まだヒートテックが暖かいと信じている人へ

2003年にユニクロが発売したヒートテックは大ヒット商品になりました。ヒートテックは東レとユニクロが共同開発した新素材の名前で、吸湿発熱の原理を利用した冬でも暖かい素材です。その評判は一気に広がり、利用者は爆発的に増えていきました。今やヒートテックは冬にはなくてはならないものになっています。その一方で、実際に買ってみたけど暖かくないと言う人もいます。そして中にはヒートテックは体を冷やすと言う人もいます。そこで今回は、冬用のインナーについて書いてみたいと思います。



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ヒートテックの原理

ヒートテックは吸湿発熱を利用していると書きました。要するに人体が発する汗を利用して発熱するもので、水分が乾く際に出る気化熱を利用して暖かくなる仕組みです。こう書くと最先端のテクノロジーをふんだんに使っている気がしますが、綿やウールが暖かいのも同じ理由で、古くから防寒に使われていた原理です。最先端の技術を使っているように錯覚しがちですが、言ってみれば当たり前のことを言っているに過ぎないのです。



ヒートテックのポイントは、これを薄手の生地で実現したことです。吸湿発熱を行うには、一定の水分が生地に浸透して、同時に乾かなくてはいけません。そのため生地が厚い方がこの効果を得やすいのです。Tシャツよりセーターが暖かい理由の一つがこれです。しかしヒートテックはペラペラの素材なのに、この吸湿発熱を持続して可能にしているとうたっています。

本当に暖かいですか?

03年の発売直後から話題になり、妻が買ってみようと騒ぐのでユニクロに出かけて買ってみました。正直言って、感想は微妙でした。というか、既に持っているキャンバーやチャンピオンの厚手のTシャツの方が暖かいと感じました。やはりヒートテックは、薄手のTシャツなりのものです。それでも微妙と書いたのは、サイズ選びを間違えなければ体にピッタリ張り付くので、従来のユニクロの薄手のTシャツよりは暖かく感じるからです。

私はこのヒートテックの暖かさの評判の大半は、この感から来ているように思います。体にピッタリ張り付くインナーは、摩擦熱によっても発熱します。ところがなぜかゆるゆるサイズのTシャツをインナーとして着る人が多くいます。友人と買い物に行くと「その体でLサイズ??」なんて思うことは多く、オーバーサイズで着る人が結構いるのです。国産のインナーTシャツの中には、ゆるく着るのを前提に作っているものも多く、体にピッタリ合わせて着ようとすると丈が足りないものがあります。一方でアメリカ製のTシャツは、日本人より胸板が分厚いアメリカ人に向けて作ってあるので、体にピッタリ合わせようとすると肩幅が合わないことがあります。



このようにインナーTシャツで体にピッタリ合わせようとすると、案外探すのが大変だったりしました。ところがヒートテックは丁度よい感じで体にピッタリ合うように作られていて、丈が足りなくなることもありません。ヒートテックが暖かく感じるのは、単に体にピッタリと張り付くサイズだからではないかと思います。最初の吸湿発熱の話に戻ると、そもそもこれほど薄い生地だと、あっという間に水分が飽和してしまいます。そのため速乾性の生地でなくてはならないのですが、素材を見ると綿とレーヨンです。なぜこれが暖かい生地になるのか、私にはわかりませんでした。

案の定と言うべきか、暖かくないという声もちらほら聞こえるようになり、一部の雑誌には「ヒートテックが吸湿発熱で暖かかく感じるのは、着てからせいぜい数分間」という記事も出るようになりました。

冬の登山では絶対に着てはいけないヒートテック

登山をする人は口を揃えてヒートテックを着てはいけないと言います。私の友人は登山初心者を冬山に連れていく際に、「ヒートテックを着てると死ぬよ」と脅かしていました。死ぬのは大げさにしても、ヒートテックが体を冷やすので着てはいけないというのは登山家の間では常識になっています。理由は素材に使われているレーヨンです。レーヨンは汗で濡れた際に、乾くのが遅くなります。一度汗をかくと、いつまでも濡れて生地がベタベタと肌に張り付くのです。



そのため登山の際に汗をかくと、外気が低温なのでシャツが冷やされてしまいます。濡れたシャツで冷えた体は体温を上げようとするので、どんどん体力を奪われることになります。冬山の登山では速乾性のインナーが必要で、アウトドアショップには多くの登山用のインナーが売られています。冬山でヒートテックを着るくらいなら、綿100%の普通のインナーの方がはるかに汗が乾きやすいので、まだましということになります(ただし一般的には冬山で綿100%のインナーは、大抵の場合は凍えます)。これはスポーツをする際にも言えることで、冬場のスポーツにはヒートテックは最も向かないインナーになります。

暖かいインナーは環境によって変わる

これまで書いたように、汗というのは防寒を考える時に大きなポイントになります。そこで重要なのは、汗をかく環境なのかかかない環境なのかということです。登山、スポーツ、建設作業などは寒い中で汗をかく環境ということになります。一方で釣り、交通整理のガードマン、キャバクラの呼び込みなどは、寒い中でじっと座るか立っているのであまり汗をかきません。つまり登山と釣りでは、防寒といっても全く考え方が異なるのです。

これはインナーだけでなく、アウターなども含めたレイヤリング(重ね着)でも全く異なった考え方になってくるのですが、今回はインナーの話なのでそちらは割愛します。とにかく重要なのは、暖かくしたい環境が、汗をかく場なのかかかない場なのかをしっかり分けることです。そして汗をかく環境では、ヒートテックは全く合わないアンダーウェアと言えるでしょう。

汗をかく環境の暖かいインナー

ここ数年、最も注目を集めているのがメリノウールです。冬は暖かく夏は涼しく、汗冷えしないし臭いも気にならないと、万能の素材のように言われています。メリノウールは優れた素材であることは間違いないのですが、万能の素材などあるはずもなくメリノウールにも弱点はあります。ウール素材なので、暖かさは間違いありません。速乾性もあり汗冷えもしにくいのですが、急な発汗には弱いと言われています。ジョギングのように徐々に汗をかくような環境には良いですが、スキーのように滑るときに一気に汗をかき、リフトに乗るときは風にさらされることを繰り返すような環境で、汗っかきの人から蒸れるという声が出ています。


※メリノウールで最も人気が高いアイスブレーカー

メリノウールは幅広い範囲で活躍できるのは間違いなく、そのため多くの支持を集めています。最大の欠点は高価という点でしたが、最近では徐々に安いものも出るようになりました。ただし金額によって性能差もあるようで、使う環境によって選ぶ必要があります。特に大汗をかくような環境では避けた方が良い場合が多いと思います。


※メリノウール100%のスマートウールはバランスの良さで人気です。


では速乾性に優れた素材はというと、これは化繊が圧倒的に優れています。汗をかいてもすぐに乾かしてくれるので、ほとんどの時間を快適に過ごせます。アウトドアメーカーが続々と新商品を出していて、速乾性と価格を競っているようです。そのおかげで買いやすい商品がずいぶんと増えてきました。


※モンベルのジオラインは汗の速乾性に定評があります。



※ノースフェイスのホットクルーも同じく速乾性があると評判です。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]
○ノースフェイス NU65152・L/Sホットクルー
価格:6358円(税込、送料別) (2019/12/16時点)


そして今最も注目が集まっているのは、コンプレッションウェアです。着圧ウェアとも呼ばれるもので、伸縮性が高い生地を使うことで体にピッタリと張り付きます。スポーツウェアとして発展したものですが、暖かさと疲労の軽減効果が建設現場の作業員などにも支持されています。作業着の大手ワークマンが積極的にコンプレッションウェアを推していて、使用者が一気に広がりました。素材はポリエステルやポリウレタンを中心にした化繊で、汗をかいても速乾性が高いことでも人気があります。


※ジャウィンの裏起毛コンプレッションは、コスパが良いと言う人が多いです。


汗をかかない環境の暖かいインナー

やはりメリノウールは汗をかかない環境でも良い素材です。薄いのに暖かいというのが特徴で、汗は水分になると吸いにくいようですが、蒸気の状態だと抜群に吸って乾かしてくれます。あまり汗をかかない環境なら、メリノウールが強い味方になるのは間違いありません。

汗をかかない環境なら、天然素材の方が暖かいので有利です。綿100%の厚手のインナーは、保温性も高いので暖かく感じます。6オンス以上の厚手のものなら、多少の汗なら飽和してベタベタになることもありません。静かに人気なのがベルメゾンのホットコット100シリーズで、汗をかかない環境ならかなり暖かいと評判です。通常のホットコットは綿95%ですが、100とでは肌触りが全く違います。


※ベルメゾンのホットコット綿100シリーズ


※8オンスの驚異の厚さを誇るキャンバー


またヒートテックに代表されるレーヨンを混ぜた吸湿発熱系のインナーも、汗をかかない環境なら十分に使えます。その場合も、あまり薄手のものではなくある程度の厚さがある方が暖かさも増していきます。その点、インデラミルズのサーマルシャツは汗をあまりかかない環境ならとても暖かく、価格も手ごろなのでお勧めです。サーマルシャツは寒暖差が激しい時に、特に有効だと思います。



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まとめ

インナーにはさまざまな種類が出ていますが、ヒートテックはインナー全体を見渡すと決して暖かい部類には入りません。汗をかく環境では、むしろ体を冷やす部類に入ります。それでも圧倒的な支持を得ているのは、価格の安さがあるでしょう。ヒートテックは汗をかかない普段の生活なら問題なく使えますが、寒いと感じる方はもう少し厚手の天然素材のインナーを使う方が良いと思います。女性の中には「ババシャツの方が暖かい」と言う方もいますが、生地の厚さが違うのでババシャツの方が暖かいのではないかと思います。

インナーは直接肌に触れる部分なので、寒さ対策をする場合には十分に検討するべきです。ヒートテックなら大丈夫と盲目的に言う人もいますが、場合によっては最悪の選択になるということも覚えておいてください。

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