2011年のなでしこ 笑顔と気迫のバランス
CSで2011年のサッカー女子ワールドカップを放送していました。思わず見入ってしまったのですが、なでしこジャパンが優勝したアメリカ戦は今後も語り継がれていくことでしょう。今回の放送を見ていて、リアルタイムでハラハラしながら見ていた時とは違い、いろいろと気づかされました。
この時のなでしこジャパンは本当に強かった。フィジカルでは圧倒され、技術的にもアドバンテージがあるわけではないですが、体力や技術や気持ちがまとまっていて、アスリート人生の中で何度も起こりえない充実の中にいたのではないでしょうか。
笑顔が多かったなでしこ
同点で迎えた延長戦で、澤穂希のクリアミスから日本は失点してしまいました。延長戦での失点は精神的なダメージが大きく、ましてやエースのミスからの失点となると、ただならぬ絶望感が漂っても不思議ではありません。しかしこの失点の直後、川澄奈穂美は笑顔で永里(大儀見)優季と会話をしていました。なんと「このくらいの方が楽しい」と言っていたそうです。
※この大会でシンデレラガールと呼ばれた川澄 |
精一杯の強がりだったかもしれません。笑っていないと自分を支えられなかったのかもしれません。しかし川澄と永里以外にも笑顔の選手は多く、絶望感がない不思議な空気が流れていました。それは延長後半が終わり、PK戦に入る直前の日本のベンチもそうでした。佐々木監督を筆頭に、ほとんどの選手が笑顔でした。サッカーで最も残酷と言われるPK戦を前に、冗談を言い合って笑いあえるだけのタフさがこのチームにはありました。佐々木監督は「楽しんでこい」と選手を送り出しています。
気合を入れるタイミング
後半に同点のゴールを決めた宮間は、喜びを爆発させる周囲をよそに全力でゴールからボールを拾うと、そのままダッシュでセンターサークルに向かいました。同点には満足していない。もう1点とって勝つんだという無言のメッセージでした。喜んでいた他の選手も、宮間の意図に気づいて全力で自陣に駆け戻っていきます。
※宮間の同点ゴールは男子でもできる選手は多くない高等技術だったそうです。 |
延長戦の後半に入り、明らかに運動量が落ちてきた頃、一人で気迫のあるプレイを見せたのが澤でした。強引なチャージでボールを奪うと、かなり遠い距離のスルーパスを通していきます。まだ自分はあきらめていない。どうしても勝ちたいんだという気持ちが、見ている者に伝わるプレイでした。
それに呼応したのが川澄で、彼女は佐々木監督に必死の形相でアピールしています。どうやら丸山とポジションを変えたいと言っていたようで、比較的体力が残っている自分が前線でダイナモになってかき回そうとしていました。
先ほどのPK戦の前の笑顔があふれる場面でも、一人だけ笑顔がない選手がいました。GKの海堀あゆみです。彼女はここが自分の踏ん張りどころだと感じ、集中力を高めていたのだそうです。PKは驚くべきファインプレイを連発した海堀のセーブで、劇的な勝利を飾りました。
※海掘のセービングは神がかっていました |
意外だったこと
延長戦後半終了間近に、岩清水がペナルティエリアの前でレッドカードを受けたプレイは、リアルタイムで見ていた時に「ナイス!」と思わず叫びました。飛び出していたモーガンはゴール正面でしたし、あのまま打たれたら失点の可能性は高かったと思います。ペナルティエリアに入る直前のギリギリのタイミングでのチャージで、あそこでカードをもらうことを躊躇する場面ではありません。まさに反則しても止めなくてはならない場面であり、そこにためらわずチャージをかけた岩清水の冷静さに拍手を送りたい気分でした。しかし岩清水はレッドカード覚悟のプレイではなかったようで、普通に止めに入っただけと言い、レッドカードには不満のようでした。
笑顔と気合
鬼気迫る表情でピッチを走り回り、その間に笑顔で仲間と話し合うこの時のなでしこは、一握りの人達だけが味わえる、最高の緊張感と充実感のバランスの中にいたのでしょう。私はリアルタイムで見ていた時に、PK前の両チームの表情で日本の勝利を確信しました。日本の円陣の中からは「きゃー!」と歓声が上がり、笑顔が溢れて楽しそうでした。人によっては吐き気を催すような緊張感を楽しめるほど、この時のなでしこは充実していたのだと思いました。
一方のアメリカは、2度のリードを追いつかれてPK戦を迎え、追い詰められたような雰囲気でした。PK戦の前に勝負は決していたように思います。延長戦の前半でアメリカが得点したとき、アメリカのワンバックは「これで勝負がついた」と思ったそうです。しかし後半終了3分前に追いつかれ、絶望的な雰囲気が漂っていたのです。
コメント
コメントを投稿