バンドの上手い下手を考える /楽器が上手いとはどういうことか
少し前にBで始まる人気バンドのドラムが下手だとネットで話題になりました。最近はウチの娘もバンドサウンドに目覚めて、YouTubeで演奏を聴きながら「ねえ、このバンドって上手いの?」なんて質問してきます。もちろん楽器には上手い下手がありますし、バンドによっても演奏力や歌唱力の違いがあります。しかしそもそも何をもって、上手いとか下手とかいうのでしょうか。
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この手の人の何割かは、ハイレベルなテクニックを並べているだけだったり、単に演奏を速くすることに長けているだけだったり、実はさほど難しくないことを派手に見せるのが得意だったりで、バンドの演奏にはさほど寄与しない人が混じっています。少し古いですが、マイケル・アンジェロという90年代に話題になったギターリストを例に挙げましょう。
アンジェロは膨大な練習によって鍛え上げられたテクニックを持ち、超高速の速弾きや右利きなのに左にギターを持っても右と同様の演奏ができました。またアンジェロ・ラッシュと呼ばれた左手を一音ごとにネックの上下から指を入れ替えて弾く演奏など、トリッキーなプレイで多くの人の度肝を抜きました。90年代のギターショーや楽器ショーに引っ張りだこで、アメリカ各地で超絶なデモプレイを披露しています。
このアンジェロの演奏は見た目に面白くて刺激的なのですが、目を閉じて聴くとどれも同じようなメロディを繰り返していて、悪く言えば単調で退屈です。アンジェロのバンドは成功したとは言い難く、ギターリストとして招かれるというよりギター芸人として扱われることの方が多いように思います。アンジェロの演奏は面白いですし、高いテクニックを有しているのは間違いないのですが、ギターリストとしての評価は微妙な位置になってしまいます。
バンドの音に寄り添い、歌を引き立て、リード楽器(ギターやキーボードなど)を輝かせるのがリズムセクションに託された重要な仕事で、そのため演奏中に存在感がない人も多くいます。むしろ演奏中に存在感が消えるのが理想と言うドラマーやベーシストもいるくらいで、周囲を引き立てるためだけに全力を注ぐ人もいるくらいです。この手のタイプの巧者は、パッと聴いただけでは上手さはわかりません。しかしバンドに入って一緒に演奏すると、その差は歴然とします。
もちろん「俺はここにいるぜー!」と存在感を示すベーシストやドラマーもいますが、歌が入るときはスッと引いてヴォーカルを引き立てることができないと、単にうるさい奏者になってしまいます。いかに周囲を活かすことができるかがリズムセクションの重要な仕事なので、演奏経験のない人にはわかりにくい上手さになのです。
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ギターでジャカジャカとコードを鳴らすだけなので、ギターを始めた初心者は、まずリズムギターから覚えることが多いと思います。そのため下手な人がリズムギター、上手い人がリードギターをプレイすると勘違いしている人もいます。ところが、このガチャガチャコードを鳴らすのが奥が深く、リズムが跳ねたりタメたりツッコんだりして変化をつけることで、曲の雰囲気が変わっていきます。これはリズムセクションにも言えることですが、正確なリズムが良いとは限らないのがバンドの面白さで、歌詞の雰囲気などに合わせて様々な変化に対応できる奏者は上手いと言われます。
とにかく難しいことをやりたがるバンドは、演奏を聴くというより曲芸を見ている気分になりますし、テクニックをひけらかしているようで感心しません。一方で難しいことは何一つしていないのに、曲の良さと相まってヒリヒリするような興奮、泣けてくるような感動、ほんわかした優しい気持ちになる曲を演奏する人達もいます。演奏の上手さは確実に表現の幅を広げてくれますし、伝えたいものを伝えやすくなります。逆に言うとそれだけで、伝えたいものない人がどんなにハイレベルな演奏をしても何も響かないのです。
有名なものとしては、クリームというバンドのアルバム「素晴らしき世界」に収録された「クロスロード」という曲があります。ギターのエリック・クラプトンに嫉妬していたベースのジャック・ブルースは、クラプトンの演奏を追いやるようにベースの手数を増やしてクラプトンより自分が目立とうとします。クラプトンはそれに抵抗するように熱のこもった演奏で力強いリフを繰り返していきます。ピリピリした緊張感が漂い、それでも演奏が破綻することのないように3人がギリギリのところで踏みとどまっています。
ドラムのジンジャー・ベイカーを含め、3人が高いレベルの演奏が可能だったので、仲の悪さが高いテンションと緊張感を生み出した名演になりました。他にもディープ・パープルの「ライブ・イン・ジャパン」など、仲の悪さが生み出した緊張感の高い名演というのはいくつもあります。ですが、これらは高い演奏技術に加え、演奏を破綻させないプロフェッショナリズムなどが噛み合った奇跡的な演奏と言われています。だから仲が悪い方が良い演奏ができるということにはなりません。馴れ合いにならない仲の良さがあった方が、バンドはスムーズにいくと思います。
また個人の好みによって、上手い下手が言われることもあります。手数が多いのが好きな人もいれば、少ないのを好む人もいます。そのため技術とは別のところで下手と言われるミュージシャンは、案外多くいるのです。反対にリズムキープすらできず、きちんとした音を鳴らせないドラマーが、日本ではカリスマドラマーとして上手な部類に評価されている例もあり、好みが上手い下手の評価に大きく影響しているように思います。
実際にそのバンドに参加してみると、誰でも演奏技術の差は感じることができます。上手いバンドは歌いやすいですし、楽器を持って参加しても演奏しやすく感じます。歌心を持ったリズムセクションで歌うと、バンドに身をゆだねて心地よく歌えますし、ギターやキーボードが歌う気持ちを盛り上げてくれて、自分の歌が上手くなったような錯覚を覚えます。バンドの上手さは聴くより体験した方が、手っ取り早く感じることができるのですが、なかなか体験できることではないですね。
バンドの上手い下手にあまりとらわれすぎると、本来の音を楽しむことを忘れがちになります。バンドをやるなら演奏力を高める努力を重ねるべきですが、聴くだけの時にあまりそこにこだわる必要はないのではないでしょうか。
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YouTubeにいる凄腕
手軽なところでYouTubeで検索すると、とんでもない凄腕の演奏者がゴロゴロいます。以前はバンドを始める時にドラマーを探すのに一苦労でしたが、YouTubeやニコ動の中には「○○を叩いてみた」みたいなタイトルで、ハイレベルな演奏をする人を大量に見かけます。ではこういう人達をバンドに入れれば演奏力が上がるかというと、それは全く別問題だったりします。この手の人の何割かは、ハイレベルなテクニックを並べているだけだったり、単に演奏を速くすることに長けているだけだったり、実はさほど難しくないことを派手に見せるのが得意だったりで、バンドの演奏にはさほど寄与しない人が混じっています。少し古いですが、マイケル・アンジェロという90年代に話題になったギターリストを例に挙げましょう。
アンジェロは膨大な練習によって鍛え上げられたテクニックを持ち、超高速の速弾きや右利きなのに左にギターを持っても右と同様の演奏ができました。またアンジェロ・ラッシュと呼ばれた左手を一音ごとにネックの上下から指を入れ替えて弾く演奏など、トリッキーなプレイで多くの人の度肝を抜きました。90年代のギターショーや楽器ショーに引っ張りだこで、アメリカ各地で超絶なデモプレイを披露しています。
※両手を使った超絶デモプレイ
※アンジェロ・ラッシュ。
このアンジェロの演奏は見た目に面白くて刺激的なのですが、目を閉じて聴くとどれも同じようなメロディを繰り返していて、悪く言えば単調で退屈です。アンジェロのバンドは成功したとは言い難く、ギターリストとして招かれるというよりギター芸人として扱われることの方が多いように思います。アンジェロの演奏は面白いですし、高いテクニックを有しているのは間違いないのですが、ギターリストとしての評価は微妙な位置になってしまいます。
わかりにくいリズムセクションの上手さ
リズムセクションはベースとドラムのことを指します。この二つは聴いただけでは上手さがわかりにくく、派手なソロを入れると上手いと評価されがちです。しかし本来の仕事はバンドのリズムを支えるのが仕事で、バンドのノリを決めるのはこの2人になります。だからソロプレイはオマケみたいなもので、ソロをやらない上手い人は沢山います。※テクニシャンのベーシスト、ビリー・シーン |
バンドの音に寄り添い、歌を引き立て、リード楽器(ギターやキーボードなど)を輝かせるのがリズムセクションに託された重要な仕事で、そのため演奏中に存在感がない人も多くいます。むしろ演奏中に存在感が消えるのが理想と言うドラマーやベーシストもいるくらいで、周囲を引き立てるためだけに全力を注ぐ人もいるくらいです。この手のタイプの巧者は、パッと聴いただけでは上手さはわかりません。しかしバンドに入って一緒に演奏すると、その差は歴然とします。
※ドラムの神と呼ばれるスティーブ・ガッド |
もちろん「俺はここにいるぜー!」と存在感を示すベーシストやドラマーもいますが、歌が入るときはスッと引いてヴォーカルを引き立てることができないと、単にうるさい奏者になってしまいます。いかに周囲を活かすことができるかがリズムセクションの重要な仕事なので、演奏経験のない人にはわかりにくい上手さになのです。
関連記事:ベーシストという不遇な人々
リズムギターのわかりにくさ
リズムセクションほどではないですが、リズムギターも上手さが理解されにくい部類に入ります。ギターはソロを弾いてなんぼみたいな風潮は70年代からあり、コードをかき鳴らしてリズムを刻むリズムギターリストは上手くても評価されにくい印象があります。リズムギターはバンドの色どりを決めることが多く、リズムギターが変わるだけでバンドの印象がガラッと変わることがあります。例えばリズムギターはヴォーカルがやっていたけど、リズムギター専門の人を招き入れると雰囲気が変わるなんてことは、さほど珍しくありません。※変態系へたうまギターリストのキース・リチャーズ |
ギターでジャカジャカとコードを鳴らすだけなので、ギターを始めた初心者は、まずリズムギターから覚えることが多いと思います。そのため下手な人がリズムギター、上手い人がリードギターをプレイすると勘違いしている人もいます。ところが、このガチャガチャコードを鳴らすのが奥が深く、リズムが跳ねたりタメたりツッコんだりして変化をつけることで、曲の雰囲気が変わっていきます。これはリズムセクションにも言えることですが、正確なリズムが良いとは限らないのがバンドの面白さで、歌詞の雰囲気などに合わせて様々な変化に対応できる奏者は上手いと言われます。
上手いと良いバンドなのか
これが実に難しくて、演奏は上手い方がいいに決まっています。しかし荒々しくて未熟な演奏でも、人の琴線に触れる演奏をするバンドがいるのも事実です。そしていくら上手くとも、なんの印象にも残らないバンドもいます。名前を出すと語弊があるので出しませんが、「ああ上手いね。だからなに?」と言いたくなるような演奏をするバンドもいます。※テクニカルなバンドとして有名なTOTO |
とにかく難しいことをやりたがるバンドは、演奏を聴くというより曲芸を見ている気分になりますし、テクニックをひけらかしているようで感心しません。一方で難しいことは何一つしていないのに、曲の良さと相まってヒリヒリするような興奮、泣けてくるような感動、ほんわかした優しい気持ちになる曲を演奏する人達もいます。演奏の上手さは確実に表現の幅を広げてくれますし、伝えたいものを伝えやすくなります。逆に言うとそれだけで、伝えたいものない人がどんなにハイレベルな演奏をしても何も響かないのです。
バンドは仲が良い方がいい
少し脱線しますが、バンドのメンバーは仲が悪いと良い演奏ができないという意見があります。それはその通りだと思いますし、仲が悪いよりも良い方が運営も楽です。しかし仲が悪いから出来上がった名演というのも存在するので、仲が良いバンドが良い演奏をするというのが100%正しいというわけでもありません。有名なものとしては、クリームというバンドのアルバム「素晴らしき世界」に収録された「クロスロード」という曲があります。ギターのエリック・クラプトンに嫉妬していたベースのジャック・ブルースは、クラプトンの演奏を追いやるようにベースの手数を増やしてクラプトンより自分が目立とうとします。クラプトンはそれに抵抗するように熱のこもった演奏で力強いリフを繰り返していきます。ピリピリした緊張感が漂い、それでも演奏が破綻することのないように3人がギリギリのところで踏みとどまっています。
※クリームのクロスロード
ドラムのジンジャー・ベイカーを含め、3人が高いレベルの演奏が可能だったので、仲の悪さが高いテンションと緊張感を生み出した名演になりました。他にもディープ・パープルの「ライブ・イン・ジャパン」など、仲の悪さが生み出した緊張感の高い名演というのはいくつもあります。ですが、これらは高い演奏技術に加え、演奏を破綻させないプロフェッショナリズムなどが噛み合った奇跡的な演奏と言われています。だから仲が悪い方が良い演奏ができるということにはなりません。馴れ合いにならない仲の良さがあった方が、バンドはスムーズにいくと思います。
結局上手いってなんなの?
一般的にリズムがキープできて、ミスのない演奏をすれば一定の技術があると見られます。しかし世間で言われる楽器が上手い、演奏が上手いというのは、明確な基準がありません。主観も入りますし、音楽のジャンルによっても分かれます。クラシック音楽では音の粒を揃えることが要求されますし、演奏ミスなどとんでもないことです。一方、ジャズバンドやロックバンドではグルーブ(ノリと言っても可)を大事にするので、小さな演奏ミスや音の粒を揃えることは重要ではありません。正確な演奏をしてもノリが悪ければ、酷い奏者、退屈な奏者だと言われてしまいます。また個人の好みによって、上手い下手が言われることもあります。手数が多いのが好きな人もいれば、少ないのを好む人もいます。そのため技術とは別のところで下手と言われるミュージシャンは、案外多くいるのです。反対にリズムキープすらできず、きちんとした音を鳴らせないドラマーが、日本ではカリスマドラマーとして上手な部類に評価されている例もあり、好みが上手い下手の評価に大きく影響しているように思います。
実際にそのバンドに参加してみると、誰でも演奏技術の差は感じることができます。上手いバンドは歌いやすいですし、楽器を持って参加しても演奏しやすく感じます。歌心を持ったリズムセクションで歌うと、バンドに身をゆだねて心地よく歌えますし、ギターやキーボードが歌う気持ちを盛り上げてくれて、自分の歌が上手くなったような錯覚を覚えます。バンドの上手さは聴くより体験した方が、手っ取り早く感じることができるのですが、なかなか体験できることではないですね。
まとめ
バンドの上手い下手は明確な基準がなく、主観で語られることが多々あります。私は今でもローリング・ストーンズが大好きですが、ストーンズが上手いか下手かはよく議論になりますし、一般的には下手と言われることの方が多いように思います。下手という意見には賛成できる点もありますし、全く同意できないものもあります。ですが、そんな議論とは関係なく好きだからいいのです。バンドの上手い下手にあまりとらわれすぎると、本来の音を楽しむことを忘れがちになります。バンドをやるなら演奏力を高める努力を重ねるべきですが、聴くだけの時にあまりそこにこだわる必要はないのではないでしょうか。
関連記事
第2次バンドブームについて考える /BOOWYからイカ天まで
いかすバンド天国 /深夜の怪物番組の功罪
SHOW-YAとお友達だった人と80年代を語った
BOOWYとはなんだったのか /日本のロックは歌謡曲なのか?
ベーシストという不遇な人々
伝説のバンドHIS /忌野清志郎は坂本冬美に何を見たのか?
歌手が音程を調整するのは反則なのか? /ピッチ調整ソフトの功罪
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