女子MMA日本最強の中井りんはどこへ行く?

日本の格闘技イベントRIZINは、女子の総合格闘技(MMA)にも力を入れていますが、今ひとつ盛り上がりに欠ける気がします。まだまだ女子の選手は少なく、選手層の問題もありますが、女子MMAで大きな戦績を誇る中井りんが、ほとんど顔を出してないからのように思います。日本女子MMA最強の中井りんを抜きにして、誰が強いと語っても味気ないのです。



関連記事
UFCでの日本人の成績はどうなのか
女子のUFCが面白い今日この頃
統合失調症を超えて ローズ・ナマユナスの番狂わせ
ローズ・ナマユナスは復権するか? /女子ストロー級の戦乱期
女王は復権するか? /ヨアナ・イェンジェイチックのいばら道
MMA最強女子の陥落 /クリスチャン・サイボーグが初のKO負け
女子MMA日本最強の中井りんはどこへ行く?
痩せられない美しき柔術女王 /マッケンジー・ダーン
総合格闘技に最適なバックボーンは? /UFCを見ながら考えてみた

中井りんの戦績

156cmと小柄ながら、56kgという体重が示すように全身が筋肉で覆われています。柔道をバックボーンに持つ中井は、2006年にパンクラスでMMAデビューを果たしました。スマックガール、ヴァルキリー、戦極などの大会にも出場して無敵を誇りました。



2011年からパンクラスに戻ると、王座であるクイーン・オブ・パンクラシストを獲得してここでも無敵を誇りました。17戦して引き分けが1試合のみという圧倒的な強さを誇り、同時にそのルックスの良さから写真集も発売されます。人気と実力の双方で日本の女子MMAトップの存在になり、アメリカのUFCにアジア人女子として初めて契約しました。


残念ながらUFCでは2戦とも判定で負けてしまい、リリース(契約解除)になりました。失意の帰国のままパンクラスに復帰すると、2試合をKO勝利で飾り相変わらずの強さを示しました。2016年にはRIZINに参戦して、難なく村田夏南子から一本を奪い勝利し、その後はDEEPで2連勝しています。中井りんはUFC以外では負け知らずで、彼女が日本最強というのに異論はないと思います。

不運だったUFC参戦

国内で敵なしだった中井りんにとって、最高峰の舞台であるUFCへの挑戦は当然だったと思います。しかし56kgの彼女に、適切な階級がありませんでした。当時のUFCの女子は2階級しかなく、61.2kg以下のバンタム級と52.2kg以下のストロー級のみでした。現在は56.7kg以下のフライ級がありますが、当時はまだなかったのです。そのため、バンタム級に参戦することになりました。


階級を上げたことでパワー負けするのは、男子にも女子にもよくあることです。さらに中井は156cmしか身長がなく、170cm前後の選手がひしめくバンタム級で戦うことになりました。あまりに大きなハンデを背負ってのデビューで、さらに初戦の相手はミーシャ・テイトでした。彼女はタイトルマッチの経験があり、後にUFCバンタム級で王座に就く強豪です。上の階級で初戦から強豪相手というのはUFCが多大な期待を寄せていたことの証明ですが、中井にとって苦しい2連戦になってしまいました。

そしてUFCの初戦は、中井が批判を集めることになります。ミーシャ・テイトに3-0の判定負けをした中井と宇佐美館長は、試合後に不満を爆発させました。中井はこのように語っています。

「負けてないと思う。むしろ勝っていたと思う。判定に納得いかないので提訴したい。バックマウントを2回取って、チョーク(スリーパー)にも2回入った。テイクダウンも取って、アグレッシブに攻めた。負けてない。納得いってない」

試合を見ていた人の多くは、中井を批判しました。明らかに中井の負けだったからです。そして上記の発言から、中井がUFCのルールを理解していないことがわかりました。バックマウントを取るだけではポイントにならず、チョークはチャレンジはしていましたが、落とせる状態にまで持っていったかがポイントの分かれ目です。そのため中井のチョークは、ノーポイントにされても文句が言えないものでした。さらにテイクダウンは、相手を倒してから1秒以上は上になってコントロールしなくてはポイントにならないので、ノーポイントだったと思います。むしろ再三テイクダウンを狙って失敗しているので、テイトにテイクダウン・ディフェンスのポイントが加算されていたはずです。

UFCは日本で行われているMMAとは、判定基準が異なります。そのため十分に研究し、UFCの判定基準に合った試合をしなくてはなりません。中井も宇佐美館長も日本の判定基準で話していたのは明らかで、ルールを把握せずに試合をし、提訴までちらつかせる態度に批判が集中しました。特にこれらの情報を把握するのは選手よりもトレーナーの仕事なので、宇佐美館長の指導力に批判が噴出しました。

グラビアが変だと話題に

テレビに出ることは頑なに断り続けていた中井りんですが、それ以外の媒体には積極的に顔を出していました。そんな中、彼女の容姿を見込んでグラビア撮影の仕事があり、セクシーな中井りんを収めたグラビアが世間を驚かせます。本人はかなり緊張したそうですが、なんというかちょっと変な雰囲気のグラビアに仕上がっています。

例えばグラビアにありがちなこちらのポーズは、モデルの胸を強調するためのポーズですが、中井りんは求められていることを理解できず、力こぶを作って上腕二頭筋をアピールしてしまったようです。

さらにグラビアにありがちな四つん這いのポーズの写真もあるのですが、グラビア慣れしていないぎこちなさと圧倒的な筋肉量により、見た人からは「パーテールポジションか!」「一人横四方固め」という声があがっていました。可愛らしい服と筋肉のアンバランスさも加わり、セクシーというより恐ろしいという声の方が多かったといいます。

注目を集めるためのパフォーマンス

本人が望んだことなのか、周囲から勧められて断りきれなかったのかは不明ですが、いつからか中井の計量時の格好がおかしなことになっていきました。パンクラス側としてはスポーツ紙などにも取り上げられるので良かったようですが、ここまでやってしまうとイロモノ扱いされるようになるのは必然で、後の発言からは不満もあったように思われます。



マイナーな女子MMAをなんとか盛り上げようとする中での暴走ともいえますが、中井りんの魅力は試合を見てもらう方がよほど伝わるように思いました。そして彼女は決してイロモノではなく、本格派の選手なのです。

パンクラスとの決別

RIZINに初出場し、圧倒的な強さで勝利した直後の2017年2月10日に、自身のブログで活動を休止すると発表しました。少し前にイベントで体を壊したことを発表したばかりで、ファンの間に衝撃が走りました。すぐさま所属するパンクラスが声明を出します。中井はバンタム級からフライ級に転向するため、バンタム級王座を返上するというものでした。中井の体調は回復に向かっており、近いうちに中井はフライ級のタイトルマッチに出場するとしています。

※このパチスロイベント直後に体調不良を訴えました。

しかしこれに中井自身は反論します。自分の本意ではないことを発表されており、私はパンクラスとの契約を解除したいと訴えました。これにより両者の関係がこじれていることが、公になりました。中井の意思は固く、パンクラスとの契約が解除になるのですが、何が原因なのか真相は不明のままです。

精神を病んでいると言われた時期

パンクラスと揉めている最中、心療内科に通院していることを明かしています。またブログを通じて何かを訴えているものの、ブレているともとれる言動があり、うつ病なのではないかと心配されました。自分と師匠である宇佐美館長を屈辱されて何も言い返せないとか、誰かに襲われると思って護身用具をそろえた、誰かに騙されて陥れられるんじゃないか、などとブログに書いており、ファンの間に心配が広がりました。

※カブトムシを売る中井りん

またたびたびお金がないことを訴えていて、試合のチケットを買って欲しいと書いていました。さらにお金がないので山で捕まえたカブトムシを売っているといった書き込みもあり、中井りんの精神状態がかなり思わしくないと噂されました。なぜこれほど活躍している選手が、金銭的に困っているのか不明で、パンクラスとの契約条件が劣悪なものだったのか、何かトラブルに巻き込まれているのか、さまざまな憶測を呼びました。

宇佐美館長との関係

宇佐美文雄は修斗道場四国で館長を務めており、自身も修斗で活躍した選手でもあります。中井りんは宇佐美に師事し、今の自分は宇佐美館長で構成されたと絶大な信頼を寄せています。ほぼ二人の二人三脚で歩んできたため、2人が交際しているという噂は何度も持ち上がりました。さらにUFCに出場した際には、解説者が"Her husband said"(彼女の夫によると・・・)と、宇佐美館長の発言を取り上げたため、すでに結婚しているという噂も飛び交いました。

また愛媛県でトレーニングを積んでいるため、パンクラス時代から何度も東京に出てくることを勧められており、そのたびに宇佐美館長と離れることを嫌って断っています。中井クラスの選手になると、スパーリングパートナーを探すのは東京でも大変です。愛媛では練習相手に困るのは当然で、そのため東京に出てくることを勧められていたわけです。


またUFC参戦時には、宇佐美館長以外からも指導を受けることを勧められたようです。UFCは技術進化が凄まじいスピードで進んでいるため、最新のトレンドを学ばなければ対抗策を練るのも難しいという現実があります。これらのことを「宇佐美館長の下では勝てないと言われた」「宇佐美館長を侮辱された」と中井が受け取った可能性もあります。事実、宇佐美館長から離れられないなら、これ以上の成長はないといったことが、ネットにちょくちょく書き込まれる時期がありました。これらの内容に憤慨していても不思議ではないと思います。

復活そして圧勝

周囲の心配をよそに、中井りんはDEEPで活動を再開しました。2018年から2019年にかけて2連勝で、しかも圧倒的な強さを見せつけての復活です。さらに7月にはRIZINへの出場も決まりました。円熟を迎えた中井りんが、もう一花咲かせる可能性は充分にあります。日本最強の凄みを、テレビ放映のあるRIZINでも見せつけて欲しいと思います。

中井りんの強さとは

他を圧倒するフィジカルによって支えられています。ベンチプレス120kg、スクワット200kgという驚異的な筋力に加え、試合後に見せるバク宙でもわかるように、鋭い瞬発力も持ち合わせています。柔道経験者らしく組み付いたらテイクダウンを奪うのは上手く、寝技も力を使うところと抜くところの勘所が良く、あっという間に一本を奪います。


またスタンドでの打撃でもKOが多く、勇敢に打ち合う勇気とパンチ力を持っています。しかしUFCで2連敗した試合を見ると明らかなように、打撃に関してはトップクラスの選手から一歩劣るのは否めません。相手が長い手足で打撃を仕掛けてきた時に、中井には短い手足のハンデを克服する技術はないように思います。またKOを狙う時の打撃と、テイクダウンを奪うための打撃の姿勢が異なるため、中井が何を狙っているのか手に取るようにわかるときがあります。


言ってみれば、中井のスタイルはUFCで少し前に多かったスタイルで、フィジカルでごり押ししてテイクダウンやKOを狙うロンダ・ラウジーなどと同じタイプの選手だと思います。日本国内では十分な強さを発揮していますが、世界レベルの相手と戦う際には打撃がネックになるかもしれません。

まとめ

中井りんは日本の女子MMAのパイオニア的な存在であり、現在でも同階級では国内最強だと思われます。アジア人女子として初めてUFCと契約したのも彼女ですし、そもそも国内には敵がいない状態が続きました。パンクラスとのトラブルや、精神的な問題を抱えた時期もありますが、彼女は確実に復活しつつあります。30歳を過ぎた中井にどれほど時間が残っているかはわかりませんが、もう一度彼女の圧倒的なパフォーマンスを見たいと思っています。


関連記事
UFCでの日本人の成績はどうなのか
女子のUFCが面白い今日この頃
統合失調症を超えて ローズ・ナマユナスの番狂わせ
ローズ・ナマユナスは復権するか? /女子ストロー級の戦乱期
女王は復権するか? /ヨアナ・イェンジェイチックのいばら道
MMA最強女子の陥落 /クリスチャン・サイボーグが初のKO負け
女子MMA日本最強の中井りんはどこへ行く?
痩せられない美しき柔術女王 /マッケンジー・ダーン
総合格闘技に最適なバックボーンは? /UFCを見ながら考えてみた



コメント

このブログの人気の投稿

アイルトン・セナはなぜ死んだのか

私が見た最悪のボクシング /ジェラルド・マクレランの悲劇

バンドの人間関係か戦略か /バンドメイドの不仲説

鴨川つばめという漫画界の闇 /マカロニほうれん荘の革命

はじめの一歩のボクシング技は本当に存在するのか?