オリンピックの旭日旗 /自粛すべきか無視するべきか

オリンピックで旭日旗禁止の要請が韓国からあり、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は禁止にしないことを発表しました。IOC(国際オリンピック委員会)は、問題が生じればケースバイケースで対応すると表明し、IPC(国際パラリンピック委員会)は、大会とは無関係な問題と拒否しました。これを受けて日本国内でも、旭日旗をオリンピックに持ち込むか否かで論争が起こっています。以前も旭日旗については取り上げましたが、今回はもう少し違った角度から書いてみたいと思います。



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旭日旗の歴史

旭日のシンボルとして、太陽から放射線の帯が出ている絵柄は古くからあり、起源はよくわかりません。江戸時代の浮世絵にも見られますし、その他の多くの絵に見ることができます。また家紋としても使われていて、於保氏八つ日足、草野氏の十二日足などが知られています。太陽は古くから縁起の良いものとして使われており、七福神の絵や大漁旗などにも使われています。そして1870年に旭日旗が誕生します。大日本帝国陸軍の旗章として考案されました。さらに1889年には、海軍の軍艦旗としても採用されています。



戦後は1954年に陸上自衛隊の自衛隊旗、海上自衛隊の自衛艦旗に採用されました。また戦前から旭日旗は、ハレの日に国旗(日章旗)と共に掲揚していました。昭和の途中までは、一般家庭でも祭日には日章旗と旭日旗を掲揚する家が多くありました。この伝統は徐々に消え去るのですが、その原因の一つに、右翼団体、その中でも街宣右翼が好んで旭日旗を使ったことにあります。旭日旗が街宣右翼のトレードマークのようになっていき、旭日旗を家の前に掲揚すると誤解を招くようになりました。

音楽と旭日旗

誰が音楽の世界に最初に旭日旗を持ち込んだのかはわかりませんが、80年代にはヘビーメタルを中心に多く見られるようになりました。その一端を担ったと思われるのが、日本のヘビーメタルバンド、ラウドネスです。彼らは本場アメリカでライブを敢行すると、レーベルとの契約を勝ち取って85年にアルバム「サンダー・イン・ジ・イースト」をリリースし、アメリカでメジャーデビューを果たしました。アルバムジャケットは、旭日旗にラウドネスのロゴを重ねたもので、当時のインタビューではデザインの理由を主に3つ挙げていました。


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1.ラウドネスはアメリカで無名なので、とにかく目立つデザインにしたかった。
2.一目で日本から来たバンドとわかるようにしたかった。
3.「祝・アメリカデビュー」で、縁起の良いものにした。

※収録曲This Lonely HeartsのPV


このアルバムはビルボード・アルバムチャートで74位に入る大ヒットになりました。プロモーションビデオでも、巨大な旭日旗の前で演奏するなど、以降は旭日旗はラウドネスのシンボルとなりました。そしてこの頃は、多くのミュージシャンが旭日旗を使っています。

※オジー・オズボーンのバンドでギターを担当したジェイク・E・リー

※メタル系御用達のギターブランド、シャーベルのギター

※KISSのヴィニー・ヴィンセント


他にも多くのミュージシャンが、旭日旗のマークを使用していて、80年代の音楽ショップには、旭日旗をイメージしたグッズが並んでいました。なぜこれほど流行ったのかはわかりませんが、80年代のヘビーメタルのイメージに、旭日旗は定着していました。



ラウドネスは現在も旭日旗のモチーフを使っています。85年のアメリカデビュー以来、海外ではラウドネスのイメージは旭日旗です。きっと昨今の旭日旗の問題には困惑していることでしょう。彼らが掲げる旭日旗が、軍国主義とは無関係なのは明らかです。

旭日旗バッシングに困惑した人々

右翼のイメージが強くなり、旭日旗を掲げることは減りましたが、90年代以降もスポーツの応援では時々見かけることがありました。軍旗にも使われた勇ましいイメージと、勝って今日をめでたい日にしょうという意気込みを旭日旗は表していました。オリンピックやサッカーの国際試合など、日章旗に混じって旭日旗もわずかですが振られていました。



ところが前回も書いたように、2011年から韓国がクレームをつけるようになります。以前はサッカーの日韓戦で応援に使っても、問題視されることはありませんでしたが、2011年から突如ダメという流れが出来たのです。これに戸惑う人が出てくるのも当然です。ましてや日毎に変わるキ・ソンヨンの言い訳として旭日旗が使われたのですから、反発が起こるのは必然だったと思います。

前回記事:日韓問題になった旭日旗騒動を振り返る 

やがて韓国の旭日旗批判は、旭日旗から「旭日旗を連想させる」ものにまで広がり、ズワイガニや航空機のエンジンまで批判の対象になっていきます。旭日旗とは何ら関係のないものまで、放射線状のものを全て批判する姿勢に困惑が広がったのも当然と言えるでしょう。

サッカーで旭日旗は禁止された

オリンピックで旭日旗使用の是非が語られる時に、サッカーでは禁止されているというのが引き合いに出されます。しかしサッカーの場合、旭日旗が政治的宣伝であるとか、植民地支配がどうのという理由で禁止しているわけではなく、FIFAが定めるスタジアム安全警備規定によるからです。60条に挑発や攻撃的行為の禁止が書かれていて、相手を挑発する旗も禁止することが書かれています。



つまり旭日旗をサッカーの試合で掲げると、韓国側は挑発されたと怒り出すのでダメなのです。旭日旗の歴史や意味などは関係ありません。要するに揉め事の火種を持ち込むなという規定なのです。これはかつてサッカーを悩ませたフーリガン対策に起因します。フーリガンの中にはサッカーの応援ではなく暴れる口実を探している者がいて、口実さえあれば暴れていました。暴れ方も尋常ではなく、街を破壊して火を放ち、軍隊が鎮圧に出動する有様で、多くの死者を出しました。サッカーの試合のたびに死傷者が出るバカな出来事を防ぐために、あらゆる挑発行為が禁止されたのです。

※39人が死亡したヘイゼルの悲劇


2017年のアジアチャンピオンズリーグで、川崎フロンターレのサポーターが旭日旗で応援し、水原三星のサポーターが激昂して川崎サポーター席に乱入してつかみ合いなどに発展しました。AFC(アジアサッカー連盟)は川崎側に処分を下し、川崎は不服申立をしますが却下されました。痛ましいフーリガン問題から、FIFAが考え出した知恵なのです。

※問題視された川崎の応援


ちなみにAFCは川崎からの抗議に対し「旭日旗はいくつかの国の人や地域において掲出することは差別的であると考えられている。現在でも一部の政治的思想を持つ団体によって使用されている旗であるということが断定された」と回答しており、AFCは旭日旗には政治性があり差別的な旗だと認識しているようです。川崎は抗議を続けるとしています。

オリンピックの旭日旗賛否の言い分

ここでは日本国内の賛否の意見をまとめてみたいと思います。

賛成派
旭日旗そのものに政治的な意味はなく、古くから使われている旗なので禁止する理由がないという主張が目立ちます。また旭日旗に反対しているのは韓国だけで、それも2011年から急に言い出したことなので、それらに従う理由もないと考える人が多いようです。

反対派
嫌がる人がいる旗をわざわざ持ち込む必要はないという意見が多く見られます。また過去の植民地支配を賛美していると、諸外国にメッセージを送ることになるのではないかと心配する声も聞かれます。そもそも日本を応援するなら日章旗を使うべきで、自衛隊旗である旭日旗を使う理由がないという声もありました。



両者がやや極端な意見に走ることも多く、話が平行線になる原因の一つになっているように思います。賛成派が「旭日旗は日本では広く一般的に使われている旗」と言ったり、反対派が「今日では右翼ぐらいしか使う人がいない旗」と言ったりするような意見です。旭日旗が広く一般に使われていたのは、せいぜい80年代まででしょう。その後は見る機会が明らかに減りました。その一方で、右翼ぐらいしか使っていないというのも極端な意見です。2011年に韓国が問題視するまでは、少数ですがスポーツの応援にも使われていました。このような極端な意見が、議論の妨げになっているように思います。

右翼アレルギーの人々

オリンピックの旭日旗の問題で、特徴的なのは日本国内からも持ち込むべきではないという声があることです。特に祭日に旭日旗を揚げることが日常だった高齢者世代にも、反対派は存在します。これは街宣右翼のイメージが定着した旭日旗に対するネガティブなイメージが、拒否感を出しているのだと思います。識者の中にも「今や右翼のイメージしかない」と発言する方もいて、街宣右翼の影響力の強さが伺えます。



そして旭日旗など右翼を連想させるものに過敏に反応し、アレルギー的な反応を示す人がいます。椎名林檎のコンサートを見て、右翼の集会みたいだと騒いだ人達です。これらの人々は、右翼ではなく右翼的に見えるものに対して激しく反応します。思想ではなく見た目や印象だけで右翼だと騒ぐ人は、以下の椎名林檎の記事でも書きました。彼らにとって思想や主張は関係なく、右翼的なものにアレルギーを起こすのです。

関連記事:まだ椎名林檎を右翼と言っている人たち

街宣右翼には在日朝鮮人の方々も関与していると昔から言われているので、少し話がねじれてきています。しかし上記の椎名林檎の記事に登場した「右翼的な振る舞いを習慣的に行っている者たちは、立派な右翼とみなさなければならない」などとおっしゃる方にとっては、旭日旗というだけで我慢ならないのだと思います。

日本の寺がハーケンクロイツを連想させると批判する人はいない

オリンピックに関係なく、韓国が主張している旭日旗キャンペーンは危険だと思います。彼らは旭日旗を批判するだけでなく、旭日旗を連想するものにまで批判を展開しているからです。植民地支配を想起させるという理由で禁止するなら日章旗も対象になるはずですし、実際に全く関係ない放射状のマークにも注文をつけています。そのため様々な放射線状のマークに抗議しています。

※マケドニアの国旗

※ハンバーガーの包み

※スペインの大学映画祭ポスター


※背景のジェットエンジン


※映画「ダンボ」のポスター


このように、放射線状ならなんでも植民地支配を連想するからダメだと主張していて、抗議を受けた中にはデザインを変更したものもあります。抗議を無視した例もあり、例えばマケドニアが国旗に抗議を受けたからといって、国旗を変更するなんてことはありえないのです。

日本の寺が使う卍は、ハーケンクロイツに似ています。正確には逆卍で斜めにしたのがハーケンクロイツです。これを「ナチスの悲劇を想起させる」と、抗議があった例はないと思います。欧米から多くの観光客がきているのですから、見たことある人もいるでしょう。日本の寺にある卍が、ナチスドイツとは無縁だと誰もがわかるからです。



そもそもナチス結党よりはるかに古い寺にあり、ヒンズー教や仏教では縁起の良いものとされていることを知っている人もいるでしょう。しかし今の韓国は日本と関係あるかないかなどどうでもよく、放射線状の模様なら全てダメだと主張しています。これは危険な流れだと思います。

オリンピックに旭日旗を持ち込むのは問題ないか?

筋論としてはIOCも東京オリンピック組織委員会が問題ないと言っているので、持ち込んで応援するのは自由です。誰が何を言おうと、何ら問題はありません。しかし私は旭日旗の持ち込みは、悪い結果を生むのではないかと危惧します。旭日旗を使ったことにより、韓国人との間にトラブルが起こると、IOCも対応をしなくてはならなくなります。



持ち込んだことでトラブルが発生し、IOCや世界的に見て旭日旗が政治性を持つ旗だと認識される可能性があるのです。めでたい日に掲げるだけの旗が、韓国が主張するハーケンクロイツのような存在になるきっかけをつくるかもしれません。これは旭日旗を政治宣伝しようとしている人達の思惑通りではないでしょうか。この流れだと、旭日旗批判が世界的に認められると、次は日章旗への攻撃が始まるような気がします。

まとめ

オリンピックで旭日旗を使うのは公式に問題ないとされていますが、持ち込むのはどうかと思います。反対論者の思うつぼになりそうですし、そもそも旭日旗でなければ応援できないわけではありません。日本の国旗は日章旗ですから、こちらを使う方が良いのではないでしょうか。一方で、旭日旗に意味を持たせて禁じる動きもあり、一方的な言い分で禁止にするやり方を静観する必要もないと思います。反論するべきところは反論するべきではないでしょうか。

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