2002年 イタリア対韓国の憎悪 /世紀の大誤審と呼ばれた試合

仕事で訪問したご家庭は、ご主人がイタリア人、奥様が日本人のご夫婦で、和を意識したお住まいでした。陽気で日本語が流暢なご主人とは様々な話をしたのですが、サッカーの話になった時に「2002年の日韓ワールドカップは、どこで見てました?」と尋ねると、一瞬で陽気な顔が真顔になり「私たちは信じられないほどの屈辱を受けた。あの日のことと、(予選落ちした)今回のワールドカップは忘れたいんだ」と語ったのが印象的でした。



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史上最高のメンバー

2002年のワールドカップに挑んだイタリア代表は、史上最高のメンバーと言われていました。イタリアと言えばカテナチオと呼ばれる固い守りが特徴ですが、この時はGKにブッフォン、3バックにマルディーニ、ネスタ、カンナバーロです。これほどの守備陣はイタリア代表の歴史を振り返っても、なかなかいません。



ボランチにはディ・ビアジョ、とザンブロッタが並び、攻撃的MFはローマの王子トッティです。2トップには主砲ヴィエリ、そしてデル・ピエロかインザーギが並びます。鉄壁のディフェンスに爆発的な攻撃陣がついたイタリア代表は、優勝候補の一角と言われていました。

日本での奇妙な体験

彼らが日本を訪れたのは2001年で、日本代表との親善試合のためでした。イタリア代表が到着する空港には、多くの日本人サポーターが来ていると聞き、激しいブーイングを覚悟していました。しかし彼らに浴びせられたのは、ブーイングではなく歓声でした。

全く日本語はわかりませんでしたが、彼らが自分たちを歓迎してくれているのは明らかで、なぜ敵国を歓迎するのかわからないままイタリア代表はホテルに到着します。ホテルは一流で、スタッフはプロの仕事をし、記者会見でも意地悪な質問はなく歓迎ムードでした。日本で渡された携帯電話には、着メロと呼ばれる着信音に好きな音楽が選べる機能が付いていて、多くの選手が楽しんでいました。

※埼玉スタジアムでの日本代表

そして日本代表との試合は、さらに奇妙な体験でした。イタリア代表のプレイに、拍手と歓声が上がるのです。敵地での試合で、敵国の人から応援されるという不思議な経験は心地よく、日本のサポーターがイタリアサッカーを尊敬していることが伝わりました。できたばかりの埼玉スタジアムの芝は最悪でしたが、それも含めて稀有な経験になったと言います。

日韓ワールドカップ 一次リーグ

メンバーの怪我などから、史上最高のメンバーと呼ばれたイタリア代表は、予選の時から苦戦続きでした。そして一次リーグを戦うため、イタリア代表は再び日本を訪れました。



前回と同じように、日本はイタリアを歓迎してくれました。しかし2002年日韓大会は、一次リーグで波乱が立て続けに起こります。ヨーロッパ予選を盤石の強さで勝ち抜け、優勝候補筆頭だったフランスが一次リーグで敗退しました。そして南米予選で文字通り他国を蹴散らしてきたアルゼンチンも、一次リーグで敗退しました。波乱含みの一次リーグで、イタリアはなんとか2位で勝ち抜けます。2位のイタリアは決勝リーグのため韓国に向かいました。

高すぎた代償

グループリーグを1位で抜けたら、日本で決勝リーグを戦うはずでした。居心地の良い日本を離れることや移動時間を伴うことの不便さを感じましたが、モンテッラなどは苦戦が続く中で、良い気分転換になると考えたそうです。しかし数日後に「グループリーグ2位になったことで、僕らは高い代償を払わされたと気づいた」と語るようになります。

韓国でイタリア代表は、敵国として迎えられました。常に敵意を含んだ目で見られ、練習場に向かうと芝もろくに生えていない空き地でした。「ようやくワールドカップの雰囲気になった」と余裕を見せていた選手達も、フェンスに貼られた「AGAIN 1966」の屈辱的な言葉には怒り、特に監督のトラパットーニは、韓国側に撤去するように猛抗議しました。

※抗議された「AGAIN 1966」は試合でも人文字で書かれました。

そしてお湯が出ず水しかないシャワーに、蛇がいるマッサージ室を見て、怒りを超えて苦笑いが出たそうです。マルディーニは「韓国という国は、俺たちにできる限りの嫌がらせをしてきた。丘の上にある辺鄙なホテルは本当に汚かったんだ。練習場のピッチは狭く、ロッカールームもない。日本では、すべてがしっかりと組織化され、仙台市民は熱烈に歓迎してくれたというのに。ワールドカップの試合前に、そんなシチュエーションに置かれるとは思いもしなかった」

これで決勝トーナメント1回戦で戦う韓国に、何が何でも勝つという意気込みがチームに芽生えたようです。

韓国戦の波乱

試合は鬱憤を晴らすかのようなヴィエリの得点から、ゲームが動きました。しかし韓国のラフプレイはことごとく見逃され、カードどころかファールすら取らないありさまで、選手のストレスを高めるばかりでした。監督のトラパットーニは大声で主審に「ファールだ」とアピールし続けますが、その声はことごとく無視されました。



イ・チョンスは倒れたマルディーニの頭部を全力で蹴りましたが、ホイッスルすら吹かれることはなく、デル・ピエロやココは顔に肘打ちを浴びせられ、ココは激しく出血しました。ザンブロッタはスパイクピンが尻に突き刺さり、全治3ヶ月の重傷になります。そして韓国のスライディングから逃げるためにジャンプしたトッティは、シミュレーションをとられて退場になります。

※主審に抗議するビエリとディ・ビアッジョ

トンマージが決めたゴールが不可解な理由で取り消された時、ベンチのモンテッラは、このスタジアムでは何点とっても勝てないと思いました。そして延長戦を引き分けてPK戦で勝つ以外に勝利はないんだと気づきました。アップをするために立ち上がると、監督のトラッパットーニも同じ考えだったようで、全員にPK戦の準備をするように言います。

その直後に、アン・ジョンファンのゴールが決まり、韓国の勝利が確定しました。

モンテッラは語ります。
「怒りが抑えきれなかった。あんなにも露骨な判定を 繰り返して勝とうとする国。その汚れた思惑に怒り、涙を流すチームメイトもいた。俺の誕生日も台無しだ。」 

※涙を流す守護神ブッフォン

忘れたい悪夢だった

失意のうちに帰国したイタリア代表は、さまざまな批判と同情を集めます。しかし多くの選手が語ったのは、早く忘れたいということでした。デル・ピエロは「もうこんな国に来ることは二度とないね」と吐き捨てて帰国しました。

※デル・ピエロ(右)

しかし決勝ゴールを決めたアン・ジョンファン(イタリアのペルージャ所属)が「韓国はイタリアサッカーを超えた」と発言してイタリア国内で物議を醸し、イ・チョンスが故意にマルディーニの頭を蹴ったことを告白するなどして、簡単に忘れることができない日々が続きました。

※決勝ゴールを決めた瞬間のアン・ジョンファン

当時ASローマの監督だったファビオ・カペッロは「私は世界中のサッカーファンが、記録の上では韓国の勝利となったが、記憶の上ではイタリアの勝利だと受け止められることを確信している。」と代表を擁護しました。

その後のスペイン戦でも

イタリアに勝利した韓国は、続くスペイン戦でも勝利しました。不可解な判定でスペインの2ゴールが取り消され、こちらも物議を醸す試合でした。スペイン代表のイヴァン・エルゲラは「この先二度とサッカーが出来なくなってもいい!だからあいつらを殴らせろ!」と試合後に吠えるなど、ここでも韓国のラフプレイと審判の偏ったジャッジが見られました。



スペインのエースストライカー、ラウール・ゴンザレスは「何度でも言おう。この試合(韓国対スペイン戦)は我々の勝利だと」と語り、イタリア同様にスペインの怒りは長い間続きました。

まとめ

私はうかつにもイタリア人に2002年のワールドカップの話をしてしまい、少し嫌な気分にさせてしまいました。日本人にとって2002年のワールドカップは自国開催であり、はじめてベスト16に進出した歴史的な大会でした。しかしイタリアにとっては、勝利を盗まれた屈辱的な試合になっていて、11年後の2013年にコパ・イタリアの決勝で「江南スタイル」で人気だった韓国人歌手PSYが登場したところ、激しいブーイングが起こりました。イタリア人は韓国に受けた屈辱を忘れていなかったのです。

これらの試合はFIFA公式DVD「FIFA創立100周年記念DVD」に「世紀の10大誤審」にも収められ、FIFAも認める誤審ということになっています。

次にこの夫婦に会うときは、もう少しポジティブなサッカーの話題をしたいと思っています。しかし最近のイタリアサッカーで、あんまり楽しい話題がないのが難点なんですよねぇ。。。


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※イタリアといえば生ハムです。

コメント

  1. 古い記事に何か申すのも何だが…モレノに抗議しているのはディビアッジョじゃなくてディリービオだよ。

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