UFCの動乱 /ミオシッチ対コーミエ戦の衝撃

以前ご紹介した時給1500円のヘビー級王者、スティーペ・ミオシッチがLヘビー級王者ダニエル・コーミエの挑戦を受けたUFC226が、7月8日にラスベガスのT-Mobileアリーナで行われました。ヘビー級王者とLヘビー級王者の激突は前代未聞で、ベルトを賭けた一戦は高い注目を集めました。



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スティーペ・ミオシッチとは

ミオシッチの詳細は下の関連記事にも書いています。学生時代にはボクシングでゴールデングローブの準々決勝まで進み、レスリングでもNCAAのディヴィジョン1にも選ばれ、メジャーリーグにもドラフトの声がかかるスポーツ万能の学生でした。UFCにデビューすると連戦連勝を重ね、ステファン・ストルーフェやドス・サントスには負けましたが11戦目にヘビー級王者に就きました。王座に就くまでには元K-1王者のマーク・ハントや元UFC王者のアンドレイ・アルロフスキーなども含まれます。

2016年に寝技最強と呼ばれるファブリシオ・ヴェウドゥムからヘビー級王座を奪取すると、アリスター・オーフレイム、ジュニオール・ドス・サントス、フランシス・ガヌーを防衛戦で撃破しました。しかもガヌーは判定勝利だったものの、王座挑戦のヴェウドゥム戦から2度目の防衛戦のドス・サントス戦まで1RKO勝利で、圧倒的な強さを見せつけました。これまでのヘビー級の歴史で3度防衛は新記録で、特に3度目の防衛戦のフランシス・ガヌー戦は現在考えられる最強のチャレンジャーでした。そのガヌーの爆発的な強打を完璧に抑え込んで、完全に試合をコントロールしての判定勝利でした。この勝利により、ミオシッチは次の対戦相手がなかなか見当たらない状況になっていました。

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ダニエル・コーミエとは

アテネ、北京と2度のオリンピックに出場したレスリングエリートです。世界選手権でも優勝しており、北京五輪ではアメリカのレスリングチームのキャプテンでした。レスリング引退後にUFCのヘビー級でデビューしますが、同じチームの盟友ケイン・ヴェラスケスがヘビー級だったためLヘビー級に転向しました。

レスラーらしいボディバランスと投げ技、グランドテクニックで相手を翻弄しますが、ボクシングテクニックも一流で、打撃で何度も勝利を重ねています。あっという間にLヘビー級の王座に君臨し、王座を危なげなく防衛し続けています。たった一つの例外はジョン・ジョーンズで、ジョーンズとは2度戦って2度負けています(正式には1敗1ノーコンテスト)。Lヘビー級で圧倒的な強さを見せつけるものの、ジョン・ジョーンズだけにはどうしても勝てないという位置にいます。

ジョーンズに負けても王座にいられるのは、ジョーンズの度重なるトラブルのおかげとも言えます。特に2度目の対戦ではKOされていますが、その後の薬物検査でジョーンズの体内から違反薬物が検出されたため試合はノーコンテストになり、ジョーンズは出場停止処分となってしまいました。もはやLヘビー級にコーミエの敵はいません。もしジョン・ジョーンズの出場停止が解けたら好勝負が展開できそうですが、現在では誰も敵がいない状況なのです。

※試合外での態度もナイスガイなコーミエ

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試合の結末

ミオシッチ110kg、コーミエ111.6kgと、Lヘビー級のコーミエの方が重い体重で試合を迎えました。一進一退の攻防が続き、偶然コーミエの指がミオシッチの目に入って試合が中断します。試合が再開し、打撃戦から組み合いから離れた直後にコーミエの右フックが入り、ミオシッチは倒れました。



鮮やかなコーミエの1RKOで、組んだ際にミオシッチのガードが下がるクセを見抜いた上での狙い澄ました右フックでした。「俺は二階級王者だ」と吠え、UFC史上5人目の二階級制覇の快挙に満足した様子でした。しかしこれによりコーミエを圧倒したジョン・ジョーンズの存在が意識される結果になりました。

最強の選手が出場停止中で復帰の見込みも立たない状況に置かれている現実が、大きくのしかかりました。




スター不足のUFC

数年前までUFCはスターの宝庫でした。しかし女子で圧倒的な強さと人気を誇ったロンダ・ラウジーが負けると、女子バンタム級は王者が次々に変わりスターと世張る選手がいない状況です。

※ロンダ・ラウジー

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男子の最大のスターだったコナー・マクレガーは、フロイド・メイウェザーJrとボクシングの対戦をした後、復帰の目処が立っていません。「銀行口座に大金があるのに、早起きして殴られに行くのは難しい」と指摘する人もいて、このままマクレガーは引退するのではないか?という声もあります。

※コナー・マクレガー

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さらにマクレガーは今年に入って、複数の仲間を引き連れてUFCの選手らが乗るバスを襲撃して逮捕されました。複数の選手が怪我をし、UFCのダナ・ホワイト社長は激高していて復帰の目処が立たなくなりました。

スター選手の引退や試合を遠ざけている現状下で、ヘビー級ではフランシス・ガヌーがスター候補生として注目されました。強豪を次々にKOしてミオシッチの王座に挑戦するも試合をコントロールされて完敗すると、復帰戦はやる気を感じない消極的な展開で負けてスター候補から転落しています。

まとめ

ダニエル・コーミエの勝利は素晴らしいものでしたが、スター選手の不在を感じさせるものになりました。次の試合は元UFC王者でプロレスラーのブロック・レスナーが、コーミエと対戦することになりそうです。何年も前に引退した選手が登板するほど、スター選手が不足しているように感じてしまいます。

幸いなことにUFCに挑戦する選手は多く、今後のスターになる可能性のある選手が多くいることです。新たなスターの誕生を、もう少し待ってみたいと思います。


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