映画「シャイニング」について考える その3 /物語の二重性とシンメトリー

※この記事は2016年3月12日に、前のブログに書いた記事の転載です。

前回記事:映画「シャイニング」について考える
     映画「シャイニング」について考える その2

原作の「シャイニング」は、スティーブン・キングの自伝と言われています。結婚し子供をもうけたものの小説が全く売れず、貧困にあえいでいました。そんな中、季節外れのホテルの地下で、ホテルの管理人が孤独に耐えかねて発狂し、家族を惨殺する記事を見つけます。これがシャイニングの元になっています。



映画「シャイニング」のジャックもキングと同様にホテルの中で、小説のヒントを見つけて描いた物語が、映画の後半部分に当たるという説が存在します。ではどこからがジャックが描いた物語なのか?それは妻のウェンディと息子のダニーが、ホテルの敷地にある迷路で遊んでいるシークエンスからだと言われています。

※ホテルの迷路を歩くウェンディとダニー

ホテルの模型をジャックが見ていると、模型の迷路の中にウェンディとダニーが現れるシークエンスです。あそこで現実からジャックの想像の世界、つまりジャックが考えた小説の世界に画面が移行したというわけです。あの場面以降、映画の最後までがジャックの小説の世界なので、超常現象を描いていても現実に超常現象は起きていないということになります。

※迷路の模型を眺めるジャック

この説の証拠として挙げられるのが、かつて家族を斧で惨殺したグレディの存在です。冒頭で名前が登場した時は、チャールズ・グレディとなっていますが、ジャックの前に姿を現したグレディを、ジャックはデルバート・グレディと呼びます(なぜか字幕には書かれていません)。惨殺の犯人とジャックの前に現れたグレディは、別人なのです。ですからジャックの前に現れるグレディは、惨殺事件から着想し名前の一部を拝借したジャックの想像上の人物だというのです。

※ジャックの前に現れるデルバート・グレディ

本作では二重性が繰り返し描かれています。トニーとダニー、犠牲者の双子、陽気なジャックと家族を襲うジャック、そしてグレディも二人いるわけです。その二重性を強調するように、シンメトリーと鏡が至る所に出現します。そして物語そのものが、現実と想像の世界という二重性で描かれているのではないでしょうか。

※鏡にジャックの顔が映るのは位置的におかしいと言われています。

ではジャックよりも先に超常現象を目撃していた息子のダニーはどうなるのかというと、これは全くわかりません。本当に超常現象が起こっていて、それを目撃した可能性もありますし、空想の友人トニーがいることから、ダニーの妄想ともとれます。映画から、読み取ることはできません。

そしてこれらを総括するように、現実とも空想とも妄想とも言える世界観こそがキューブリックの狙いだと言う人もいます。そのため真意は誰にもわからず、今でも格好の議論の対象になっています。

次回はホテルの複雑な話です。


※ジャック・ニコルソンが演じるジャック・トランスがジャック/ダニエルを飲んでましたね。


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