とても残念な「藁の楯」 /予告編が最も面白かった映画
2013年に公開され、カンヌ映画祭で酷評された映画「藁の楯」を見ました。期待値マイナス50くらいで見たので、世間の酷評ほどつまらないとは思わなかったのですが、ツッコミ所満載の映画なのは間違いないですね。役者の熱演に緩い脚本という邦画にありがちな展開でしたが、設定は面白いので残念な気がしました。今回は映画「藁の盾」をネタバレ全開で書いてみたいと思います。
全国から狙われる清丸を警視庁に移送するため、SPの銘苅(めかり)警部補、白石巡査部長、警視庁捜査一課の奥村警部補、神箸巡査部長が選ばれ、福岡県警の関谷巡査部長が加わり5人が加わります。しかし清丸の命を狙うのは一般市民だけでなく警察内部にもいて、過酷な移送が始まりました。
ワンシーンに力を入れて、全体の流れを気にしないことが多く、辻褄なんて細かいことを気にしないでドーンと面白さを追求するする男らしい演出が目立ちます。矛盾してようが、前後で噛み合わないことがあろうが、とにかく突き進めて盛り上がろうという感じです。
その三池崇史がメガホンを取ったことで、「藁の楯」の前半はとても盛り上がりました。
このようなスケールの大きなアクションは前半に集中していて、新幹線を降りて徒歩になってからは物語が一気にスケールダウンします。まるで高速道路と新幹線で予算を使いつくしたような失速ぶりで、鷹揚のない地味な展開になってしまいました。
永山絢斗演じる神橋巡査部長は何かにつけて噛みつき、何かと吠えてばかりの鬱陶しいキャラで、彼が死んでもなんの感情もわきませんでした。
岸谷五朗演じる奥村警部補は何を考えているのか分からず、裏切りの理由も説明されることなく、何がなんだかわからないまま舞台を去ります。神箸の死を報われないとか言いつつ、結局は裏切り者だったために小悪党にしかなり得ません。
松嶋菜々子演じる白石巡査部長はシングルマザーですが、母親らしさを見せるのはメールの一文だけでしかありませんでした。清丸の殺害をほのめかす以外は出世ばかりを気にしているキャラなので、殺された時にも「やっぱりか」という感想しかありませんでした。
主人公は大沢たかお演じる銘苅警部補ですが、妻の死の怒りを清丸に向けるのは無理がある気がしました。清丸が社会的なクズとはいえ、妻を殺したのは酔っぱらい運転手であり、清丸を殺しても敵討ちにはならないからです。むしろ同僚の白石を殺されたことの方が動機になると思います。
出てくるキャラに感情移入できていれば、清丸という社会のクズを守るために死んでいった刑事たちの無念や、警察を裏切った刑事たちへの共感が生まれるでしょうが、それが全くないので見ていてなんの悲しみも悔しさも感じることなく終わりました。
銘苅警部補が撃たれ、防弾チョッキを着ていて助かる場面があります。弾除けとして選ばれた以上、防弾チョッキの着用は当然でしょう。ところが捜査一課の神橋巡査部長は、防弾チョッキを着ていなかったので死んでしまいます。SPでなければ着用しないのかと思っていたら、白石巡査部長も着用していなくて死んでしまいます。なぜ着ないのでしょう?
ラストシークエンスで、蜷川が登場したのもよくわかりません。捕まりにきたのか、自ら殺したかったか、なんで来ちゃったの?という感じで、あっさり逮捕されてしまいます。そして何より警官が囲む中で清丸が刃物を持ったのに、誰も銃を撃たないのが不思議でした。射殺命令が出ており、合法的に清丸を殺害して10億円を手に入れる大チャンスです。これまで散々清丸の命を狙う警官がいたのに、そこは無視されていました。
元ネタがあるからというわけではないのですが、「藁の盾」の設定は面白いですし予告編を見たときはかなり期待しました。
もう少し面白い映画になったはずだと思うので、とても残念な気がしました。
あらすじ
財界の大物、蜷川の7歳の孫娘が惨殺されました。犯人は清丸国秀で、過去にも幼女を襲う事件を犯しており、出所すると再び幼女に手をかけたのです。蜷川は裏から手を回して新聞に一面広告を出し、清丸を殺害した者に10億円を渡すと宣言します。福岡に潜伏していた清丸は、かくまってもらっていた人物から襲われて、福岡県警に出頭しました。全国から狙われる清丸を警視庁に移送するため、SPの銘苅(めかり)警部補、白石巡査部長、警視庁捜査一課の奥村警部補、神箸巡査部長が選ばれ、福岡県警の関谷巡査部長が加わり5人が加わります。しかし清丸の命を狙うのは一般市民だけでなく警察内部にもいて、過酷な移送が始まりました。
三池崇史監督という前提
日本を代表する映画監督の三池崇史は、好き嫌いが分かれる監督であり、作品により出来不出来がはっきりする監督でもあります。仕事を選ばない監督としても有名で、どんなに予算がなく無理筋の映画でも依頼されると引き受けてしまいます。ワンシーンに力を入れて、全体の流れを気にしないことが多く、辻褄なんて細かいことを気にしないでドーンと面白さを追求するする男らしい演出が目立ちます。矛盾してようが、前後で噛み合わないことがあろうが、とにかく突き進めて盛り上がろうという感じです。
その三池崇史がメガホンを取ったことで、「藁の楯」の前半はとても盛り上がりました。
大掛かりなアクションの連続
道路を埋め尽くすパトカーは壮観で、このような景色は「西部警察」以来だと思いますが、今回は高速道路を使っているので迫力がありました。そのパトカーを蹴散らしてタンクローリーが突っ込み爆発する様子は迫力があり、邦画ではなかなか見られないアクションシーンでした。さらに新幹線を使った撮影も圧巻で、このためだけに台湾ロケを敢行したという成果が出ています。このようなスケールの大きなアクションは前半に集中していて、新幹線を降りて徒歩になってからは物語が一気にスケールダウンします。まるで高速道路と新幹線で予算を使いつくしたような失速ぶりで、鷹揚のない地味な展開になってしまいました。
感情移入できないキャラたち
犯人の清丸は冷酷非道な犯罪者で異常者です。感情移入できなくて当然ですが、警護するSPや刑事たちも感情移入できないキャラばかりになっています。永山絢斗演じる神橋巡査部長は何かにつけて噛みつき、何かと吠えてばかりの鬱陶しいキャラで、彼が死んでもなんの感情もわきませんでした。
岸谷五朗演じる奥村警部補は何を考えているのか分からず、裏切りの理由も説明されることなく、何がなんだかわからないまま舞台を去ります。神箸の死を報われないとか言いつつ、結局は裏切り者だったために小悪党にしかなり得ません。
松嶋菜々子演じる白石巡査部長はシングルマザーですが、母親らしさを見せるのはメールの一文だけでしかありませんでした。清丸の殺害をほのめかす以外は出世ばかりを気にしているキャラなので、殺された時にも「やっぱりか」という感想しかありませんでした。
主人公は大沢たかお演じる銘苅警部補ですが、妻の死の怒りを清丸に向けるのは無理がある気がしました。清丸が社会的なクズとはいえ、妻を殺したのは酔っぱらい運転手であり、清丸を殺しても敵討ちにはならないからです。むしろ同僚の白石を殺されたことの方が動機になると思います。
出てくるキャラに感情移入できていれば、清丸という社会のクズを守るために死んでいった刑事たちの無念や、警察を裏切った刑事たちへの共感が生まれるでしょうが、それが全くないので見ていてなんの悲しみも悔しさも感じることなく終わりました。
ツッコミどころ
始めの方にあれこれ話しかける清丸に対し、白石巡査部長は「警護対象者との会話は禁じられています」と言いますが、よく喋りますね。とにかくよく会話します。映画「ボディガード」で、ケビン・コスナーが警護対象者に感情移入しないみたいなことを言いつつ30分後に恋に落ちたのを思い出しました。銘苅警部補が撃たれ、防弾チョッキを着ていて助かる場面があります。弾除けとして選ばれた以上、防弾チョッキの着用は当然でしょう。ところが捜査一課の神橋巡査部長は、防弾チョッキを着ていなかったので死んでしまいます。SPでなければ着用しないのかと思っていたら、白石巡査部長も着用していなくて死んでしまいます。なぜ着ないのでしょう?
ラストシークエンスで、蜷川が登場したのもよくわかりません。捕まりにきたのか、自ら殺したかったか、なんで来ちゃったの?という感じで、あっさり逮捕されてしまいます。そして何より警官が囲む中で清丸が刃物を持ったのに、誰も銃を撃たないのが不思議でした。射殺命令が出ており、合法的に清丸を殺害して10億円を手に入れる大チャンスです。これまで散々清丸の命を狙う警官がいたのに、そこは無視されていました。
類似性
移送中の犯人が次々に襲われるという設定は、テレビドラマ「特別狙撃隊SWAT」を映画化した「SWAT」でもありました。こちらは犯人が、自分を逃してくれたものに賞金を払うと宣言したもので、移送チームが無数の敵と交戦しながら移送を続けます。「藁の盾」は「SWAT」の設定を裏返しにしたもので、類似性が高いと思います。元ネタがあるからというわけではないのですが、「藁の盾」の設定は面白いですし予告編を見たときはかなり期待しました。
まとめ
設定の面白さは抜群だったのですが、キャラの掘り下げがないために登場人物に共感することができず、そのため清丸というクズのために警官が死んでいっても憤りも悲しさもありませんでした。もう少しうまくやれたのではないかと思ってしまいます。そして後半の失速は、なんとも残念でした。期待が高かっただけに評価が低いのだろうと思いますが、この映画はあちこちでボロクソに叩かれていますね。もう少し面白い映画になったはずだと思うので、とても残念な気がしました。
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