映画「シャイニング」について考える その4 /変化し続けるホテル内部

※この記事は2016年3月17日に、前のブログに書いた記事の転載です。

前回記事:映画「シャイニング」について考える
     映画「シャイニング」について考える その2
     映画「シャイニング」について考える その3

家具のカタログ写真のように整った部屋、繰り返されるシンメトリーの画面は潔癖な印象を受けますが、その潔癖さに混じって建物は映るたびに変化しています。実はこのホテルの大半は、イギリスのスタジオに作られたセットで撮影されています。コロラド州どころか外国なんですね。しかしこれにより、建物内部が変幻自在に変化する不思議な建物を撮影することができました。



モデルになったホテルは、内部のつくりはカリフォルニア州のヨセミテ国立公園にあるアワニーホテルで、外観はオレゴン州のティンバーラインロッジが使われています。外部からの映像の多くはロケ班が撮影した映像ですが、役者が登場する部分は外観もセットで撮影されています。キューブリックは、アメリカが舞台の本作を製作するにあたって、アメリカには一度も訪れていません。

※ホテルはイギリスのスタジオに建てられました。

変化する建物の例として、ハロランがジャック一家に食品庫を案内するシークエンスが挙げられます。カメラが切り替わる度にドアの開き勝手が左右に変わります。下の画像をご覧になっていただければ、ドアの開き勝手だけでなく廊下の背景まで変わっていることに気づくと思います。このようにほとんどの人が気付かないけど、どことなく違和感を覚えるようなシークエンスが多く挿入されています。

※入る時と出る時では背景が変わっています。

ジャック達が泊まっている部屋は、映る度に間取りや窓の位置が変化していますし、腐乱死体が出てくる237号室の位置も毎回変わります。そもそもホテルの廊下には、ワンルームマンションかと思うほど大量のドアが並んでいます。これは実際のホテルより、はるかに多いドアの数になっています。さらに内廊下の外側、つまり外に面した窓がある壁にもドアがある不可解さがあります。

※ホテルの間取り図。どこにつながっているかわからないドアが大量にあります。

さらにホテルの敷地にある迷路ですが、案内の看板に描かれる迷路とは全く異なる複雑さになっています。映像からはわかりにくいですが、この迷路も度々作り変えているため、シークエンスごとに迷路が変わっていて、撮影中にスタッフも出られなくなったそうです。

※迷路の案内板。そもそも出口が描かれていません。

※ジャックが見ている模型は、案内板よりはるかに複雑です。

このように、何度も見ないと気がつかないような変化をふんだんに盛り込み、何となく違和感のある建物を形成することで、完璧な構図の画面とのギャップを作り、深層心理的な不安感を煽ったと言われています。

これら摩訶不思議なホテルの変容は、至る所に見られるので、見る際には注意深く見ると面白いと思います。

次回は最終回で、画面の構成についてです。





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