歌手が音程を調整するのは反則なのか? /ピッチ調整ソフトの功罪

今やYouTubeの歌い手さんも普通に使っているピッチ調整ソフトは、録音した歌の波形を調整することで、ズレた音程も修正してくれる便利なソフトです。プロの歌手もほとんどの人が使っていて、調整無しでCD化されることは皆無といっていいでしょう。このピッチ調整ソフトを使うのは反則ではないか?という意見が多いので、今回はそのことを考えてみたいと思います。



ピッチ調整ソフトは石油発掘から生まれた

アンディ・ヒルデンブランドという人が、石油の埋蔵場所を探すソフトを研究している時に、この技術がオーディオにも転用できることに気づきました。オートチューンと名付けられたこのソフトは、1997年に発売されると音楽製作の現場を変えたと言われるほどの衝撃を業界に与えます。

※アンディ・ヒルデンブランド氏

日本では2000年にパフュームがオートチューンで声を変質させた「ポリリズム」を発表し、大ヒットしたことでこのソフトの知名度が一気に上がりました。

なぜピッチ調整ソフトは広まったのか?

最初にオートチューンを使って注目を集めたのは、アメリカのシェールというシンガーで、自分の声をロボット風に変える目的で使いました。日本のパフュームも肉声らしさを消すために使用しました。このように自分の声を変質させるエフェクターとして、最初は注目されたのです。

※パフューム「ポリリズム」

また、近年では打ち込みなどのコンピューターで作った演奏音が用いられることが多くありますが、機械的に正確なリズム、ピッチが揃っている演奏に人間の声を合わせると歌声だけが浮いてしまうことがあります。そこで演奏の方に音程の揺れを与えて自然な歌に聞こえるようにすることもあります。

もちろん、歌の音程が外れても修正することができるので、歌の録音が早く済むというメリットもありました。ハモりもピッチ調整で簡単に作れるので、これも録音を早く済ませられる要因になりました。

ピッチ調整ソフトで変化したもの

音痴の定義がピッチ調整ソフトで変わったと言われています。かつての音痴は生歌が下手な人を指していましたが、近年ではピッチ調整したことがわかりやすい人を音痴と言うようになったと言う人もいるほどです。

しかし最も変化したのは、アイドル歌手の歌声でしょう。かつてはどうにも音程を外してしまう歌手、音程は合っているけど声質のせいやリズム感で音痴と思われてしまう歌手など多様性がありました(もちろん歌が上手いアイドルもいました)。しかし近年ではピッチ調整ソフトで全面的に加工してしまうため、声が均質化してしまいどのアイドルの歌い方も同じようになっています。

※音痴で有名だが、意外と音程は外さない松本伊代

最近のアイドルの歌は同じに聞こえるというオジさんやオバさんが多くいますが、同じソフトで全面的に加工してしまうと、似たような仕上がりになるのは当然なのです。

ピッチ調整ソフトは使い方次第

ケロケロボイスと呼ばれるロボット風に声は、ピッチ調整ソフトによって可能になりました。パフュームなどはこれを効果的に使い、他にはない世界観を演出しています。その一方で、プロにしては実力の低い人の歌をそれなりに聴かせることが可能になったため、声が均一化してしまい同じような歌が蔓延することになりました。

表現の幅を広げるか、金太郎飴を量産するかは使い方次第なのです。ですからピッチ調整ソフトを悪だと決めつける風潮は、ちょっと違うのではないかと思います。

最後に代表的なピッチ調整ソフトをご紹介

アンタレス オートチューン
代表的なピッチ調整ソフトで、プロのレコーディング現場で使われるソフトです。細やかなピッチ調整が可能で、調整した音と未調整の音の繋ぎが自然に行えます。業界標準ソフトと言えるでしょう。





メロダイン
YouTubeの歌い手などに大人気なのがメロダインです。ビジュアル的な見やすさと操作性の良さ、そしてオートチューンの半額以下で購入できるのが魅力になっています。オートチューンほど細やかな調整ができませんが、趣味の範囲で使うにはもったいないと思うほど強力なツールです。


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