狂気 /名作アルバム紹介02

名作アルバムを紹介するコーナー、第2回はピンク・フロイドの名盤「狂気」です。1973年の発表以来、アメリカのアルバムランキングを示すビルボード200に15年に渡りランクインし続け、カタログチャートでは30年に渡ってランクインした超ロングセールスアルバムです。



1973年のピンク・フロイド

ピンク・フロイドのサウンドに大きな影響を与えたシド・バレットが精神異常と薬物の乱用で脱退したのが68年です。当初はバレットのワンマンバンドだったため、残されたメンバーは途方に暮れたという話もあります。しかし70年にアルバム「原子心母」を発表すると、全英1位を記録する大ヒットになり、バレット抜きのピンク・フロイドが順調に船出をしていました。



71年にはアルバム「おせっかい」を発表し、これもヒットしたことでピンク・フロイドは野心的なアルバム作りにとりかかります。それが本作「狂気」です。コンセプトアルバムとして製作され、ロジャー・ウォーターズが全面的に作詞をしました。「狂気」は全世界的なヒットになり、ピンク・フロイドはイギリスの批評家が推薦するバンドというだけでなく、世界的なヒットメーカーに変身しました。「狂気」は72年発表のアルバム「雲の影」と同時進行で曲作りが行われ、レコーディングに膨大な日数を費やしています。

レコーディング

ロジャー・ウォーターズが人間の心の裏側を描き出すというコンセントを考え、1972年にはほぼ全ての曲が完成しています。それらをレコーディングの前にライブで披露し、観客の反応を見てアレンジを加えていきました。こうした試行錯誤を経てレコーディングが始まりました。



エンジニアのアラン・パーソンズは、録音したテープを貼り合わせる原始的な作業を繰り返し、「マネー」のレジの音だけで、実に30日にも及んでいます。こういった手法が身を結んだため、のちにサンプラーなどが開発されることになります。これら地道な作業は半年も及び、あまりに長期間になったために、自分たちだけでは良し悪しが判断できなくなります。そこで第三者の意見を求めて、クリス・トーマスが招かれました。

アメリカでの成功

73年3月にリリースされると、広大な空間を感じさせる音作りと、徹底的に立体化された音に多くの人が驚き、一気にヒットチャートを駆け上がります。4月にはビルボード200で1位を獲得し、ピンク:フロイドにとって初の快挙になりました。収録曲の「マネー」はアメリカでシングルカットされ、ビルボード・シングルチャートで13位を記録しました。しかしシングルカットの際に、メンバーに無断でギターソロがカットされており、ピンク・フロイドが激怒したようです。

念願のアメリカでの成功を収めたピンク・フロイドは、これ以降はどのアルバムも大ヒットする快進撃を続けることになります。5大プログレバンドと呼ばれた、エマーソン・レイク・アンド・パーマー、イエス、ジェネシス、キング・クリムゾンらより一歩抜きん出る存在になったのは、この「狂気」によるところが大きいと言われています。

収録曲

1. スピーク・トゥ・ミー - Speak to Me
2. 生命の息吹き - Breathe
3. 走り回って - On the Run
4. タイム〜ブリーズ(リプライズ) - Time〜Breathe
5. 虚空のスキャット - The Great Gig in the Sky
6. マネー - Money
7. アス・アンド・ゼム - Us and Them
8. 望みの色を - Any Colour You Like
9. 狂人は心に - Brain Damage
10.狂気日食 - Eclipse

レコードでは「虚空のスキャット」がA面の終わりで、B面は「マネー」から始まります。この間だけ音が途切れており、他は音が全て繋がっています。「虚空のスキャット」は狂気じみたスキャットが続く印象的なナンバーですが、このスキャットを歌っているのはクレア・トリーという歌手です。彼女はアラン・パーソンズに電話で呼ばれ、説明を聞いても何をしたいのかさっぱりわからず、即興で3テイクを歌ったそうです。のどが渇くとデイブ・ギルモアからハイネケンのビールをもらい、それが報酬の全てだったと語っています。

※クレア・トリー


特別なアルバム

1994年、アルバム「対」を発表した後のツアーで、「狂気」の全曲が演奏されました。コンサートでアルバム丸ごと演奏というのは異例で、しかも19年ぶりの演奏ということもあって大きな話題になりました。改めてピンク・フロイドにとって特別なアルバムであることが再認識され、ツアーそのものもピンク・フロイドの歴史に刻まれる大規模なものになりました。

当時はまだ高価なレーザー光線が多用され、巨大なステージと大規模なセットは採算を度外視していると言われました。ピンクのレーザーが乱射される中、上空から巨大なUFOが現れ、さの中から巨大なピンクの豚が現れて目からピンクのレーザーを乱射する演出には、もはや笑うしかありませんでした。膨大な光量を使用したため、その光は月まで届くと言われたほどです。



ちなみにこのツアーには、ロジャー・ウォーターズは参加せず、駐車場には至るところにウォーターズの復帰を願うビラが配られていたそうです。

まとめ

ピンク・フロイドの代表作というだけでなく、プログレッシブ・ロックの代名詞的なアルバムの一つが「狂気」です。アナログ的手法で手作りされた立体感のある音は、今でも輝きを失っていません。なぜこれほど長期間にわたって売れ続けたのか、それは聴いてみればすぐに分かると思います。シンプルな構成の曲が多いのに、これほど不思議な感覚に陥るアルバムは、それほど多くはありません。まさに傑作アルバムだと思います。


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