江口寿史の変容 /「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!!ひばりくん」からデニーズへ

漫画家の江口寿史は1977年に週刊少年ジャンプで「恐るべき子どもたち」でデビューすると、人気漫画家としての地位を確立しました。ギャグマンガ家として人気作品を連発しつつ、いつしか漫画家からイラストレーターへと軸足を移していきました。



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江口寿史以前のギャグマンガ

ギャグマンガの変革期だった70年代、当時のギャグマンガは「がきデカ」が圧倒的人気を得ていました。ボケとツッコミの役割分担を明確にし、吉本新喜劇の影響を強く受けた「がきデカ」は、従来の赤塚不二夫のギャグマンガとは一線を画する新しい形態を提供していました。



主人公のこまわり君の下品な下ネタや決めポーズは、巨大なブームになります。しかし当然ながらその下品さに反発も大きく、「がきデカ」は社会現象になっていきました。そして「がきデカ」のナンセンスな笑いを追うように楳図かずおの「まことちゃん」、小林よしのりの「東大一直線」が登場します。



すすめ!!パイレーツ」の大ヒット

江口寿史はこれらの漫画から少し遅れて登場します。77年に週刊少年ジャンプで連載を開始した「すすめ!!パイレーツ」は、千葉県の弱小球団「千葉パイレーツ」を舞台にした野球ギャグマンガで、次第に何の節操もないギャグを展開するようになります。



批評家の夏目房之介(夏目漱石の孫)は、この漫画を「全て楽屋オチ」と評しましたが、当時の漫画家のタブーであった他人のネタや当時の流行の羅列、パロディで埋め尽くされるようになります。これらパロディは時に物語の流れとは無関係に挿入され、物語の筋が放棄されることもありました。



当時の江口寿史は、山上たつひこ(がきデカ)と鴨川つばめ(マカロニほうれん荘)を強く意識していたと語っており、ギャグマンガ家としての地位を確立するのに必死だったようです。しかし「すすめ!!パイレーツ」の後期から、違った一面が出てきます。画力の向上と美少女の描写です。美少女キャラが江口寿史の特徴となっていきます。



最大セールを誇った「ストップ!!ひばりくん」

誰が見ても美少女で学園のアイドルだが、実は大空家の長男ひばりを中心にした学園ギャグマンガは、81年に週刊少年ジャンプで連載が開始されると大ヒットになりました。テレビアニメも製作され、漫画家に過酷な条件を突きつけることで有名な少年ジャンプは破格の待遇で江口寿史を扱いました。



江口寿史はひばりを可愛く描くことに並々ならぬ執念を燃やし、アシスタントに任せられなくなって全て自身で描くことになります。それが遅筆となり原稿を落としたり長期休載を招き、さらには可愛くなったひばりに酷いことをさせられなくなってネタ切れに陥ります。全く進まない江口の仕事に編集部は怒り、さまざまな経緯を経て大ヒット漫画「ストップ!!ひばりくん」は打ち切りになってしまいました。



「フレッシュジャンプ」への移籍

2ヶ月に1回発刊される「フレッシュジャンプ」に移籍し、「日の丸劇場」などを執筆して、1話完結のショートストーリーを手がけます。その後も長期連載を前提にストーリーものを手がけますが、あっという間に投げ出したりするなど安定しない時期が続きます。そして元アイドルの水谷真理と結婚し、漫画よりもイラストの仕事を増やしていきました。

デニーズのメニューへ

92年からファミリーレストラン「デニーズ」のメニューのためのイラストを描くようになります。これもファミレスの斬新なメニューが大きな話題になりました。





デニーズでは江口寿史のポスターを販売するなど、江口寿史のイラストであることを推し出していました。

イラストレーターへ

漫画の執筆をほとんどしなくなり、イラストが仕事の中心になっていきます。漫画を描いていた頃と収入面ではほとんど変わらないらしく、漫画家のいしかわじゅんは「だからダメなんだよ」と、江口の漫画の才能を惜しんでいました。

近年では大塚製薬から広瀬すず、広瀬アリスのイラストを依頼されて話題になりました。



まとめ

江口寿史は美少女を描くことに軸足を移していき、現在の萌え絵へにも影響を与えたと言われています。ギャグマンガは作者の消耗が激しく、鬱病など精神的に病んでいくケースが散見されるので、そういったことから自分を守っていたと言う人もいます。しかし江口寿史の節操のないギャグの連打にファンが多いのも事実で、漫画の執筆が減ったことを悲しむ声が多いのも事実です。

絵が上手い漫画家が、ネタが尽きてもイラストで食べて行けるという流れを作った功績もあり、現在は鳥山明などもこの路線を継いでいます。漫画家はストーリーテラーか絵描きかという議論がありますが、絵描きとしての歩む江口寿史の今後の仕事にも注目したいと思います。



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江口寿史の仕事がまとめてあります。

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