ヴァンダレイ・シウバはどれくらい強かったのか /UFCで勝てないPRIDE王者

 かつてPRIDEミドル級王者として君臨したヴァンダレイ・シウバは、PRIDE消滅とともにUFCに移籍しました。しかし周囲の期待とは裏腹に中堅クラスの選手に勝ったり負けたりを繰り返し、最後は騒動を起こして事実上のクビになりました。なぜこのようなことになったのか、ヴァンダレイ・シウバについて見ていきたいと思います。

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シウバの略歴

1976年にブラジルのパラナ州クリチバに生まれました。13歳でシュートボクセアカデミーに入門し、10代後半にはブラジル軍に入隊しています。20歳でプロデビューすると、いくつもの大会に参加していき、22歳の時にUFCと契約を結びます。UFC初戦はビクトー・ベウフォートにわずか44秒でKO負けしますが、2戦目のトニー・ペテーラには1RKOで成績を1勝1敗とします。さらに24歳になると日本のPRIDEとも契約し、主戦場を日本へと移しました。

PRIDEではガイ・メッツァーやダン・ヘンダーソンなどに勝利すると、ミドル級(-93kg)王座決定戦への出場権利を得ます。相手は日本で圧倒的人気を誇った桜庭和志でしたが、1RTKOで勝利しました。その後は連戦連勝を続け、ミドル級グランプリではクイントン・ジャクソンをKOして優勝するなど、ミドル級で圧倒的な強さを誇っていきます。2度目のミドル級グランプリでは、決勝でヒカルド・アローナに判定負けしますが、4ヶ月後のタイトルマッチでアローナに判定勝ちしています。

※桜庭和志との対戦

その後、無差別級グランプリに出場すると決勝まで進みますが、ミルコ・クロコップの左ハイキックに沈みます。そしてミドル級タイトルマッチでもダン・ヘンダーソンにKOされて王座を手放しました。これがPRIDEでの最後の試合になり、消滅したPRIDEからUFCにカムバックすることになります。

2007年からUFCへ

PRIDEでの輝かしい実績に反し、UFCでは目立った活躍はありませんでした。むしろヴァンダレイにとって、悲劇的な時間だったとも言えます。ライト・ヘビー級(PRIDEのミドル級と同じ93kg)でデビューすると初戦のチャック・リデル戦では判定負けし、2戦目のキース・ジャーディン戦では秒殺KOで勝利しました。3戦目の相手は3度目の対戦になるクイントン・ランペイジ・ジャクソンでしたが、左フックのカウンターでKO負けをしました。この頃のヴァンダレイは明らかにライト・ヘビー級には軽すぎ、ミドル級には重すぎる体格でした。

※チャック・リデル戦

次の4戦目はライトヘビー級リミットより5kgも軽い88kgの契約体重で試合をしますが、判定で負けています。この試合でヴァンダレイの実力を疑問視する声が、ハッキリと出るようになりました。以降は中堅手に勝ったり負けたりを繰り返す成績で、契約をリリースされないもの王座挑戦には程遠い内容となっていきます。それでも試合は盛り上がることが多く、負けてもファイト・オブ・ザ・ナイトを獲得することもありました。そして2014年に大きなトラブルを起こします。

チェール・ソネンとの対戦が決定した後に、薬物検査を拒否したとして試合が中止されたのです。ヴァンダレイは検査官が出した英語の書類がわからなかったことや、他の選手のサポートで忙しかったことを理由に挙げて、薬物検査を拒否した事実はないと訴えていました。しかし後にネバダ州アスレチックコミッションの公聴会で、手首の怪我のために利尿剤を使用していたことを認めています。薬物使用を誤魔化すために検査を逃げていたわけではないと主張していたため、利尿剤の使用は激しい批判が起こりました。この騒動でヴァンダレイは引退を表明しました。

しかしなぜかヴァンダレイはUFCを公然と批判し「UFCが八百長を行っている証拠がある」と発言しました。UFCを運営するズッファ社はすぐさま名誉毀損でヴァンダレイを訴えると、「私が間違っていた。発言を撤回したい」と謝罪を述べました。一連の騒動により、UFCはヴァンダレイとの契約を解除しています。現役引退というより、クビになったと言って良い状況でした。

果たしてどれくらい強かったのか

PRIDEでの成績を見ると22勝を納めていて圧倒的な強さを誇っていますが、そのうち15勝は日本人からです。さらに桜庭和志をはじめ何度も同じ選手と戦っていて、他には明らかに下の階級の日本人も混じっています。これは桜庭和志という絶対的なスターから王座を奪ったヴァンダレイに対し、桜庭が王座を奪い返すというシナリオをPRIDEが求めたからでしょう。

また桜庭がヴァンダレイに連敗し王座奪還が不可能だとわかると、今度は日本人のスター選手を求めて多くの日本人をヴァンダレイにぶつけました。その結果、ヴァンダレイは勝ち星を伸ばすことが可能になったのです。もちろん格下の選手であっても、勝ち続けることは困難なことです。しかし強豪との対戦を回避することができたことは、幸運だったと言えます。

PRIDE時代の力を測るとすれば、ダン・ヘンダーソンとの2試合は参考になるはずです。1戦目はヴァンダレイの判定勝ちでしたが、4点ポジションからの膝蹴りなど反則を行い、すっきりしない勝ち方で勝ち星を拾いました。2戦目はヘンダーソンの完勝でした。そしてヒカルド・アローナとの2連戦も、ヴァンダレイの力を見る上で重要だと思います。アローナに対しても1勝1敗でした。

1戦目は上のポジションをアローナに取られて殴られ続け、スタンドに移行しても決め手に欠けていたため判定負けでした。2戦目は両者とも決定打に欠ける展開で、どちらが勝者になってもおかしくない試合でした。これらを考えると、ヴァンダレイのPRIDEの強さは、ダン・ヘンダーソンやヒカルド・アローナとほぼ互角かそれ以下と考えられます。

またクイントン・ランペイジ・ジャクソンとの対戦も参考になるかもしれません。PRIDEで2試合を行い、2回ともKOで勝利しています。その後、UFCでも再戦していますが、この時はジャクソンに1RKOされました。ジャクソンはここから勝利を積み重ねてタイトルマッチに辿り着きますが、王者ジョン・ジョーンズ相手に立っては蹴られ続け、寝ては殴られ続ける展開で、最後は裸締めにタップしています。ジャクソンが王者に全く通用しなかったことを考えても、ヴァンダレイの王座はかなり遠かったように思います。

※クイントン・ランペイジ・ジャクソンにKO負け

そしてPRIDEの後期では明らかに衰えを見せていて、後輩のマウリシオ・ショーグン(・フア)の勢いが上回っていました。UFCで結果を出せなかった理由の1つに、年齢を指摘する声もあります。まだ31歳でしたが、早熟早老の選手だったのかもしれません。

シウバの実力は過大評価されていたのか?

PRIDEの日本人スター選手を出したいという台所事情により、海外の強豪よりも日本人選手との対戦が他の選手より多くなったのは間違いないでしょう。そのためミドル級王座に就いても防衛戦をこなすよりも、日本人対決を優先させられました。それによって勝ち星を伸ばすことができた面はあると思いますし、運が良かったと言っても良いと思います。

しかし相手が誰であれ、長期に渡ってトップコンディションを維持して勝ち続けるのは容易なことではありません。驕らず油断せず、常にハードワークを続けていた結果であることも間違いないと思います。またヴァンダレイの強さは薬物使用によるものという声も聞かれますが、検査を拒否しただけで薬物を使用した証拠は出ていません。かなり怪しいとは思いますが、決定的であるとは言い難い状況です。PRIDEからUFCに移籍して、体がひと回り萎んだ選手もいますが、ヴァンダレイの場合はそれほど大きな変化もありませんでした。

ルールの違いと誤算

今から考えると、UFCデビュー戦がチャック・リデルというのは無理がありました。ライト・ヘビー級の王座を失ったばかりのリデルは、王座奪還に向けて再始動していて気迫も十分でした。しかしシウバにしてみれば、リデルから王座を奪ったのはクイントン・ジャクソンで、2度も勝利したジャクソンが1RにKOできた相手なら自分も勝てると考えてしまったのでしょう。




またシウバも他のPRIDE出身のファイター同様に、リングとオクタゴンの違いやルールの違いに敏感ではなかったように思います。コーナーがないので追い詰めることが難しく、やたら広いオクタゴンの中では独特の技術が必要になります。また肘打ちがあるルールでは、グランドでのポジショニングが全く異なります。こういった違いを敏感に捉え、徹底的に対策を行ったようには見えませんでした。

まとめ

ヴァンダレイ・シウバの評価は難しく、人によって意見が分かれると思います。確かに-93kg級で最強と言うには程遠い実績ですが、PRIDEで輝いていたスター選手だったことも間違いありません。UFCでタイトルマッチまでは行き着くだろうと思っていたファンにとって、相次ぐ敗戦はショッキングでしたし、UFCで4勝5敗という数字以上に内容にがっかりした人も多かったと思います。無理にスターを作ろうとしていたPRIDEにも問題があったと思いますが、その中でベストを尽くしたヴァンダレイ・シウバを責めることはできません。一時代を築いた選手が、ドーピング検査でゴタゴタして契約解除される姿は見ていて辛いものでした。


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