技術の継承は難しい
※こちらは以前の「はねもねの独り言」に書いていた記事です。
先日、革製品を扱っているお店の方と話をしました。いろいろと差しさわりがあるので、なんという会社のどの方とは書けません。「あそこの会社は自社製造みたいな宣伝をしているけど、別の会社に委託製造させてるんですよ」なんて刺激的な話が飛び出して面白かったのですが、特に後継者の話で実に興味深い話が聞けました。
そこの会社は、後継者を育てることを止めたのだそうです。ですから、今いる職人さん達がリタイアしたら会社を畳むのだそうです。実にもったいないと思うのですが、後継者を育てる時間的余裕も財力もないというのが実状なのだそうです。現在は複数の職人さんがコツコツと作って販売しているのですが、小さな会社なので全員がフル稼働しているのだそうです。その中で若手を雇って教えるという時間的余裕がないというのが理由のひとつだそうです。
革や金具を仕入れるには、銀行から借金をしなくてはいけません。借金すると返済するまでに金利がかかります。つまりお金を借りたらすぐに材料を買い付けて すぐに製品を作って完売させないと、金利がドンドンかさんでしまうわけです。そのため材料が入ると同時に、職人さん達は猛スピードで製品を仕上げていきます。会社が小さいので、売上が1日でも遅れると金利はバカになりません。そんな中で、全くの素人をコツコツ教えるというのは時間的にできないというわけです。
それともう一つ、直接的な給料の問題があります。10人の若手を雇って教え始めたとして、その10人には給料を払わなくてはいけません。毎月20万円を払ったとして年間に2400万円で、5人なら年間1200万円になります。1人前に育てるには数年かかりますから、この1200万円は出て行くだけのお金です。つまりこのお金は、商品の価格に上乗せされることになるのです。ここは小さな会社なので、安価というのが売りの一つになっています。値上げすると売上への影響は必至でしょう。
そこで考えられるのは、専門学校を作るということです。専門学校なら授業料を生徒からとれるので、先ほどの1200万円という支出がなくなります。広く生徒を募って、その中で能力のある生徒を会社に引き抜けば、安く後継者を育てることが可能になります。しかしここの社長はそれはできないと言います。「引き抜いた子は仕事にありつけるからいいけど、ダメになった子は中途半端な腕しかないわけだから路頭に迷うでしょう。それは可愛そうですよ」というわけです。
そういうわけで、この会社はあと20年ぐらいすれば終わりになるだろうとのことでした。なんとも残念な話ですが、仕方がないですね。「どこかのお金持ちが ウチの商品を気に入ってくれて、後継者養成のためにポーンとお金を出すなんてことでもない限り無理です」と、社長さんも残念そうでした。こうやって技能が1つずつ失われていくんですよね。ちなみにここの製品は、とても品質に対してとても良心的な価格で販売している会社なので固定ファンもかなりいます。
そのうちなくなるということなので、これから20年以内に何か買っておこうと思います(汗)
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AUTHOR: mumu.com
DATE: 09/20/2010 23:26:54
「技術というのは巧い人のやり方を見て盗むもの」という概念が崩れているんですね…
最近の若い子は辛いと直ぐに仕事を辞めてしまいますしね…
好きな分野のことであればただで良いから職人の働いているところに行って技術を教えてもらいたいと思うぐらいなのですが、そういう人って今は殆ど居ないんでしょうね。
それに給料が要らなくても邪魔になりますよね。
レザークラフトってやってみたいんですけど、難しいんでしょうか。
若い子に限らずですが、近頃は立派な大人までもが流れを読めなくなっているひとが多いですよね~。
一つ一つの作業が他の作業と繋がっているという理解が出来ないので教えるのも大変なのではないでしょうか。
個々の作業は覚えても繋げて考えられないので作業効率が悪いはずです。
なんだか残念ですね。
はねもねさんのご贔屓ということはクオリティの高いものを作っているところでしょうから…
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AUTHOR: 冬_寂
DATE: 09/22/2010 23:33:08
技術の継承…ですか。確実に後継者に継いでいくための堅牢かつ自動的なシステムを構築していない限り、遅かれ早かれぶつかる問題かと思います。
何号か前の『軍事研究』誌に、合衆国のオバマ政権が核軍縮を打ち出した理由の一つとして、技術の継承の問題を挙げた記事が掲載されていました。この記事の内容を信じるなら、一例として水爆の弾頭部分の隙間を充填するために開発された特殊な発泡樹脂(熱核反応を阻害しない…もしくは促進させる?)の製造技術が、製造会社の倒産により失われたらしいことや、核関連部品を製造する技術者の技術継承が進まず、新型の弾頭の設計が難しくなっている点が挙げられていました。
もちろん、三重水素などの半減期のせいで、保管したままだと"腐る(=起爆しなくなったり、威力が減少したり)"核兵器の維持管理コストが割に合わなくなってきて、より使い勝手が良い質量/運動エネルギー弾頭に移行したいという理由も大きいのではないかとも考えられるとは思いますが。
日本もこれだけ製造業の空洞化がすすめば、人知れず失われた技術が色々あるのかも…
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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 09/23/2010 00:59:22
★mumuさん
ここの社長さんも言っていましたが、以前は仕事教えてやってご飯を食べさせてもらえるんだから、給料なんていりませんという若い人が多かったけど、今の時 代にそんなこと言っていると誰もついてこなくなると言っていました。まあ、今の人にお小遣い程度の給料で働けと言っても、かなり厳しいですよね。
そしておっしゃるように、技術を盗むというのもなくなってきているので、ひとつひとつ丁寧に教えないといけないので時間がかかるといっていました。こういうのは時間と費用の問題が大きいですよね。技術というのは、こうやって消えていくのかもしれません。
★冬_寂さん
アメリカは核開発を停止していたので、その間に技術が衰退してしまったというのは考えられることですね。維持費がバカにならないというのは以前から言われていましたが、そういう問題も十分に考えられますね。
この話が本当だとするならば、かつての核拡散防止条約推進や核実験の停止などと同じで平和活動とはほど遠い事情だということになりますねぇ。。。
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COMMENT:
AUTHOR: jojo
DATE: 09/24/2010 01:27:44
革製品というものにはまったく知識がないのですが、なんとも寂しいですね。
いきつけの弦楽器店があるんですけど、そこには若い社長がいて何人かのお弟子さんらがいて和やかな雰囲気で営業してます。
そこにある楽器は100万~2500万!とかの代物で、(こんなの誰が買うんだよ)と思いつつ見ているんです。
が、実は弦楽器店って別に2500万のヴァイオリンを売らなくても十分生活できるんですよね。
弓の毛替えや弦の販売などで、十分な料金が取れるんです。
私は革製品というものにはまるで知識がないのですが、多分そういった「副収入」的な金を得るのが難しい業界なのかな?
いずれにせよ、技術が失われるのは惜しいですよね。
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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 09/24/2010 23:01:31
★jojoさん
確かに革製品のお店には、楽器屋さんのようなメンテナンスなどで小銭を稼ぐという方法がほとんどないですね。日常的なメンテナンスは個人でできますし、中には全くメンテナンスしないでボロになったら買い換えるという無頓着な人も多くいますから、なかなか難しいように思います。
ヴァイオリンは高価なものは青天井ですよね。億単位の価格がつくものもありますが、恐ろしくて私は近づけない気がします(^_^;) 以前、1600万円のギターを弾いたことがあるのですが、傷つけたり落としたりしないように気を使って何を弾いたか覚えてません(>_<)
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先日、革製品を扱っているお店の方と話をしました。いろいろと差しさわりがあるので、なんという会社のどの方とは書けません。「あそこの会社は自社製造みたいな宣伝をしているけど、別の会社に委託製造させてるんですよ」なんて刺激的な話が飛び出して面白かったのですが、特に後継者の話で実に興味深い話が聞けました。
そこの会社は、後継者を育てることを止めたのだそうです。ですから、今いる職人さん達がリタイアしたら会社を畳むのだそうです。実にもったいないと思うのですが、後継者を育てる時間的余裕も財力もないというのが実状なのだそうです。現在は複数の職人さんがコツコツと作って販売しているのですが、小さな会社なので全員がフル稼働しているのだそうです。その中で若手を雇って教えるという時間的余裕がないというのが理由のひとつだそうです。
革や金具を仕入れるには、銀行から借金をしなくてはいけません。借金すると返済するまでに金利がかかります。つまりお金を借りたらすぐに材料を買い付けて すぐに製品を作って完売させないと、金利がドンドンかさんでしまうわけです。そのため材料が入ると同時に、職人さん達は猛スピードで製品を仕上げていきます。会社が小さいので、売上が1日でも遅れると金利はバカになりません。そんな中で、全くの素人をコツコツ教えるというのは時間的にできないというわけです。
それともう一つ、直接的な給料の問題があります。10人の若手を雇って教え始めたとして、その10人には給料を払わなくてはいけません。毎月20万円を払ったとして年間に2400万円で、5人なら年間1200万円になります。1人前に育てるには数年かかりますから、この1200万円は出て行くだけのお金です。つまりこのお金は、商品の価格に上乗せされることになるのです。ここは小さな会社なので、安価というのが売りの一つになっています。値上げすると売上への影響は必至でしょう。
そこで考えられるのは、専門学校を作るということです。専門学校なら授業料を生徒からとれるので、先ほどの1200万円という支出がなくなります。広く生徒を募って、その中で能力のある生徒を会社に引き抜けば、安く後継者を育てることが可能になります。しかしここの社長はそれはできないと言います。「引き抜いた子は仕事にありつけるからいいけど、ダメになった子は中途半端な腕しかないわけだから路頭に迷うでしょう。それは可愛そうですよ」というわけです。
そういうわけで、この会社はあと20年ぐらいすれば終わりになるだろうとのことでした。なんとも残念な話ですが、仕方がないですね。「どこかのお金持ちが ウチの商品を気に入ってくれて、後継者養成のためにポーンとお金を出すなんてことでもない限り無理です」と、社長さんも残念そうでした。こうやって技能が1つずつ失われていくんですよね。ちなみにここの製品は、とても品質に対してとても良心的な価格で販売している会社なので固定ファンもかなりいます。
そのうちなくなるということなので、これから20年以内に何か買っておこうと思います(汗)
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AUTHOR: mumu.com
DATE: 09/20/2010 23:26:54
「技術というのは巧い人のやり方を見て盗むもの」という概念が崩れているんですね…
最近の若い子は辛いと直ぐに仕事を辞めてしまいますしね…
好きな分野のことであればただで良いから職人の働いているところに行って技術を教えてもらいたいと思うぐらいなのですが、そういう人って今は殆ど居ないんでしょうね。
それに給料が要らなくても邪魔になりますよね。
レザークラフトってやってみたいんですけど、難しいんでしょうか。
若い子に限らずですが、近頃は立派な大人までもが流れを読めなくなっているひとが多いですよね~。
一つ一つの作業が他の作業と繋がっているという理解が出来ないので教えるのも大変なのではないでしょうか。
個々の作業は覚えても繋げて考えられないので作業効率が悪いはずです。
なんだか残念ですね。
はねもねさんのご贔屓ということはクオリティの高いものを作っているところでしょうから…
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AUTHOR: 冬_寂
DATE: 09/22/2010 23:33:08
技術の継承…ですか。確実に後継者に継いでいくための堅牢かつ自動的なシステムを構築していない限り、遅かれ早かれぶつかる問題かと思います。
何号か前の『軍事研究』誌に、合衆国のオバマ政権が核軍縮を打ち出した理由の一つとして、技術の継承の問題を挙げた記事が掲載されていました。この記事の内容を信じるなら、一例として水爆の弾頭部分の隙間を充填するために開発された特殊な発泡樹脂(熱核反応を阻害しない…もしくは促進させる?)の製造技術が、製造会社の倒産により失われたらしいことや、核関連部品を製造する技術者の技術継承が進まず、新型の弾頭の設計が難しくなっている点が挙げられていました。
もちろん、三重水素などの半減期のせいで、保管したままだと"腐る(=起爆しなくなったり、威力が減少したり)"核兵器の維持管理コストが割に合わなくなってきて、より使い勝手が良い質量/運動エネルギー弾頭に移行したいという理由も大きいのではないかとも考えられるとは思いますが。
日本もこれだけ製造業の空洞化がすすめば、人知れず失われた技術が色々あるのかも…
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AUTHOR: はねもね
DATE: 09/23/2010 00:59:22
★mumuさん
ここの社長さんも言っていましたが、以前は仕事教えてやってご飯を食べさせてもらえるんだから、給料なんていりませんという若い人が多かったけど、今の時 代にそんなこと言っていると誰もついてこなくなると言っていました。まあ、今の人にお小遣い程度の給料で働けと言っても、かなり厳しいですよね。
そしておっしゃるように、技術を盗むというのもなくなってきているので、ひとつひとつ丁寧に教えないといけないので時間がかかるといっていました。こういうのは時間と費用の問題が大きいですよね。技術というのは、こうやって消えていくのかもしれません。
★冬_寂さん
アメリカは核開発を停止していたので、その間に技術が衰退してしまったというのは考えられることですね。維持費がバカにならないというのは以前から言われていましたが、そういう問題も十分に考えられますね。
この話が本当だとするならば、かつての核拡散防止条約推進や核実験の停止などと同じで平和活動とはほど遠い事情だということになりますねぇ。。。
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AUTHOR: jojo
DATE: 09/24/2010 01:27:44
革製品というものにはまったく知識がないのですが、なんとも寂しいですね。
いきつけの弦楽器店があるんですけど、そこには若い社長がいて何人かのお弟子さんらがいて和やかな雰囲気で営業してます。
そこにある楽器は100万~2500万!とかの代物で、(こんなの誰が買うんだよ)と思いつつ見ているんです。
が、実は弦楽器店って別に2500万のヴァイオリンを売らなくても十分生活できるんですよね。
弓の毛替えや弦の販売などで、十分な料金が取れるんです。
私は革製品というものにはまるで知識がないのですが、多分そういった「副収入」的な金を得るのが難しい業界なのかな?
いずれにせよ、技術が失われるのは惜しいですよね。
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AUTHOR: はねもね
DATE: 09/24/2010 23:01:31
★jojoさん
確かに革製品のお店には、楽器屋さんのようなメンテナンスなどで小銭を稼ぐという方法がほとんどないですね。日常的なメンテナンスは個人でできますし、中には全くメンテナンスしないでボロになったら買い換えるという無頓着な人も多くいますから、なかなか難しいように思います。
ヴァイオリンは高価なものは青天井ですよね。億単位の価格がつくものもありますが、恐ろしくて私は近づけない気がします(^_^;) 以前、1600万円のギターを弾いたことがあるのですが、傷つけたり落としたりしないように気を使って何を弾いたか覚えてません(>_<)
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