なぜ人は陰謀が好きなのか:御巣鷹山の日航機

先日、数人で話していると御巣鷹山に墜落した日航機は、撃墜されたのだと熱く語る人がいました。いわゆる陰謀論です。「大勢の人が死んだ事件を、面白おかしく話すのは止めた方がいい」という忠告も通らず、「真実が葬られた」と本人はいたって真面目でした。なぜ陰謀論というのは、多くの人に好かれるのでしょうか。

※御巣鷹山の墜落現場

関連記事:御巣鷹山に日本航空123便が落ちてから33年

日本航空123便の陰謀論

1985年に御巣鷹山に落ちた日本航空123便に関しては、さまざまな陰謀論があります。その一つに自衛隊と米軍が共同で特殊部隊の極秘訓練を行っていて、誤ってミサイルを発射して123便の垂直尾翼に命中したというのがあります。証拠隠滅のために、123便は自衛隊機によって撃墜されたというのです。これらの陰謀は、前提がおかしいため荒唐無稽と言うしかありません。


誤解されている政府の圧力

もしこれが本当なら、ボーイング社は黙っていません。この事件の事故報告書は、尻もち事故の修理が原因で圧力隔壁が壊されたとされています。飛行機に原因があるとされたわけで、世界中でボーイング社への不安が残りました。墜落したのはボーイング社の主力商品の747です。飛行機以外に墜落の原因があり、それを政府が隠蔽した可能性があれば、政府を相手取って裁判を起こしていたはずです。ボーイング以上に敏感なのは、ボーイングの株主達です。彼らはこの事件で莫大な損失を出しました。損失が事故ではなく、政府が故意の撃墜なら莫大な損害を請求する訴訟を起こします。

陰謀論では政府の圧力は絶対視されますし、日本では政府はお上(おかみ)であり、お上の言うことは絶対という名残があります。しかしアメリカではそんなことはありません。今年の春にトランプ大統領がロッキード・マーティン社に戦闘機のF35の価格が高すぎると迫り、値下げさせたという報道がありました。ある新聞は「ロッキード社はトランプ大統領の圧力に屈した形だ」と書きました。これは非常にナンセンスで、そもそも値下げすることが決まっていた中で、トランプ大統領がパフォーマンスを行ったに過ぎません。


大統領よりはるかに怖い株主

もしロッキード社がトランプ大統領の圧力に屈して値下げをしたなら、株主達は怒ってすぐに社長を解雇する動議を発動したでしょう。しかし値下げしても利益を確保していたために、株主は満足していました。確かに政府の圧力は強力ですが、トランプ大統領はどんなに叫んでも社長をクビにはできません。しかし株主達は簡単に社長をクビにできるのです。アメリカの大企業の社長は、大統領に凄まれたぐらいで怯むようでは務まらないのです。ましてや政府が撃墜し隠蔽し、責任をボーイングに押しつけたとなれば、その可能性があるだけでも株主達は黙っているはずがないのです。

ボーイングは納得した

日本航空123便に関しては、ボーイング社も事故報告書に不満はあったようですが、一応は納得しました。もし撃墜の可能性があれば、ボーイングだけでなく株主が集団訴訟をしたでしょう。あの事故でボーイング社と株主の損失は天文学的な額になります。日米の政府を訴えて、損失を取り戻そうとしたはずです。事故報告書が100%正しいかはともかく、真実にかなり近いと思われます。

※事故機と同型のボーイング747

陰謀論は面白い

単純な修理ミスよりも、陰謀論の方が楽しいので広がります。911ワールド・トレード・センター・ビルの崩壊や東日本大震災などでもそうですが、真実よりも面白いから広まるのであり、悲惨な事故や事件をネタに楽しんでいるのだと思われます。事故報告書は専門用語だらけで、難解で読んでいて面白いものではありません。しかし陰謀論は誰でも楽しめる単純さに加えて、悪と善がいるのでわかりやすい物語に置き換えられるのです。それに加えて、昨今のメディア不信が拍車をかけているのではないでしょうか。


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