相撲は女人禁制という伝統は本当か

4月4日に京都府で巡業中の大相撲の土俵上で市長が倒れ、心臓マッサージを始めた女性(救命士という話と一般客という話があります)に対し、女性は土俵から降りるようにアナウンスがあったようです。これを巡り、相撲の女人禁制に関して議論が起こりました。現場では土俵に女性がいると指摘した観客、場違いなアナウンスだと感じた観客の双方がいたようで、受け取り方は人それぞれのようです。

古代から女性は土俵に上がっていた

相撲の歴史は古く日本書紀にも登場しますが、ここでは女性が相撲をとっている様子が描かれています。また江戸時代には女相撲が流行し、特に盲目の男性と女性が行う相撲は大正時代まで行われていたようです。つまり土俵の上に女性が立ってはいけないというのは、かなり近年になってから決まったのです。一方で、江戸時代には女性が相撲を見に行くことが禁じられていたようですが、これは贔屓の力士が勝った負けたで観客同士のケンカが頻発していたため、安全性を考えて女性の観戦を禁止したという説もあります。

※鎌倉山女相撲

ちなみに男女相撲が禁止になったのは、警察による取り締まりであり、相撲界が自ら禁止したわけではなさそうです。公衆の面前で裸の男女(当時の女性力士はまわしだけで裸だった)が抱き合う様子を見世物にするのは、「醜態ヲ見セ物ニ出ス者」として軽犯罪法による摘発が行われました。つまり裸の女性を見ることができて、それに男性が抱きつく姿をワイワイ騒ぎ立てながら見るという性風俗の商売だったと想像できます。その後、女相撲は着衣で行うことによって摘発されることはなく、しばらくの間続いています。

※昭和11年の女相撲。服を着て行っているようです。

相撲は神事か見世物か?

明治3年に東京で出された「裸体禁止令」により、東京の力士はむち打ちなどの罰をうけています。さらに明治10年に大久保利通は、寺社仏閣の境内で見世物を行うことを禁じます。これにより東京都墨田区の回向院(えこういん)で相撲ができなくなりました。回向院は相撲の聖地であり、18世紀から相撲が行われてきました。大久保利通にとって、当時の相撲は神事でも祭事でもなく、見世物として見られていたように思われます。

※回向院

こうして相撲は廃止の危機を迎えます。明治天皇が相撲好きで深く悲しんでいたこと、その意をくんだ伊藤博文の尽力によって、明治17年には天覧相撲が行われます。天覧相撲を実現するため、相撲は伝統と神事的な側面を強く打ち出すようになり、明治42年には国技館が建設されることになりました。

赤不浄の穢れという説

これは相当怪しい気がしています。確かに月経や出産は女性特有の出血で、これを穢れ(けがれ)とするのは相撲界以外でも聞きます。しかし出血は男性にもありえることで、赤不浄を重んじる儀式では性別に関係なく出血した人は外されてきた歴史があります。面白いのは平安時代の役人、藤原忠平は痔の出血があったため、奉幣(神様に奉納する儀式)に出てよいか悩んだ記述があります。また各地のお祭りでも出血した人が出られなくなる風習があり、男性も該当する場合が多くあります。

※痔に悩んだ藤原忠平

月経などの出血を穢れとする風習は、現代では女性差別として扱われることが多いのですが、古くは体調の変化が激しい時期に女性に無理をさせないといういたわりだった面もあり、単なる差別ではない場合もあります。相撲が赤不浄によって土俵に女性があがることを禁じたのなら、痔の男性も同様になりますし、取り組みでの出血も同様に嫌味嫌われるはずです。

取り組みによって頭がぶつかり、力士が出血することはあります。それで土俵を追われることはあったでしょうか?私は相撲の赤不浄は、後からこじつけたように思えてなりません。

女性を土俵にあげるべきか?

この議論は決着を見ないまま続いていますが、最終的には日本相撲協会が決めることだと思います。歌舞伎の舞台に女性をあげるか否か?宝塚歌劇団に男性を入れるべきか否か?と同様で、過去の歴史を踏まえて当人たちが決定するべきことだと私は考えます。しかし一方で、今回のように救命措置の最中に女性だからという理由で降りろというのは行き過ぎだと思いました。上記のように女性が土俵に上がるのを禁じた神事的理由は希薄で、破廉恥と警察に言われるような男女相撲を行っていた歴史もあるのです。

※女性だけで構成される宝塚歌劇団

全ての女性を解禁にするのは難しくとも、緊急性がある場合は女性が土俵に上がるのを認めるのは難しいことではないように思うのですが、どうなんでしょうね。


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