総合格闘技でもっとも稼いだ男 /コナー・マクレガーのカリスマ性

なにかと世間を騒がせるコナー・マクレガーは、総合格闘技で最も大金を得た選手として知られています。経済誌フォーブスによると2018年の収入は、9900万ドル(当時のレートで109億円)で、現在も最も話題と注目を集める選手です。いかにしてマクレガーは総合格闘技でスターになったのかを振り返ってみます。



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圧倒的な自己プロデュース力

巧みな話術でメディアを巻き込み、メインイベントでなくても自分の試合に注目を集めてしまいます。記者会見では毎度のように乱闘騒ぎを起こして話題をさらい、過激でユーモアもあるコメントは常に注目されています。相手を挑発する話術に長けていて、相手を本気で怒らせることもしばしばです。その結果、後述しますがハビブ・ヌルマゴメドフとは、試合後に大乱闘になってしまいました。

スポーツウェアや普段着のような格好で記者会見を行う選手がほとんどの中、マクレガーはオーダーしたスーツで望み、他の選手との違いを見せつけました。WWEのビンス・マクマホンの「富豪歩き」を真似て、マクレガーが体を反らして腕をブラブラさせて歩くと、「マクレガー歩き」として全米の各スポーツ選手が真似をするようになりました。

※富豪歩きをするマクレガー


劇的な試合展開と相まって圧倒的なカリスマ性を獲得すると、UFCはマクレガーを中心に回るようになります。そんなマクレガーも最初から人気があったわけではありません。当初は元気の良いビッグマウスといった感じでした。マクレガーの注目が一気に集まったのは、デビューから2年ほど経った2015年のチャド・メンデスとフェザー級暫定王座を争った頃からでした。

フェザー級王座の獲得

2015年7月、ジョゼ・アルドのフェザー級王座に挑戦が決まっていましたが、アルドは肋骨を負傷して試合をキャンセルしました。アルドは7度も防衛し絶対王者と呼ばれていた超強豪で、試合が流れたことに多くのファンが残念がりました。試合はフェザー級1位のチャド・メンデスと暫定王座となり、マクレガーはキャンセルしたアルドを徹底的に挑発します。

しかし試合はメンデスがテイクダウンを奪い、パウンドで一方的にマクレガーを攻める展開になりました。しかしこのパウンドの猛攻を耐え凌ぐと、マクレガーは左ストレートでダウンを奪い、パウンドで試合をストップさせました。劇的な逆転勝利にパフォーマンス・オブ・ザ・ナイトが送られ、観客は熱狂しました。

※メンデスに左ストレートを放つマクレガー


さらにマクレガーは勝利インタビューで、アルドに対して「奴は俺から逃げた」と挑発しました。自身も試合前に怪我を負っていたことを告白し、怪我が原因ではなくアルドが自分を恐れて逃げていると一方的にアルドを口撃していきました。その口撃は徹底していて、カメラがあるところでは絶えずアルドを挑発し、時にユーモアを交えて話すマクレガーは常にメディアに注目され続けます。

半年後に王者アルドとのタイトルマッチが決まると、マクレガーは「どうせ奴はまた逃げ出す」と、メディアを通じてアルドを挑発します。アルドもやり返しますが、舌戦ではマクレガーが上回り、むしろアルドは平静さを失っていきました。パウンド・フォー・パウンド最強と言われたアルドをわずか13秒でマクレガーがKO勝利し、その人気は爆発的に広がりました。

※わずか13秒のKO劇


2016年に頂点へ

フェザー級王座を獲得したマクレガーは、ライト級王座への挑戦を表明しました。ライト級王者ハファエル・ドス・アンジョスとの対戦が決まりますが、トレーニング中にドス・アンジョスが足を骨折してしまい、試合が流れてしまいました。UFCはドス・アンジョスに代わる選手にオファーを出しますが、多くの選手が断り、紆余曲折の末にライト級5位のネイト・ディアスに決まりました。

しかし急遽決まった試合のため、ディアスは減量が間に合わないとしてウェルター級リミットでの対戦を要求し、マクレガーはこれを受け入れました。マクレガーにとって不利な条件ですが、準備期間が短いディアスに対するハンデとも言えました。試合はマクレガーが優勢に進めるものの、スタミナ切れを起こしてディアスが優位に立ち、マウントポジションから裸締めを決められて一本負けを喫しました。

※勝利した血まみれのディアス


この試合でマクレガーはファイトマナーのみで100万ドル(約1億1000万円)となり、さらにウェルター級での試合だったためマクレガーの評価が下がることはありませんでした。さらにこの年にボクシングのフロイド・メイウェザー・ジュニアとの対戦が噂されるようになります。マクレガーはメイウェザーに1億ドル(約110億円)のファイトマネーを要求するなど過激な舌戦を繰り広げて話題をさらいます。

マクレガーは、負けたディアスに対して再戦を要求しました。前回同様にウェルター級での戦いです。2016年8月にリマッチが実現しました。悪童同士の対戦は過激な舌戦に展開し、記者会見では乱闘騒ぎが起こります。試合は前回の試合と同じ展開になります。序盤をマクレガーが優位に進め、スタミナ切れを起こしたマクレガーをディアスが攻め立てます。最後は精神力の試合になり、マクレガーは序盤のポイントを活かして判定で勝利しました。

※第2戦も血まみれになったディアス


この劇的な映画のような展開にファンは狂喜し、マイク・タイソンはマクレガーを「地上で最もイカした男」と評しました。この試合のPPVは100億円以上を稼ぎ出し、マクレガーは300万ドルの過去最高のファイトマネーを獲得しました。

さらに11月にはライト級王者のエディ・アルバレスに挑戦しますが、記者会見ではペットボトルを投げ合う大乱闘に発展して話題を集めます。適正階級のライト級に戻ったマクレガーは圧倒的な強さを見せてアルバレスを圧倒してTKOで勝利しました。UFC初の2回級同時王座保持者となり、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されるなど、存在感は圧倒的になりました。UFCはマクレガーを中心に動いていました。

※アルバレスを圧倒するマクレガー


メイウェザーとの試合

引退したボクシングの5回級王者フロイド・メイウェザー・ジュニアとの試合は何度も噂になり、実現するのか否かが注目されていました。実現するならどんなルールになるのか、メイウェザーがUFCに参戦するのか?といった噂が飛び交いましたが、結果的にボクシングの試合で決着しました。

2017年8月、2人の対戦が実現します。しかしボクシングルールということで、マクレガーの圧倒的な不利が予想されていました。マクレガーがメイウェザーに触ることもできないまま、一方的にサンドバッグのように殴られるという予想も多く、凡戦になるとも言われていました。しかしメディアを巧みに操る2人は試合を盛り上げていき、PPVの売り上げは430万件にも上り、歴代2位を記録しました。

※マクレガーとメイウェザー


試合は変則的なボクシングを展開するマクレガーが手数で圧倒し、予想に反してパンチをヒットさせていきます。しかし中盤からスタミナ切れを起こし、10Rにメイウェザーの連打が決まると、レフリーは試合を止めました。メイウェザーのTKO勝利で幕を閉じましたが、予想外の大善戦にマクレガーは専門家からも絶賛されました。元ヘビー級王者のジョージ・フォアマンはマクレガーが的確にパンチを当てたことに驚きを示し「この試合に否定的なことを言っていたメディアは謝罪するべき」と評しました。



マクレガーはこの試合で3000万ドル(33億円)以上を受け取り、その名をボクシング界にも知らしめました。マクレガーにはマニー・パッキャオをはじめ、多くのボクサーが対戦に名乗りをあげ、UFCの中心にいたマクレガーはスポーツ界の中心に位置するようになります。アメリカで最も話題を振りまく選手として、マクレガーの注目度はさらに上がりました。

UFCライト級王座への再挑戦

メイウェザーとの試合後、マクレガーは試合から遠ざかります。「金を使うのに忙しい」と揶揄されるほどの金満ぶりで、UFCのダナ・ホワイトは「銀行口座に大金があるのに、朝起きてハードなトレーニングを行うのは難しい」と語り、マクレガーの引退の可能性を示唆しました。そして長期に渡り戦線を離れたマクレガーのライト級タイトルは剥奪されました。

しかし2018年、マクレガーはUFCに帰ってきました。ライト級王座への挑戦を掲げ、王者バビブ・ヌルマゴメドフへの挑戦を表明したのです。ヌルマゴメドフは自分が留守の間に王座に就いただけだと声高に挑発し、例によって激しい舌戦を展開しました。その挑発はカメラが回っていないところでも行われ、乱闘騒ぎを引き起こしています。

※ハビブ・ヌルマゴメドフ


その乱闘は度を超えていき、マクレガーが選手の乗ったバスを集団で襲撃する騒動に発展しました。警察はマクレガーを逮捕し、罰金と社会奉仕活動が命じられました。この襲撃の様子はスマホで撮影されており、大声で叫びながら窓ガラスを破壊するマクレガーの姿が映っています。またこの襲撃で複数の選手がガラス片を浴びて負傷し、女子ストロー級王者のローズ・ナマユナスはショックから試合を遠ざけることになりました。



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2018年10月7日、マクレガーとヌルマゴメドフは対戦します。しかしここまで無敗を誇るヌルマゴメドフの勢いは止められず、マクレガーは得意の打撃で攻め立てるものの徐々にヌルマゴメドフのペースになっていきました。グランドに持ち込まれたマクレガーは、意地を見せて金網を利用して立ち上がると大声援を受けました。これまでヌルマゴメドフがグランドに持ち込んで、立ち上がれた選手は皆無だったからです。

※チョークスリーパーを決められるマクレガー


しかし打撃で押し込まれて再びグランドに持ち込まれると、ヌルマゴメドフはチョークスリーパーを仕掛け、マクレガーはタップしました。ヌルマゴメドフの圧勝でしたが、その直後にマクレガー陣営にヌルマゴメドフが殴りかかる大乱闘が発生し、警備員が総出で事態を収拾する騒ぎになりました。ヌルマゴメドフ、マクレガー共に出場停止などの処分が下り、後味の悪い結果になってしまい、マクレガーは引退を表明しました。

※マクレガー陣営に殴り込むヌルマゴメドフ

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復活

2020年1月18日、引退を撤回したマクレガーがUFCに帰ってきました。ライト級5位のドナルド・セラー二とウェルター級契約での対戦です。開始早々大振りのパンチを放ち、かわしたセラー二に組みつかれると、4発の肩パンチでセラー二の鼻から出血させ、左ハイキックでダウンを奪うと追撃のパウンドでTKO勝利を奪いました。わずか40秒ほどの寸劇で、マクレガーはフェザー級からウェルター級の3回級でKO勝利を収める偉業を成し遂げました。



またこの試合は売上に不利なストリーミングによるPPVだったにも関わらず、100万件以上の契約を達成し、マクレガーはストリーミングサービスで100万件以上を売った初の選手になりました。マクレガーの完全復活で、今後の展開が期待されています。

マクレガーのスーツ

記者会見だけでなく、会場入りの際にもスーツを着用することで話題になりました。スーツはマクレガーのトレードマークになり、生まれたばかりの息子(生後3ヶ月)にもスーツを着せてGQ誌に登場しました。2017年にGQからベストドレッサー賞を贈られています。

※生後3ヶ月で、この貫禄!





何より話題になったのが、フロイド・メイウェザー・ジュニアとの記者会見で着ていたスーツで、単なるストライプのスーツに見えますが、そのストライプは「FU◯K YOU」の文字でできています。





ついにはファッションデザイナーのデビッド・オーガストとコラボし、オーガスト・マクレガーというブランドまで立ち上げています。

派手な言動の裏で

記者会見の乱闘騒ぎや繰り返される挑発的な言動、そして血に飢えたようなファイトスタイルから凶暴な男として知られていますが、一方では慈善家としても知られています。ファンの病気の子供を訪問したのは1度や2度ではなく、子供の病気を研究する基金には多額の寄付を行い表彰を受けています。

またホームレスへの支援も熱心で、地元アイルランドのダブリンに私費でホームレスのための施設を8件建設しています。その他にもいくつかの慈善事業に参加していて、反社会的なイメージに反する姿勢を見せています。



またビッグマウスで自らを称えることを忘れないマクレガーですが、その変幻自在な動きから「アイルランドのモハメド・アリ」と呼ばれた際には謙虚な姿勢を示しました。アリのような偉大な人物と比較されることを光栄だとしながらも「アリは特別な人なので、自分との比較は適切とはいえない」と否定しています。普段の言動から「俺はアリを超えた!」みたいなコメントを期待した人達は肩透かしを喰らいました。

まとめ

コナー・マクレガーはノトーリアス(悪名高い)と呼ばれ、一挙手一投足が話題になり物議を呼んでいました。しかし強敵をことごとく倒してきた事実は何よりも雄弁で、その言動と相まって強烈なインパクトを与えてきました。自己プロデュースに優れ、話題を振りまく嗅覚を持ち、卓越した実力を手にしたことで唯一無二の存在としてUFCの中心にいます。

数億円のファイトマネーに加え、PPVボーナスで10億円以上も毎試合のように受け取りながら、何度も闘志が消えかかりつつ復活しています。果たして前人未到の3階級制覇を実現するのか、今後の試合が期待されます。



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