放射線測定のカオス

※こちらは以前の「はねもねの独り言」に書いていた記事です。

放射線測定器(以下サーベイメータ)が売れていますね。知人からどれがいいか相談されたのですが、私が指定した機種はどれも売り切れだったようです。もっとも私が言った機種は行政が使っている機種と同等のものだったので、行政がジャンジャン購入しているので品薄なのは必然だったようです。しかし多くの方がサーベイメータを購入してはいるものの、さまざまな混乱が起こっているみたいですね。

混乱する要因を挙げてみたいと思います。



1.サーベイメータの玉石混交
震災後に売れるものだから急に作り出したメーカーがあったり、そもそも高汚染エリアで使うものだったり(関東のような低汚染エリアでは正確に測れない)、あるいは明らかな欠陥品だったりするものまで売られています。国民生活センターがネットで売れている9機種を調査した結果、どれも正確には測れないという結論になったなんて話もありましたね。


2.サーベイメータの誤使用
さすがにハンディタイプのサーベイメータで食品の汚染を測るような間違いはなくなったみたいですが、それでも誤使用は散見されます。例えばガイガーミュラー管を使うタイプで、空間のγ線を測る際にはアルミのキャップをつけて測るものがあります。間違えてキャップを外して使うと、本来の値の数倍から数十倍の値が表示されます。もちろん取扱説明書には書いてあるのですが、物によっては英語の説明書しかないなんてものもあるので、こういう間違いは起こるようです。誤使用の例は、挙げればキリがありません。


3.測定方法が未統一
低い空間線量を測る方法が統一されていないという問題もあります。一応、原子力安全委員会の「緊急時環境放射線モニタリング指針」というのがありますが、ここに書かれているのは「取説通りに点検してね」「地上1mで大地と平行にして測ってね」「10秒間隔で5回以上測って、平均値を出してね」とあるだけです。では室内ではどうやって測るの?屋上に人が集まる場所ではどうする?などの疑問が出てきます。ただこの最低限のルールも浸透していないので、電源を入れて地面に近いところに置いて1回だけ測り、その数値で騒いでいる例もあります。温度計と同じで、電源を入れたすぐなんて値は不正確なんですけどね。


4、公的な安全値が不明
某大学の先生は、自然放射線量は年間1mシーベルトと法律に定められているとテレビで連呼していましたが、そのような法律は私が知る限りありません。この先生が根拠にしていた法律には、放射性物質を扱う施設の排気や排水に含まれる放射線は、年間1mシーベルト以下にしてねと書いてあるだけです。施設の周辺に年間1mシーベルト近く放出すると、自然放射線があるので線量計で測った数値は1mシーベルト超えるはずです。

ちなみに原子力安全委員会が出した「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」には、「わが国においては長期にわたる防護措置のための指標がなかった」と書かれていて、被爆の判断の「めやす」を定めています。この「めやす」が例えば環境省が震災後に作った「放射性物質汚染対処特措法」にも使われていて、被爆が軽い地域においては追加被曝線量が年間1mシーベルト以下になることを長期的に目指すと書かれています。

ここで注意が必要なのは「追加被爆線量」と書かれていることで、線量計で測った数値が年間1mシーベルト以下になるようにするわけではないことです。あくまでも原発事故によって追加された線量だけに限定しているので、自然放射線と追加被爆を厳密に分けないといけないんですね。従って、線量計で測っていくつなら安全と言えるものは法的には存在せず、年間1mシーベルトという単位だけが一人歩きしているので混乱を巻き起こしているようです。


5.では安全値はいくつなのか
私にはわかりません。さまざまな学者がさまざまな見解を述べていて、示す数値もバラバラです。年間1mシーベルトでも危険という人から、月100mシーベルトでも大丈夫という人までいて、その差1200倍以上という攻防が行われています。しかし確実に言えるのは、同じ量の放射線を浴びるにしても1度に浴びるのと1年間でジワジワ浴びるのでは効果が全く異なるということです。

例えばドジっ子が転んで頭にコブを作って泣いたとします。衝撃は複数の脳細胞を破壊し、内出血を引き起こしますが数週間で完治します。このドジっ子が毎月転んで年間12回コブを作っても、健康体であれば完治するでしょう。しかしこの12回分の衝撃を1度に受けると、頭蓋骨を骨折して命の危険にさらされます。人間は自然治癒力があるので、軽度の被害なら治ってしまうのです。

個人的には、安全値を低く言う学者はこの自然治癒力を無視するか軽んじている傾向があり、高い数値を言う学者は自然治癒力を過大評価しているように思います。もっともこの論争は科学的でも医学的でもなく、イデオロギー闘争の側面が強いので結論なんて期待できないんですけどね。


というわけで、私は個人が線量計を購入することにはあまり賛成しません。目的に合わないものを買ってしまったり、欠陥品をつかまされる可能性がありますし、測り方も十分な注意が必要です。そして測った値の判断ができないケースがほとんどですから、数万円も出す意義が見当たらないのです。それでもどうしても購入したい方は、十分に調べてから購入してください。








にほんブログ村 ニュースブログへ
にほんブログ村

コメント

このブログの人気の投稿

アイルトン・セナはなぜ死んだのか

バンドの人間関係か戦略か /バンドメイドの不仲説

懐中電灯は逆手に持つ方が良いという話

消えた歌姫 /小比類巻かほるの人気はなぜ急落したのか

TBSが招いた暗黒時代の横浜ベイスターズ /チーム崩壊と赤坂の悪魔