朝倉兄弟がUFCに挑むべきではないと思う5つの理由

 日本のMMA(総合格闘技)は、今や朝倉未来朝倉海の朝倉兄弟を中心に動いていると言えるでしょう。もちろんそれ以外にも強豪はいますし、日本では突出した存在になっている堀口恭司の存在もあります。しかし日本での観客動員数や視聴率の観点から見ると、朝倉兄弟が中心になっていると言っても過言ではないと思います。二人はアメリカのUFCに参戦する意向を口にすることもあり、それを望んでいるファンも多くいます。しかし個人的には挑むべきではないと思っていますので、そのことについて書いていきたいと思います。


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朝倉兄弟とは何者か?

知らない人のために、簡単に二人の略歴を書いていこうと思います。兄弟二人とも、現在の日本のMMAを語るうえでは絶対に外せない存在です。

朝倉未来(あさくら みくる)


1992年愛知県豊橋市に生まれました。身長177cm体重66kgのMMA選手です。高校進学後に傷害事件を起こして退学処分になり、その後は働きますが暴走族にも参加して暴れていたようです。警察に逮捕されて16歳から18歳までを少年院で過ごし、禅道会豊橋道場に入門してMMAを始めます。

地下格闘技大会の黒王に出場したのを皮切りに、DEEPなどの大会にも出場し、2013年から元プロレスラーの前田日明が主催するTHE OUTSIDERに出場します。そこで65-70kg級の王座を獲得すると、60-65kgにも出場して二冠を達成します。さらに2018年にはRIZINに出場し、圧倒的な人気を誇るようになりました。また自身のYouTubeも高い人気を集め、日本のMMAの話題を独り占めにしていきます。「路上の伝説」というキャッチコピーで話題を振り撒くと、今やCM出演やアパレルブランドの展開、書籍の出版やテレビ出演などで経営者としても大成功を納めています。

朝倉海(あさくら かい)


朝倉未来の弟で、1993年に同じく愛知県豊橋市に生まれました。兄のように非行に走ることはなく、バレーボール部で汗を流すような少年だったそうです。しかし兄に誘われる形で禅道会豊橋道場に入門し、MMAを始めています。高校卒業後は大手企業のデンソーに就職し、サラリーマンをしながらMMAの試合に出る生活を始めました。

兄とともにTHE OUTSIDERに参加すると、55-60kg級の初代王者になります。しかし2017年にムン・ジェフンに初黒星をつけられると、MMAに専念するためにデンソーを退職して上京しました。そしてRIZINに出場を決めると、6連勝してマネル・ケイプとバンタム級王座決定戦を行います。ここでケイプに負けてしまいますが、ケイプはUFC参戦のために王座を返上したことで、扇久保博正との王座決定戦が決まり、勝利してバンタム級王者となりました。

UFCに挑むべきではないと思う理由

このように人気実力ともに日本国内で絶対的な地位を築いた朝倉兄弟ですから、さらに上のレベルに挑戦することを望まれています。ファンの多くは朝倉兄弟が初のUFC王者になることを口にし、本人たちもたびたびそれに言及しています。しかし個人的にはUFCに挑戦するのは、かなりのギャンブルになると思います。

理由1:好条件での契約が難しい

日本では圧倒的な知名度を持つ朝倉兄弟ですが、世界的にはそれほど有名ではありません。どこまで信憑性があるのかはともかく、あちこちで参照されているFIGHT MATRIXのサイトでは、朝倉未来が2021年10月1日現在でフェザー級113位、朝倉海が同じく2021年10月1日現在でフェザー級39位です。



また、こちらもあちこちで参照されているRankingMMAというサイトでは、50位までしか掲載されないためか朝倉兄弟の名前は見つかりません。二人ともランク圏外ということになります。またGoogleで英語圏のMMA関連サイトを検索しても、決して知名度が高いとは言えない状態なのがわかります。世界的に知名度が高くない理由は、名の知れた選手との対戦が少ないことが最大の理由だと思われます。

朝倉未来は、RIZINに参戦して10勝2敗です。負けたのは斉藤裕とクレベル・コイケで、この二人も世界的には無名の選手です。海外から見ると、無名の選手と12回試合をして10回勝ったという以外、何もわからないので評価のしようがないということになります。一方で朝倉海は有名選手との試合もあります。11勝3敗ですが、その戦績には堀口恭司と1勝1敗、マネル・ケイプとの1勝1敗が含まれます。UFCでタイトル戦を行った堀口恭司に1度は勝っているという事実、同じくUFCで2勝2敗の平凡な戦績のマネル・ケイプと対戦して1勝1敗という事実が、FIGHT MATRIXでの39位という順位に繋がっていると言えるでしょう。


UFCは常に利益を気にしているので、興行を盛り上げるトップクラスの実力を持った選手を求めています。実力がほとんどわからない無名の朝倉未来、UFCで平凡な成績しか残せていないマネル・ケイプと互角の成績の朝倉海が、今のRIZINより有利な契約を結べるとは思えません。もしUFCと契約するにしても、驚くほど安いファイトマネーを提示されると思われます。

理由2:環境を全て変える必要がある

日本に住みながら、今までのライフスタイルを崩さずにUFCに参戦するというのは、あまり現実的ではないように思います。コロナ禍でいつ出入国ができなくなるかわからない状況ですから、アメリカで生活することを考えなくてはいけません。そうなるとトレーナーの変更、練習環境の変更などを余儀なくされ、全く新しい環境で始めなくてはならなくなります。

※アメリカの名門チームの一つ「アメリカン・キックボクシング・アカデミー」

もちろん、トレーナーも含めて全員でアメリカに移るという方法もあるでしょう。しかし全員の家賃や食事代の元になるのはファイトマネーです。高額なファイトマネー得られない間もこれらの費用はかかってくるので、金銭的な負担は決して小さくありません。それにアメリカに定住することが無理なスタッフもいるでしょう。現実的にはアメリカの既存のジムを本拠地にして、アメリカのトレーナーを雇ってトレーニングすることになると思います。

理由3:成功する確率が低い

UFCが世界最高峰と呼ばれる理由の1つに、世界各地にある有力なMMA団体を買収して最大勢力になったというのがあります。そのため主要団体の主だった選手がUFCに参加してきた歴史があり、その中で王座を巡って熾烈な争いが繰り広げられてきました。世界58ヵ国から常時600名以上の選手が参加し、28ヵ国で開催され、172ヵ国にテレビ放送される巨大産業となったUFCでは、トップクラスの選手の年俸も桁外れになっています。その中で成功するには実力だけでなく運も必要と言われ、誰にとっても困難な道のりになっています。


ここで成功するには慎重に相手を選ぶことも重要と言われていて、絶対に勝てない相手と分かれば対戦を承諾しないことも重要です。日本では一度断ってしまうと次の試合が組まれないこともあるようですが、UFCでは対戦を断るのは割と多いらしく、勝てない相手に無理して挑むことはないのです。そのためには交渉するエージェント的な仕事ができる人が必要で、大手のジムでは巧みな交渉を行っているようです。朝倉兄弟が参戦するとすれば、このような大手ジムに入るなどするか、自前でエージェントを雇うかしなくてはなりません。

理由4:今以上の収入を得るのは難しい

UFCは恐ろしくドライなことでも知られ、鳴り物入りで参戦した選手でも、成績が振るわないとあっさりリリース(契約解除、または契約を更新しない)します。また勝ち続けていても、お客を呼べない選手のギャラは低いままで、中堅選手のギャラはかなり低いことでも知られています。多くの中堅選手のファイトマネーは1試合あたり500万円程度と言われていますし、チャンピオンになっても客が呼べない王者は1000万円程度とも言われています。客の要求に応えて勝つことが求められ、どちらができなくても低いファイトマネーに甘んじなければなりません。

その反対に、客の要求に応えて勝つことができる選手には巨額のファイトマネーが入ります。代表的なのがコナー・マクレガーで、2021年1月のダスティン・ポイエー戦では23億円ものファイトマネーが支払われたそうです。試合はタイトルマッチでもなく王者でもないマクレガーですが、話題を集め常に観客を驚かすマクレガーは高額なファイトマネーを受け取っています。UFCは客を呼べる選手とそうでない選手の差別化は徹底していて、過去には女子選手が戦っている自分よりオクタゴンガール(ラウンドガール)の方が高額なギャラを受け取っているのは納得できないと訴えたことがあります。しかしイベントを通じてスターになり、集客力を持つオクタゴンガールに高額なギャラを払うのはUFCにとって当たり前で、試合で客を呼べない選手は低いファイトマネーのままなのです。


現在、最も人気があり集客力を持つオクタゴンガールのアリアニー・セレステは、2006年からオクタゴンに立っています。彼女のギャラは1試合ごとに1000ドル(約11万円)、PPVイベントごとに5000ドル(約55万円)にもなります。その人気はオクタゴンに留まらずインスタグラムのフォロワーは290万人を超え、モデル業、TV番組のホスト、ファッションブランドなども展開し、今や年間の収入は100万ドル(約1.1億円)を超えているそうです。UFCファイターの多くは、オクタゴンガールの収入を超えられないと皮肉られたこともあるほどです。

※最も有名なオクタゴン・ガールのアリアニー・セレステ(右) 

現在のUFCで、年間1億円以上を稼げるのは全階級を通じてごく一部です。朝倉兄弟が日本で高額な収入を得ているのであれば、それ以上の収入をUFCで得ることはかなり難しいと言えるでしょう。むしろUFC挑戦失敗となれば現在の人気も消失し、日本でも稼げなくなる可能性があります。

理由5:成長し続けないと勝てない環境

RIZINとUFCを比較して思うのは、選手の成長速度の違いです。朝倉兄弟の過去3試合を見て、著しく成長した部分を探すのは難しいと思います。しかしUFCのトップファイターやトップに上り詰める選手は、毎試合ごとにどこか成長している部分があります。私がハビブ・ヌルマゴメドフの試合を初めて見たときは、タックルとグランドコントロールが上手いだけの選手でした。しかし試合を見るごとに金網の使い方や打撃のテクニックが向上していくのがわかりました。やがて打撃だけで勝つ試合も増えていき、スタンドでも死角が消えていきました。


イズラエル・アデサニヤにしても、最初に見たのはデレク・ブランソンとの試合でしたが、それから試合ごとに強くなっているのが見ていてわかりました。彼らに共通しているのは、1試合ごとに新たな武器を手にしていたことです。今のUFCでは、試合が終わるとその戦術や癖は徹底的に分析され、丸裸にされてしまいます。そのため同じ方法で次の試合に勝つことは難しく、今回の試合で見せた弱点を克服し、新たな武器を手にしないと連勝できないのです。このような環境で勝ち続けるには、自分を客観的に分析すること、対戦相手を分析することが必要で、常に高い目標を持って急速に進化する必要があります。朝倉兄弟もこれほどの成長速度を実現しなければ、UFCで高い収入を得るどころか上位に食い込むことすら難しいでしょう。

※ミドル級で無敗を誇るアデサニヤ

ハイリスク・ローリターンの挑戦

現在の朝倉兄弟の人気は、RIZINで勝つことによって支えられています。UFCに挑戦するとなると、環境を変えて練習を変えて全てを変えても、現在のように勝利を手にする可能性は低いと思います。プロの選手であれば、第一に考えるのは収入です。多くの選手はより高い収入を得るためにハイレベルなステージに立つことを望みますが、すでに朝倉兄弟は最高峰ではないステージで最高峰の収入を得ています。それを捨てる意義はあまりないと思うのです。

もちろん、すでに収入は十分でお金はこれ以上いらないから、より高いステージに挑戦したいという気持ちになることもあるでしょう。それならば全力で応援したいと思いますが、もっと有名になれるとかもっと稼げるという考えでUFCを目指すなら、あまり良い結果にはならないような気がしてしまいます。失うものが多くても、それでも挑戦したいという気概がないなら、単にリスクばかりが高くて得るものが少ない結果に終わるように思います。

まとめ

誰が挑戦しても難しいUFCに、すでに金銭的な成功を収めている朝倉兄弟が参戦するなら、それはロマンを求める以外にないように思います。そしてロマンを求めて挑戦するなら応援したいと思いますが、それ以外の金銭や知名度を求めるならちょっと違うように感じてしまいます。ここでは朝倉兄弟が挑戦したいと思えば挑戦できるという前提で書きましたが、実際にUFCを運営するズッファ社が朝倉兄弟をどのように評価しているかはわかりません。オファーしたところで、オーディション番組の「ジ・アルティメット・ファイター」などに出ることを勧められる可能性もあります。ズッファ社やダナ・ホワイトが公式にコメントしたことがないので、彼らをどのように評価しているのか、こればかりは全くわかりません。



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