映画「シャイニング」について考える その5 /一点透視法の多用と寒々しい画面

※この記事は2016年3月27日に、前のブログに書いた記事の転載です。

前回記事:映画「シャイニング」について考える
     映画「シャイニング」について考える その2
     映画「シャイニング」について考える その3
     映画「シャイニング」について考える その4


スタンリー・キューブリックは「シャイニング」に限らず、一点透視法と呼ばれる奥行きのある画面構成を好んで用います。また左右対称のシンメトリーを好むことでも知られています。これらは画面構成が安定するため、本来は安心感を生みます。

※ホテルのロビー




映画「シャイニング」のカメラワークは、この2点を神経質なほど徹底することにより、整いすぎていると逆に不自然であり恐怖すら覚えることを教えてくれます。これらの画面構成に加え、どの部屋も家具のカタログ写真のように整理され、生活感がないことも寒々しさを与えます。特に陽気でいかにもアメリカ人のハロランの部屋までも、完璧に整っていることにギャップと違和感を覚えます。

※ハロランの部屋の壁には黒人女性の絵画があり、左右にライトがあります。

※反対側の壁にも黒人女性の絵画と左右にライトがあります。

一点透視法の消失点に向かう構図は、「2001年宇宙の旅」でも使われ、消え入りそうな喪失感が伴います。これが効果的に使われたのが、三輪車でダニーがホテルの廊下を走り回るシークエンスで、ダニーを後ろから撮影することで消失点に向かうダニーの映像が続きます。音楽を排し、三輪車の車輪のノイズだけが響くこのシークエンスは、何げない映像ながら観る者に強烈な印象を与える不気味な雰囲気を作り上げました。

※三輪車は常に消失点に向かって走り続けました。

一点透視法とシンメトリーは単独で使われるだけでなく、両方が同時に使われることも多くあります。ホテルの廊下をダニーが三輪車で走るシークエンス、双子の姉妹が部屋の奥に現れるシークエンス、迷路の中を逃げまどうシークエンスなどがそうです。数学的に計算された構図と呼ばれますが、正確であればあるほど狂気と不自然さがつきまといます。

※消失点に双子が現れます。

さらに特徴的なのは、撮影の多くをステディカム(手ブレのない手持ちカメラ)を使用し、カメラを縦横無尽に動かすことで浮遊感を演出していることです。そしてカメラがパン(左右に首を振ること)が、ほとんどないのも特徴的です。ただジャックがウエンディらを襲うために、斧でドアを壊すシークエンスだけは、斧の動きに合わせて映像がブレるほど鋭くカメラがパンします。フワフワした映像が続く中で、このパンは斧の破壊力を強調する効果を生んでいます。

※ステディカムで迷路の逃走シーンを撮影するカメラマン

そしてキューブリックが好み、現在ではほとんど使われなくなったズームイン・ズームアウトも要所で使われています。人間の目にはズーム機能がないため、ズームは臨場感を損ねるので使われることが減ったのですが、キューブリック臨場感よりも観察者や傍観者の視点を好みました。これがキューブリックの作品で、よく言われる「神の視点」と呼ばれるもので、ある種の冷ややかさが加わることになります。

あえて違和感の残る画面を作ることで、見るものを不安にさせることに成功しています。また物語そのものもオカルトなのか精神異常なのか、また全く別のものなのかがわからないため多くの議論を呼び話題になりました。キューブリックの巧みさが、ここにあると思います。


「シャイニング」の考察は、これで一旦終了です。また何か気がついたら、ここに書こうと思います。



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※これがステディカムです。


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