにW杯出場を逃すという大失態を演じることになってしまうのです。


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イタリア代表監督 ジャンピエロ・ヴェントゥーラ

2016年6月7日、イタリアサッカー協会はジャンピエロ・ヴェントゥーラを代表監督に招聘しました。ヴェントゥーラは1948年生まれ、イタリアのジェノバ出身のサッカー監督です。プロ選手としてUCサンプドリアに所属していましたが、怪我により早々に引退して指導者への道を歩みます。アシスタントコーチから始め、下部リーグやユースの監督に就任しています。

※ジャンピエロ・ヴェントゥーラ


カリアリ・カルチョのセリエA昇格、UCサンプドリアではセリエB降格後の立て直し、2001年はセリエAで低迷するウディネーゼの監督を務めています。セリエAで優勝を狙えるようなビッグクラブでの経験はありませんが、下部リーグのチーム強化やトップリーグで低迷しているチームの立て直しを長年行ってきました。2011年にトリノFCの監督に就任し、セリエBに降格したチームをセリエAに昇格させた手腕が認められ、イタリア代表監督に就任しました。

ロシアW杯欧州予選開幕

2016年からロシアW杯の欧州予選が始まりました。54カ国がエントリーし、6チームずつが9つのグループに別れてグループリーグが開幕します。ロシアは開催国として予選を免除されており、ロシアを除く13カ国に出場枠がありました。グループリーグ1位はそのままW杯出場が決定し、グループリーグ2位の国同士でプレイオフを行うことになります。イタリアはグループGでした。グループGの国は以下の通りになります。

イタリア、スペイン、アルバニア、イスラエル、マケドニア、リヒテンシュタイン

この顔ぶれを見てわかる通り、グループGはイタリアとスペインがグループ首位を巡って戦うことになります。超攻撃的なスペインと堅牢な守備のイタリアの戦いですが、どちらもさっさと1位で通過して予選を終わらせたいと思っていました。しかし得失点差がものを言うグループリーグでは、爆発的な得点力を誇るスペインの方が有利なのも事実で、実際にその通りの展開になります。

予選1位通過のスペイン

2016年9月5日にスペインはリヒテンシュタイン相手に8-0で勝利すると、11月12日にはマケドニアに4-0で勝利します。2017年3月24日にはイスラエルにも4-1で勝利し、大量得点を重ねていきました。こうして爆発的な得点力でスペインは他国を蹴散らしていき、圧倒的な力を見せつけながら首位通過を決めました。全10試合を終えて9勝1分で勝ち点28、36得点に対して失点が3点という内容で、文句なしの予選通過でした。


不安がよぎるイタリアの序盤

アントニオ・コンテが率いて2016年の欧州選手権でベスト4だったイタリア代表は、新監督のジャンピエロ・ヴェントゥーラが就任してもコンテ時代の戦術を継承していました。さらにロレンツォ・インシーニェなどの若手の台頭もあってイタリア代表の選手層は充実しており、欧州予選を不安視する人はいませんでした。初戦のイスラエル戦は3-1で勝利し、スペインとの直接対決は1-1で引き分けるものの、マケドニアには3-2で勝利しました。

しかし3試合を終えてイタリアに失点が4もあるのは、明らかに変でした。堅牢な守備を誇るはずのイタリアが、試合のたびに失点するというのは異常事態の前触れだったと言えるでしょう。ヴェントゥーラ監督はそうした事態に危機感を覚えたのか、それとも独自色を出したかったのか、チームの戦術を大きく変更します。フォーメーションをコンテ時代から続いていた3-5-2から、ヴェントゥーラが好んで使い続けていた4-2-4に変更したのです。

忘れられた危機感

ヴェントゥーラが採用した4-2-4は、ことごとく機能しませんでした。デイフェンスを増やしたため失点を減らすことはできましたが、中盤がガラ空きになって良いように相手に使われてしまいます。常に数的不利に陥るミッドフィルダーはバタバタと動き続け、さらにパターン化された攻撃は単調でした。その結果、格下のリヒテンシュタインには5-0で勝利するものの、スペインには0-3の完敗で終わってしまいました。その後はイスラエルには1-0、マケドニアには1-1、アルバニアには1-0の2勝1分で、グループ2位を決めました。

イタリア代表が機能不全を起こしているのは明らかで、それを批判する専門家も多くいました。しかし対戦相手が格下のため、その粗が見えにくく、最終的に勝利を重ねているため深刻な問題が起こっていることが見えにくくなっていました。格下相手に苦しんでなんとか勝利するイタリア代表は、もっと批判されるべきでした。しかし多くのイタリア国民にとって、イタリアがW杯に出場できないなんて考えもしなかったのです。

プレイオフによるチーム崩壊

これまで批判されても4-2-4を押し通していたヴェントゥーラは、プレイオフのスウェーデン戦の1stレグではかつての3-5-2に戻します。アウェイの戦いとなった1stレグで、攻撃の糸口すら見えないままイタリアは手をこまねいていました。得点を奪うにはセットプレイか交通事故のような偶発事故を期待するしかなく、ほとんど何もできないまま0-1で負けてしまいました。これまで黙っていたファンもイタリア代表の不甲斐なさに激怒し、もはやチームが異常な状態に追い込まれていることが誰の目にも明らかになってしまいました。

ホームで行われる2ndレグでは、2点差以上での勝利が必須となりました。そこで選手たちは先述の改善をヴェントーラに求めます。しかしこの話し合いでヴェントーラは「それならお前たちでやれ」と投げ出してしまい、チーム崩壊は決定的になりました。そして2ndレグでは前回よりは改善されたものの、やはり得点が奪えず苦しむことになります。そして0-0で迎えた後半に、冒頭のトラブルがテレビカメラに映し出されました。デ・ロッシとスタッフが激しく口論している映像は、混乱しているイタリア代表を象徴していました。

※ダニエレ・デ・ロッシ

ウォームアップを命じられたデ・ロッシは、「なんで俺なんだ?」と問いかけます。「俺たちは2点差で勝たなきゃいけないんだぞ」と叫び、この試合ではなぜかスターティングメンバーから外されていたインシーニを指して、ストライカーを出すべきだと抗議しました。控えの選手がウォームアップを拒否するなど前代未聞で、そのことでスタッフと口論になることなど他では見られません。イタリア代表はなす術なく0-1で敗北し、60年ぶりにW杯出場が断たれてしまうことになりました。この結果を受けてブッフォン、バルザーリ、デ・ロッシは代表引退を表明しました。

ヴェントゥーラの解任

イタリア国中で批判が巻き起こる中、イタリアサッカー協会はヴェントゥーラの解任を発表しました。しかしこれで批判がおさまるはずもなく、敗退が決まるまでなんら決断をしなかった協会への批判も強く起こりました。そのため後任の監督選びも難航し、誰もが火中の栗を拾うことを避けようとしました。そんな中、後任監督に決まったロベルト・マンチーニは、ロシアW杯を視察して「ブラジルを除けば、イタリアより強いと思える国はない」とコメントしました。

※ユーロ2020

マンチーニはそれを証明するように、2020年の全欧州選手権ではグループステージを1位通過し、さらに決勝トーナメントもオーストリア、ベルギー、スペイン、イングランドを倒して優勝を果たしました。これによりイタリア代表が弱いのではなく、指揮官の迷走により予選落ちしたことが証明された形になりました。

私はスケーブゴートにされた

解任されたヴェントゥーラは、ACキエーボ・ヴェローナの監督にシーズン途中で就任しました。しかし4試合を戦って1分3敗と苦戦し、選手からの信頼も得られなかったことから辞任しました。早すぎる辞任にクラブ側も留意しますが、本人の意思は固く辞任になってしまいます。この態度には選手もファンも激怒し、激しい批判が巻き起こりました。

イタリア代表監督を解任されてから半年後、ヴェントゥーラはイタリアの国営放送に出演しました。ヴェントゥーラはスペインに0-3で負けてから2試合目のマケドニア戦の後に、辞任を申し出ていたことを告白します。しかし辞任は受理されず、続投になっています。番組ではスウェーデン戦で予選敗退が決まった後に辞任せず、解任されるまで居座っていたことについて質問されると「辞任すれば)私が敗退について、唯一の責任者であることを認めるようなものだっただろう。責任は他の者にもあった」と、他にも責任を負うべき者がいると説明しています。さらに「私はサッカーにおけるすべてのスケープゴートにされてしまった」と、自身が被害者であるかのようなコメントを残しています。

その後のイタリア代表

ロベルト・マンチーニの指揮により全欧州選手権で優勝したイタリアは、マンチーニが監督に残留して2022カタールW杯のヨーロッパ予選を戦いました。予選は2021年に始まりましたが新型コロナウイルスによる影響を受け、日程は何度も見直しが行われました。イタリアはグループCに入り、スイス、北アイルランド、ブルガリア、リトアニアと戦っています。グループ首位は5勝3分のスイスで、イタリアは4勝4分の2位でプレイオフに回りました。

2022年3月24日に、イタリアは北マケドニアと対戦しましたが、0-1で負けて2大会連続でワールドカップ出場を逃しました。歴史的な敗北を2大会続けて行ってしまったイタリアですが、前回大会とは違い負傷者の多さも大きな要因だったように思います。この件についてはさまざまな要因が絡み合い、イタリアではヒステリックな議論が展開されています。

まとめ

ヴェントゥーラの指揮下で、イタリア代表は無策のまま欧州予選で敗退しました。イタリアサッカー協会は無策のままのイタリア代表を、とりあえず勝っているからと放置して最悪の結果を招くことになりました。イタリアは怒りと悲しみに包まれましたが、その悲しみは全欧州選手権で優勝するまで癒えませんでした。そして今回の欧州予選敗退です。イタリアの怒りと悲しみは想像を絶すると思いますが、この件はまた別に考えてみたいと思います。


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