女子のUFCが面白い今日この頃

総合格闘技の最高峰UFCをたまに見るのですが、最近は女子の人気が高まっていてメインカードが女子の試合ということも珍しくなくなりました。そのせいで女子の試合も見る機会が増えたのですが、最近は「もしかして女子の方が面白くないか?」と思えることがあります。迫力は男子の方が断然あるのですが、女子にはそれとは違う面白さです。


もともと女子のUFCは嫌いでした

迫力に欠ける展開に加え、UFCは肘打ちが認められているので、出血が多いんですよ。顔を肘で切り刻まれて、顔中血だらけになることも珍しくありません。鼻が折れて鼻血が顔を染めることもあります。なんというか、女子の選手が顔を血に染めているのは、あんまり見たいものではなかったんですよね。



マウントを取られ、無造作に肘をゴツゴツと落として流血がどんどん激しくなる様子は、男子でも凄惨な気がします。女子だとさらに気の毒な気がしていました。最近はきれいな顔の選手も多いので、殴られて顔が変形したり、真っ赤に染まるのはなんとも・・・という気分でした。

※同一人物には見えませんよね。

UFCで強い選手とは

5分3ラウンド(タイトルマッチは5ラウンド)と、1ラウンドの時間が短いことや、リングに比べて広いオクタゴンを使うこともあって、寝技よりもスタンドの勝負が多く見られます。そしてなにより時間が短いということは短時間で攻め込むことが必要になるため、フィジカルの強さがものをいいます。技術よりも5分3ラウンドを休みなく動き続けるスタミナと、肉体的な強度が明暗を分けることが多くあるのです。

現在の男子のトップ選手は、誰もがフィジカルモンスターで、それに加えてプラスアルファの技術を持たないと戦えません。トップに君臨する選手は、フィジカルモンスターを圧倒するような超フィジカルの持ち主か、卓越した技術を持つフィジカルモンスターのどちらかになっています。とにかく肉体的に圧倒的な強度を持っていることが大前提で、それがなければ勝負にならない世界です。



私は以前から青木真也選手のような人はUFCでは活躍できないと言ってきたのですが、青木選手は突出したフィジカルを持たない代わりに、寝技の技術で勝ってきた選手です。そういう選手はわずか5分1ラウンドのUFCは向かないんです。立っている間にフィジカルで圧倒され、寝技に入る頃にはゴングがなってしまいます。青木選手のようなタイプは、かつてのPRIDEのように15分1ラウンドなどの時間が長い方が向いていると思います。

女子UFCは変換期

フィジカルの強さだけがものをいう時代は男子にもあり、技術革新があってフィジカルだけでは勝てなくなり、さらにその技術をフィジカルで圧倒する選手が出てきて、今日に至ります。男子は強靭なフィジカルと卓越した技術が交じり合い、なかなか急激な変革は難しいほどのレベルに達しています。



しかし歴史が浅い女子は、今がその技術的な変革期です。フィジカルの強さはもちろん、さまざまな技術が押し寄せてきていて、今度はどのような展開になるのか予想がつかないのです。

女王ロンダ・ラウジーの敗戦から始まった

ロンダ・ラウジーという別格的に強かったバンタム級王者は、圧倒的なフィジカルをごり押しして相手をとらえ、五輪にも出た柔道のテクニックで腕ひしぎ十字固めでタップを奪って勝利を量産していました。もはやロンダに勝てる選手はいないと思われていましたが、女子ボクシングの世界王者だったホリー・ホルムがKOで勝利します。

※圧倒的な強さを誇った女王ロンダ・ラウジー

この試合の衝撃はすさまじく、多くの新聞がトップでロンダの敗戦を掲載し、テレビのニュースもトップニュース扱いでした。総合格闘技をほとんど報じてなかったニューヨークタイムズさえ、ロンダの衝撃的なダウンを報じたほどです。多くの著名人がこの試合に言及し、誰もがロンダの敗戦を信じられないと語っていました。もはや敵がいなく、ロンダの衰えを待つしかないと言われていただけに、完璧なKO負けをする姿は衝撃的だったのです。

※ロンダ・ラウジーはこの一撃でKOされました。

ホリーはボクシングのフットワークを駆使して、フィジカルに任せて強引に入ってくるロンダをいなし、左のハイキック一発で沈めました。ここからフットワークの重要性と、フィジカルの強さだけでは勝てないという認識が生まれました。

ホリー・ホルムも撃沈

一夜にしてスーパースターになったホリー・ホルムは初防衛に失敗し、バンタム級は本命がいない戦国時代に突入しました。ロンダは長い休養に入り、その間に映画「エクスペンダブルズ3」に出演したりしましたが、1年後の復帰戦でまたもKO負けしました。明らかに時代が変わったと感じさせる出来事でした。

※スタローンの右がロンダ・ラウジー

そんな中、女子としては最重量級のフェザー級が設立されると、ブラジルのクリス・サイボーグがやってきて、圧倒的な強さを示しました。彼女はフィジカルが強いだけでなく、打撃のセンスも抜群で(なにせシュートボクセ・アカデミー出身)、圧倒的なフィジカルと打撃技術を兼ね備えていました。

そんなクリスに挑戦したのが、ロンダをKOしたシンデレラガールのホリー・ホルムです。再びフットワークを活かしてクリスを空転させるかと思ったら打ち合いを展開し、さらに両差しの態勢からクリスを金網に押し付けるフィジカルの強さを見せました。最終的に体格に勝るクリスが徐々にペースをつかみ、判定でクリスの勝利となるのですが、単なる筋力勝負でも打撃技術の勝負でもない変化が起こっています。

※クリス・サイボーグ(左)、ホリー・ホルム(右)

男子と女子の違い

男子は卓越したフィジカルモンスターが、これ以上ない技術レベルに達することでタイトルマッチにたどり着きます。その技術論もまとまりつつあり、UFCでの勝ち方が定まってきています。しかし女子はまだまだ暗中模索の状態で、番狂わせが多く起こっています。以前紹介した、ローズ・ナマユナスが勝利するなど、誰も想像していなかったのですから。


まとめ

殴る・蹴る・投げる・極めるというあらゆる要素を含んだ総合格闘技は、当初の野蛮な暴力から競技に進化しています。そして男子で数年前に起こった急激な技術革新が現在は女子の間で行われていて、番狂わせが多く起こっているのです。女子の試合は、これからも魅力的なカードが続くはずです。


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