誘拐犯と呼ばれる日本人女性たち /ハーグ条約に加盟しない日本

アメリカで誘拐犯として指名手配されている日本人女性が多くいます。彼女たちは普通の主婦で、犯罪に関与したことのない人がほとんどです。しかしアメリカに足を踏み入れた途端、誘拐犯として逮捕されます。そして逮捕されれば陪審員の同情をかうのは難しく、実刑は間違いないと言われています。なぜそのような日本人女性が大勢いるのか、今回はその話です。


ハーグ条約

欧米の多くの国では、両親が離婚した場合に子供が親と生き別れになることを良しとはしていません。そのため離婚が成立しても、子供が親に会う権利を明確に規定しています。もちろんDVが原因で別れた場合は別ですが、母親に親権が渡った場合でも、月に1度は父親の家に泊めるなどの決まりを裁判所が決定します。これは強力な権利で、正当な理由なく母親が子供を父親に会わせなかったりすると、裁判所の命令で親権の剥奪などが行われます。それにも従わなければ、警察に逮捕されるのです。


では国際結婚の場合はどうかというと、欧米の各国はハーグ条約というのを結んでいて、国をまたいで子供の権利を守っているのです。ところが日本はハーグ条約に加盟していません。日本では「子供が双方の親を行き来する共同親権の制度がない」「親権のない親の面会権が保証されていない」「養育費の支払いについて、法的な拘束力がない」といったことで、加盟の条件を満たしていないからです。

クリストファー・サボイ事件

2009年に日本で起こった事件で、ハーグ条約に絡んで逮捕者が出ました。サボイ氏はテネシー州で日本人女性と結婚し、子供を2人もうけました。しかし離婚することになり、離婚調停では「母親はテネシー州に住み続けて、子供は父親との面会を続けること」「母親は夏休みに限り、子供を日本に連れて帰ることができる」と決められました。

※クリストファー・サボイ氏と子供達

しかしサボイ氏は、日本人の多くが子供を日本に連れ帰ると、そのままアメリカに帰ってこない例が多いことを理由に、夏休みの帰国を停止する命令を裁判所に迫りました。母親の猛抗議でこの命令は撤回されましたが、これで母親は子供を日本に連れて帰れなくなるかもしれないと危機感を抱きます。そして母親は父親にも裁判所にも連絡することなく、子供を連れて日本に帰ってしまいました。この行動はアメリカでは立派な誘拐です。テネシー州では大騒ぎになり、母親の親権剥奪を宣言すると同時に逮捕状を発行しました。

しかしこれはアメリカの法律であり、日本にいる母親には何ら効力がありません。そこでサボイ氏は日本に乗り込み、2人の子供を連れてアメリカ大使館に駆け込むことにしました。しかし母親は先回りしていて、そこには母親が日本の警察と一緒にいました。サボイ氏は日本の法律で、誘拐罪で逮捕されてしまったのです。

どちらに非があるのか?

法的には母親はアメリカで誘拐の罪を犯し、父親は日本で誘拐の罪を犯したわけです。その意味では両者に非があります。事の発端は母親が法を無視して子供を日本に連れ帰ったわけですから、母親を批難する声は日本国内にもありました。しかしアメリカでの生活経験がない母親が離婚して、頼る人もいない状況で子育てをしなくてはならないことを考えると、一概に悪いと決めつけるのもどうかと思います。

※会見するラモン下院議員とサボイ氏(右から2人目)

サボイ氏は日本では誘拐罪になることをしましたが、似たようなケースで子供と生き別れになってしまったアメリカ人は多くいて、そのほとんどが解決していません。そのためリスクを冒しても子供を守りたかったという気持ちも理解できます。こちらも単純に父親が悪いとは言えないように思います。

未確認の情報

一部のリーク記事によると、サボイ氏は九州大学に留学していて、その時に知り合った女性と結婚したそうです。15年間日本で暮らし、子供も日本で育ちました。しかしサボイ氏の事情でサボイ氏がアメリカに帰り、3年間の別居を経て母親がサボイ氏の元に向かうと、そこには別の女性がいて離婚になったそうです。これが本当なら、この事件の見方が少し変わってきます。しかしこれが事実か確認することはできませんでした。

似たケースは多い

サボイ氏の事件は逮捕に至ったので話題になりましたが、アメリカで離婚して裁判所命令を無視して子供を日本に連れ帰るケースは多くあります。中には英語がほとんど話せず、手続きの仕方もわからず、とにかく離婚したのだから日本に帰ってしまえと勢いで帰ってくる人もいて、アメリカで指名手配犯になっている人は多くいるのです。


離婚にもさまざまなケースがあり、DVは受けていないがその恐れを感じて離婚したケースなどは、とにかく旦那から逃げたい一心で行動した場合もあり、DVの可能性も英語が不自由なために裁判所で説明することも弁護士を雇うこともできなかったために、事態をこじらせてしまう場合もあるようです。

日本もハーグ条約に加盟するべきか

正直言って、日本には馴染みにくいと思います。北海道と沖縄出身のカップルが、東京で結婚生活を始めることは珍しくありません。離婚したら親元に一旦は帰る女性が多いのですが、この制度ができると二人とも東京から離れられなくなります。

しかし一方で、養育費を決めておきながら払わない男性も多く、払わないからといって打つ手がほとんどないのが現状です。また養育費を真面目に払っていても、相手が田舎に帰ってしまって子供に全く会えず進学の相談に乗ることもできず、ただお金だけを払うということも起こっています。ハーグ条約に加盟するための法整備を進めれば、こういった問題は解決します。



繰り返しになってしまいますが、そうはいっても日本には馴染みにくく、法案を提出してもなかなか決まらないだろうと思います。

まとめ

どのように解決するのが一番良いかわかりません。日本国内には感情的に帰ってきた母親を擁護する声もありますが、それらはかえって事態を悪化させるように思います。なんとなくトランプ大統領は、この手の問題に関心がなさそうな気がしますが、人権派の大統領が誕生した場合に、これが一気に外交問題に発展する可能性もあります。誘拐犯になってしまう人が増え続けている現在、この問題はもう少し日本で語られるべきだと思います。



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