悪童は大統領になるのか？ ロマーリオの変容

サッカーを見る人なら、ロマーリオを覚えているでしょう。ブラジルの天才ストライカーで、試合では面白いように得点していました。わずかな動作でDFやGKの意識をそらすと、サクッとゴールしてしまうので「スリ」に例えられたり「アニメの世界の住人」と、相手チームから感嘆されたりしました。

このロマーリオの現在の職業をご存知でしょうか？

1.ロマーリオの得点力

ペナルティエリアでボールを持つと、ほとんどゴールを決めてしまいます。ドリブルや切り返しも上手く、得点感覚に優れ、何より絶対的な自信に溢れていました。身長169cmとなっていますが、実際には165cmもないと言われる小柄さを活かし、低い位置からのヘディングも得意でした。予想を裏切る動きが得意で、相手をあざ笑うようなゴールが特徴でした。

※体格差が不利になることはありませんでした。

ブラジルのクラブチームに在籍中にブラジル代表に選ばれて注目されると、93年にはFCバルセロナに移籍が決まります。入団の際に30ゴールすると約束して、これを達成しました。これは野球に例えるなら、海外リーグからニューヨーク・ヤンキースに移籍する際に「50本ホーンランを打つ」と宣言して達成するような、むちゃくちゃな出来事です。

94年のW杯アメリカ大会では、明らかに本調子ではないのに5得点で得点王になります。2001年のW杯南米予選でブラジル代表が落選の危機に陥ると、「俺が出れば勝てる」と公言し、招集されると得点を重ねてブラジル復活の原動力になりました。

ロマｰリオは公式戦で1000ゴールを記録しましたが、当初は自己申請だったので怪しむ声もありました。そこで正式に調べたら、とっくに1000ゴールを超えていることがわかります。昨年、メッシとCロナウドの合計のゴールが1000を超えたと話題になりました。いかにロマｰリオの得点力が傑出していたかがわかると思います。

2.悪童の評判

練習嫌いで夜遊び好きのロマーリオは、

「俺はアスリートじゃなくてセンターフォワードだ。だから毎日の練習も節制も必要ないんだ」

と言い、試合が終わるとナイトクラブに直行していました。

ブラジルでは練習に参加したらニュースになった、なんて話もあるほどですが、チームメイトには練習を要求します。ちゃんとボールを奪って俺にパスできるようにしておけ、ということのようです。

明らかに練習場にいる時間より、女性とベッドにいる時間が長いロマーリオは、何度も監督と衝突しています。さらに守備をせず、味方にパスを出さず、チーム内で王様として扱うことを要求するロマーリオの態度は、多くの監督にとって頭痛の種でした。ロマーリオはクラブオーナーに「あいつ(監督)と俺のどっちをとるんだ？」と迫り、監督をクビにさせたこともあります。

試合中に味方の選手に平手打ちを浴びせ、相手チームの選手を殴り倒し、とにかくピッチの内外で騒動を起こしています。

3.悪童の涙

日韓ワールドカップの南米予選は、ブラジルにとって悪夢になりました。ライバルのアルゼンチンが、圧倒的な破壊力で得点を量産して勝ち続けるのに対し、ブラジルは得点力不足に悩んでいました。スター選手がズラリと並ぶブラジル代表には、ブラジル国内から凄まじい批判が浴びせられました。

格下のチリに3-0で負け、予選落ちの危機が高まると、監督の解任どころか全選手の入れ替えまで要求する声が上がります。そんな中、ロマーリオは「俺なら点を取れる」と公言し続けます。ブラジルの世論はロマーリオ待望論に傾きました。既に35歳のロマーリオに懐疑的なスコラーリ監督は、世論に押される形でロマーリオを招聘しました。

※ルイス・フェリペ・スコラーリ監督

2000年9月のボリビア戦に出場したロマーリオは、いきなりハットトリックを決めて、チームも5-0で快勝しました。さらに次のベネズエラ戦では4得点を奪い、驚異的な得点力を見せつけました。ロマーリオはブラジル復活の原動力になったのですが、同時にチーム内には不協和音も生みました。

ロマーリオは足の痛みを訴えて練習を休み、所属するクラブチームの試合には出場していました。スコラーリは激怒してロマーリオをスタメンから外すと宣言しますが、ロマーリオは「給料を払ってくれるクラブの試合には、無理をしてでも出るのは当然のこと」と、スコラーリを無視します。

さらに王様のように振る舞い、代表の中で当然のように特別扱いを要求するロマーリオの姿勢に、チームメイトが反乱を起こします。ブラジルサッカー協会は名前を伏せましたが、複数の代表選手が「ロマーリオがいるなら代表を辞退する」と、直訴してきたことを発表しました。スコラーリは、ロマーリオを代表から外すことを発表しました。

ロマーリオは記者会見で涙を流し、ブラジル代表に全てを捧げるつもりだと訴えました。しかしロマｰリオが代表に復帰することはありませんでした。

※記者会見で涙を見せたロマｰリオ

4.悪童の更正

ロマｰリオはブラジルで最も格好良い男でした。言いたいときに言いたいことを言い、そして結果を出すというのは、ブラジルでは最も男らしいイメージなのです。ですから圧倒的な人気を誇っていました。2010年にロマｰリオが下院議員選挙に出馬すると、圧倒的な得票率で当選しました。

※政治家になったロマｰリオ

当選したロマｰリオは貧困対策に奔走し、積極的に貧困層の子供達に会いに行き、福祉政策を推進しています。ロマｰリオが掲げているのは貧困対策、教育、治安などの問題で、ブラジルサッカー連盟も強烈に批判しています。その行動力と発言力は圧倒的で、今や国民から絶大な支持を受けていて、将来は大統領も夢ではないと言われています。

何がロマｰリオの身に起こったのでしょうか？05年に生まれた娘イビーがダウン症だったことが、ロマｰリオを変えました。「イビーは俺のプリンセスだ。かけがえのない存在なんだ」と公言し、どこに行くにも同伴させ、「娘の治療を通じて難病の子供達やその親たちに出会って、俺の人生観は一変した」と語ります。ロマｰリオは恵まれない子供達のために、残りの人生を捧げることにしました。

※娘のイビーと

5.まとめ

今後、ロマｰリオがどのような道を辿るのかわかりませんが、リオの市長選に出馬すれば当選は間違いないと言われています。サッカーで成功したブラジル人は多くいますが、政治家でもこれほど成功した例は聞きません。ロマｰリオはこれまで誰もなしえなかったことを実現するかもしれません。悪童から貧困層を救う政治家への転身は、あまりに意外です。だれもがロマｰリオは残りの人生を美女に囲まれて過ごすと思っていました。

ロマｰリオを変えたのは、ほんのちょっとした見聞と意識の違いでした。知っているように思っていることでも、実際に会って話すと違った印象を受けたりするものです。自分を変えるきっかけは、身近なところにあるのかもしれません。

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