サンタクロースの警備をするアメリカ軍 /NORADが展開する年末最後の大作戦

1955年12月、アメリカ軍大陸防空司令部の赤い電話が鳴りました。時は冷戦時代で、ソ連からの核攻撃に備えて空を警備していた防空司令部に緊張が走ります。ハリー・ショープ大佐が電話に出ると、幼い女の子の声で質問してきました。「あなたはサンタクロースですか?」と。



1948年12月24日

大陸防空司令部は、この日に未確認飛行物体に関する発表をしました。早期警戒レーダーが、高度4300メートル上空で8匹のトナカイを動力源とする未確認のソリを検出したというのです。この発表はAP通信によって、アメリカ各地に配信されました。

アメリカ軍のジョークですが、これが大きな話題になったという記録もなく、ほんの軽い冗談だったのでしょう。翌年は、このような発表はされず、軍の気まぐれなジョークでした。

1955年12月24日

冒頭の電話の場面です。赤い電話はペンタゴン(国防総省)とのホットラインでした。ショープ大佐は緊張して電話に出ます。「ショープ大佐です」と電話に出ても相手は何も言いません。「ショープ大佐です」と再度の呼びかけにも相手は何も言いません。「大丈夫ですか?」と質問すると、女の子の声で「あなたはサンタクロースですか?」という質問が聞こえてきました。唖然としたショープ大佐は部下の誰かがイタズラをしていると思いましたが、部下たちは緊張した面持ちでこちらを見ています。

※ショープ大佐


そこでショープ大佐は、何かの手違いでかかってきた電話だと気づきました。「はい、そうですよ。君はいい子にしてたかな?」とショープ大佐が答えると、少女はサンタとトナカイのために夕食を残してとっておくと説明しました。少女の気遣いに感謝を述べて電話が終わると、すぐに赤い電話が鳴りました。電話は一晩中鳴り続け、ショープ大佐は部下にサンタになって対応するように指示しました。

そしてスーパーマーケットのシアーズが、クリスマスにサンタとのホットラインサービスを展開していたことを知ります。その広告の電話番号は間違って印刷されており、それがたまたま防空司令部の赤い電話の番号だったのです。これをきっかけに、防空司令部はサンタクロースの追跡を始めることになりました。

他の説

一般的には上記の説が言われていますが、どうやら事実は少し違うようです。ショープ大佐は間違い電話に苛立ち、無愛想に電話を切ったようです。しかし12月に防空司令部が未確認飛行物体を発見し、追尾を開始した時に、スタッフの1人が未確認飛行物体の代わりにサンタの顔をボードに貼り付けました。それを見たショープ大佐は面白いと感じ、報道官にサンタを追跡していると発表するように伝えました。報道官は「アメリカ軍はサンタクロースを信じない人々からの攻撃を懸念し、アメリカ上空を通過中のサンタクロースを追跡し、安全を確保します」と発表しました。これ以降、アメリカ軍はサンタの追跡を行うことになりました。

※アメリカとソ連のホットライン電話


しかし防空司令部のホットラインは、特定の相手としか通話できないのでダイヤルすらなく、外部から電話はかけられないという話もあります。シアーズの広告が間違っていたのは事実ですが、それがたまたま防空司令部にかかってくることはないというわけです。しかしアメリカ軍の大佐と少女の会話が面白く、こちらが一般的に広まったようです。いろいろな説がありますが、ここで最も大事なのは、サンタの追跡が1955年から、現在まで続いているということでしょう。

1958年に防空司令部が解散し、北アメリカ航空宇宙司令部(NORAD)に統合されても継続しています。

追跡方法

アメリカ北部の国境に47箇所設置してあるレーダーを使った、北部警告システムがサンタが北極圏を出発した瞬間に察知します。サンタがカナダ領域に入ると、カナダ空軍の戦闘機CF-18が発進してサンタに合流するとエスコートを開始します。サンタがカナダでの仕事を終えると、カナダ軍はアメリカ軍に連絡してサンタのエスコートの引継ぎを行います。

※CF-18ホーネット


またアメリカ軍の軍事衛星が、トナカイのルドルフの赤鼻から発する熱を頼りに赤外線探知をしていて、サンタの位置がリアルタイムでわかるようになっています。アメリカ領域に入ると、アメリカ空軍のF-15またはF-16またはF-22戦闘機がエスコートを開始します。この作戦はアメリカの全軍が参加しており、NORADの追尾システムを補完する動きをしています。航空母艦、原子力潜水艦、地上レーダーなどがフル活用され、サンタのコードネーム「ビッグ・レッド・ワン」の位置情報が次々にNORADに集約されていきます。時にはイギリスなども参加した多国籍原潜部隊が協力しているそうで、時にはその年の最大規模の作戦になることもあるようです。



実際問題、サンタは一晩で世界中を回るほど高速で動いているため、米軍の戦闘機のエスコートを受けるためにサンタはスピードをかなり落としているようです。ですから、もしサンタがあなたの家に来るのが遅れても、サンタの責任ではありませんと空軍の関係者が語っています。NORADの司令部には大規模なボランティアが招かれ、子供たちからのサンタの問い合わせに対応しています。近年ではスマホ用アプリを開発して、スマホでサンタの位置がわかるようになっています。

豊かさの象徴

このようなことに全軍が協力するというのは、いかにもアメリカらしい話です。もちろん軍事演習を兼ねているのでしょうが、子供たちのために軍隊が総出で活動するというのは、ジョークを理解する余裕と資金がなければできないことです。こういうところに、アメリカの豊かさや大国の余裕を感じることができます。

日本で自衛隊が同じことをやったら、税金の無駄遣いだと批判が多く出るような気がします。

まとめ

始まりには諸説ありますが、アメリカ軍がサンタクロースを「ビッグ・レッド・ワン」のコールサインで、大規模な追跡を毎年行っています。陸海空、そして宇宙空間を使った核ミサイル並みの追跡劇がクリスマスイブの夜に行われるのです。一見、バカバカしい気もしますが、サンタクロースをエスコートするパイロットは名誉な仕事だそうで、人気が高いそうです。子供にも自慢できますしね。このようなことを続けられることが、アメリカが大国の証なのだと思います。

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