ジョン・ジョーンズというダメ男 /転落が生んだ喪失感

ジョン・ジョーンズは稀に見るアホである。現在UFCのLヘビー級はダニエル・コーミエが圧倒的強さで王座に君臨しているが、そのコーミエが2度も完敗したのがジョーンズだ。圧倒的な身体能力と類稀なるセンスで頂点を極めた男の、ひどい転落ぶりを見てみたいと思います。



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ジョン・ジョーンズとは

1987年、ニューヨークに生まれました。193cmの長身に215cmという圧倒的なリーチの長さを誇り、プロデビューからわずか3年でUFCのライト・ヘビー級王者に就きました。圧倒的な強さとイマジネーション豊かな攻防は、まさに天才のものでした。兄と弟はNFLデビューを果たしており、兄弟全員が飛び抜けた運動能力を持っています。ジョーンズ自身も子供の頃から、普通に遊んでいると他の子供が怪我をすることが多かったそうで、早い段階で運動能力が飛び抜けていたことが伺えます。

※手の長さがわかると思います。

大学で刑事司法を学んでいましたが、恋人の妊娠が発覚したため急遽お金が必要になりました。格闘技でプロになるつもりはなかったジョーンズですが、背に腹は代えられずにMMAジムを訪れてプロになる決心をします。そしてYouTubeで沢山の試合を見て研究したと語っています。数週間の準備期間を経て2008年にプロデビューを果たすと、2011年にはUFC史上最年少で王者になりました。

ジョーンズの唯一の敗戦は2009年のマット・ハミル戦です。マウントから拳と肘を雨あられのごとく打ち落とし、もはやレフリーストップも時間の問題という中で、勢いあまって肘を垂直に顔面に落とす反則を犯してしまい、反則負けになりました。試合はジョーンズの一方的な内容であり悪意がある反則でもないので、ノーコンテストにするべきという声が上がりました。この試合以外は、ほとんど危なげなく勝利しています。

ファイトスタイル

ほとんど穴がありません。長い手足を有効に使う打撃が得意で、ジョーンズの懐に入るのは困難です。なんとかパンチをかわして中に入ると、ジョーンズが最も得意とする肘打ちが待っています。さまざまな角度からトリッキーに繰り出される肘は、ジョーンズ最大の武器の一つです。そのためジョーンズに対峙した選手の多くは、スタンドでほぼ一方的に肘で削られることになります。

※肘打ちを最も得意としています。


その打撃をかわして組んだとしても、レスリング出身のジョーンズの腰は異常に重く、グランドに持ち込むことは容易ではありません。大抵の場合は肘打ちと膝蹴りを嵐のように浴びて、反対にテイクダウンを奪われてグランドでさらに殴られることになります。ジョーンズがテイクダウンを奪われることはほとんどなく、細身の体からは信じられないパワーとテクニックを持ち合わせています。

バックキックやバックハンドブローなど、回転する技を多用しますが「その場で思いついた」「昨日、YouTnbeで見た」と語るような意外性のある攻撃が多く、映画の動きやその場のひらめきでKOできる身体能力を備えています。さらに寝技も多彩で、一本勝ちも多いのが特徴です。その場で思いついた技を使うので、事前のデータにない技がフィニッシュになるケースも多く、事前に研究しても役に立たないと言われています。



このようにジョーンズにはほとんど弱点が見当たらず、難攻不落の世界王者として君臨していました。その強さは桁外れで、ライト・ヘビー級の王座は動かないと思われました。

衝撃的な試合

2011年、日本のPRIDEで圧倒的強さを誇ったマウリシオ・ショーグンが持つライト・ヘビー級タイトルに挑みます。ショーグンはPRIDEミドル級グランプリで優勝し、ヴァンダレイ・シウバ以上の実力者だと見られていました。そのショーグンを相手に、ジョーンズは打撃で一方的に打ち続けます。防戦一方のショーグンはなんとか組み付きますが、組んでもジョーンズは一方的に膝蹴りを浴びせ続けました。さらに簡単にテイクダウンを奪うと、グランドでも一方的に攻め続け、最後はボディブローでKOしました。日本であれほどの強さを見せたショーグンが防戦一方になる衝撃的な展開で、UFCライト・ヘビー級王座を奪取しました。

※ショーグンはなす術なく敗れました。

初防衛戦は、こちらも日本のPRIDEでお馴染みのランペイジ・ジャクソンで、一方的に殴り続けて最後は裸締めで一本勝ちしました。ジャクソンは手も足も出ない状態で、格の違いを見せつける試合でした。日本のファンにとって、ただ殴られ続けるジャクソンの姿は衝撃でした。

※ジャクソンを全く寄せ付けませんでした。


転落の始まり

強すぎて対戦相手に困るほどになり、ダニエル・コーミエとの対戦を迎えます。レスリングでオリンピックに出場したコーミエから何度もテイクダウンを奪って判定勝ちすると、試合後にコカインの成分が検出されて騒動になります。コカインはドーピング違反物質ではないため、試合の裁定への影響や罰金などのペナルティはありませんでしたが、ジョーンズはパーティでコカインを使用したことを認めて薬物治療を始めることを宣言します。

その数ヶ月後、レンタカーで信号無視をして追突事故を起こしました。車内からマリファナの吸引器が見つかり逮捕され、UFCの王座も剥奪されました。この時、一時的に警察に身柄を拘留されています。


復帰と再転落

出場停止処分が解けると、今度は免許証などの必要書類を持たずに車を運転して、警察に止められます。さらに違法改造した車両でドラッグレースをしていたことが発覚し、再び逮捕されました。この騒動で裁判所から社会奉仕活動やカウンセリングを受けることが決められ、復帰がさらに遠のくことになりました。そして最後の試合から1年以上経過し、ようやくジョーンズはUFCのリングに戻ってきました。ライト・ヘビー級の王座決定戦に出場すると、あっさり判定で勝利して再び王座に返り咲きました。

※王座を再度奪取したジョーンズ

しかしこの数か月後に行われたドーピング検査で陽性反応が出たため、王座剥奪と1年間の出場停止処分が下されます。ジョーンズは意図的なものではなく、強壮剤に禁止薬物が入っていたと主張しましたが、相次ぐトラブルにアスレチック・コミッションも重いペナルティを下す必要に迫られたのです。そして1年間の出場停止が解けた2017年に、ダニエル・コーミエの持つライト・ヘビー級王座に挑戦します。3Rにコーミエを仕留めて王座を獲得し、泣きじゃくるコーミエに気遣いのコメントさえ出す余裕を見せました。

※負けて涙を流すコーミエ

しかしその後のドーピング検査で陽性反応が出たため、王座剥奪となりました。出場停止処分となった現在、復帰できるかは全く分からない状況です。不祥事続きの選手に対して、アスレチックコミッションも安易に軽いペナルティで済ませるわけにはいかないと考えているようです。

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個人的には嫌いでした

多くの練習が反復練習でコンビネーションを体得し、ギリギリのせめぎ合いの中で勝利をつかむUFCにおいて、ジョーンズは異質でした。見ていて、まさに思い付きとしか思えない技を連発し、圧倒的な強さで勝ち続けるジョーンズは腹立たしく、さらに試合後に対戦相手を侮辱するかのようなコメントで憎まれ役といったところでした。

※トラッシュトークを仕掛けるジョーンズ

ジョーンズの強さは圧倒的なフィジカルに加え、天性のセンスとしか言いようがない部分にありました。もちろん圧倒的なトレーニング量に支えられているのは間違いないのですが、誰も到達できない次元でやすやすと勝利するスタイルは、いつか負けるところを見たいと思わせられました。そして現王者のダニエル・コーミエは爆発的な強さと同時に、対戦相手へのリスペクトを忘れない選手であり優等生です。そのコーミエが圧倒的な強さで勝ち続けるのを見るたびに、ジョーンズを負かして欲しいと思うのです。



そしてコーミエもジョーンズに2度も負けたことが屈辱的で、自分は本当の王者ではないと語ったことがあります。ジョーンズがいればもっと盛り上がっただろうと思えるだけに、いなくなると寂しくなりました。

不安と焦り

圧倒的で憎らしいほどの強さを見せてたジョーンズですが、絶えず不安にさいなまれていて試合前にパーティをしないと気分が晴れない状態だったようです。アルコールやドラッグに手を出したのも試合前の不安感が大きかったようで、違法改造車を乗り回すのもストレスの発散が目的だったようです。誰もが羨む素質を持ち、誰もがひれ伏すほどのレコードを刻みながら、精神的に安定しなかったのは実に残念なことです。

コーミエは「何が腹立たしいって、ジョーンズは禁止薬物なんか使わなくても十分強いのにってことだ」と憤り、自身の敗戦は薬物によるものとは考えていないようです。コーミエのファンはジョーンズを倒すところを見たかったのですが、それを最も望んだのはコーミエ自身だったのです。

まとめ

UFCのライト・ヘビー級史上にとどまらず、全階級を通じても歴代最高の強さを示した一人です。その圧倒的な試合運びは見るものを黙らせる試合展開で、どんなにジョーンズが嫌いな人でも強さを認めざるをえませんでした。これほどの才能が自滅していってしまうのは、あまりに残念です。なんとかもう一度復活して、コーミエとの対戦を見たいものです。まだ30歳のジョーンズは、今が年齢的にも円熟しているはずなのですから。


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