皇族に人権はあるのか /揺れる皇族の人権問題と憲法

 眞子さま結婚騒動で、皇族に婚姻の自由があるのか?という議論が起こりました。皇族の結婚は国民の同意の元に行われるべきで、小室圭さんのように多くの国民から反対されている人は皇族の結婚相手に相応しくないという意見と、皇族であっても自由に結婚できるという意見の対立です。ほとんどタブーと言ってもよい問題で、私たち日本人が目を背けてきた問題でもある皇族の結婚について、少し考えてみたいと思います。


関連記事:小室圭さんをめぐる歪な報道 /眞子内親王の結婚の行方


憲法学者の意見

2021年11月27日放送のAMEMA TVの「NewsBAR橋下」に出演した憲法学者の木村草太氏は、「皇族に婚姻の自由はあるのか?」という問いに、以下のように答えています。

皇室のみなさんは憲法上の婚姻の自由というのはないんですけども、皇室典範という法律上、女性皇族の場合には誰の同意を得なくても当事者の判断で婚姻ができるようになっている

婚姻の自由は現状、女性皇族にはあるといえばあるのですが、それは憲法上の自由ではなくて法律がそうしているから
憲法上の婚姻の自由が皇室の方にあるってことになると、それを制限する法律とか皇室典範が憲法違反ってことになってしまう

つまり、憲法上の婚姻の自由が皇族の方にあるということになると、それを制限する法律や皇室典範が憲法違反になってしまうので、憲法上も皇族には婚姻の自由がないということにしましょうというのが現在の解釈なんだそうです。さらっと言っていましたが、これはかなり際どく恐ろしいことを言っていると思います。

※木村草太

見方によっては皇室典範は憲法の上位にあるとも言える考え方です。仮に憲法違反であったとしても、都合が悪いから憲法の解釈を変えて合憲に見せれば良いという、立憲主義を否定しかねない内容になっています。もちろん憲法学者が憲法を軽んじているはずもなく、憲法の改正が事実上できない現在の制度と、国民感情の狭間で作られた妥協案なのだと思います。

そもそも婚姻の自由とは

婚姻の自由は日本国憲法第24条に書かれています。「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」とあり、当事者同士の合意だけで結婚できることになっています。誰であっても当事者同士が望めば結婚できますし、親が反対しようが親戚がケチをつけようが、周囲がどれだけ反対しようが結婚は成立するのです。

しかし皇室典範では、天皇と男性皇族の結婚は皇室会議で結婚を認められなければならないとされていて、ここに憲法と皇室典範の矛盾が見られます。そして国民感情として、男性皇族が当人の意思だけで結婚することには違和感があります。日本の象徴である皇族の結婚相手になるには、それに相応しい人物でなければならないと考える人は多く、今回の小室圭さんのように批判が多い人は相応しくないという強い意識が働いているのです。

天皇は日本国民か?

憲法の解釈によっては、天皇は日本国民ではないとも読めます。憲法第1条では天皇とは何かを規定しています。そして第10条で日本国民を規定しています。そのため天皇は日本国民とは別に規定された人ということになり、天皇は日本国民ではないという理屈です。何をバカなと思うかもしれませんが、天皇が日本国民だとすると、ややこしい問題が出てくるのです。


憲法には国民の権利が明記されていますが、天皇にはその権利の多くがありません。先に挙げた婚姻の自由がありませんし、移転の自由もありません。職業選択の自由もなければ、国籍離脱の自由も外国移住の自由もないのです。天皇が日本国民ならこれらの自由が認められるはずですが、天皇からその自由は取り上げられています。たまたま天皇家に生まれ、たまたまその長男だったという理由で、あらゆる自由が奪われてしまうのです。天皇が日本国民なら今の制度は憲法違反なのは明らかで、そのため天皇は日本国民ではないと考える方が、現在の制度に合っているのです。

皇族は日本国民か?

憲法では天皇と日本国民は別に定義されているので、天皇は日本国民ではないと考えることができます。日本国民ではないから、憲法が保証する自由が制限されると考えることができます。では皇族はどうでしょうか?日本国憲法には皇族は登場しません。そのため憲法をそのまま読めば、皇族は日本国民ということになります。しかし皇族には先に挙げた、職業選択の自由や国籍離脱の自由もありません。

また男性皇族には婚姻の自由もありません。男性皇族が結婚するには、皇族会議で認められなければならないのです。結婚すれば皇室から離脱する女性皇族と違い、男性皇族と結婚する女性は皇室に入ることになるので、本人同士の想いだけでは決められないというのです。日本国民であるとすれば、これらの自由が認められないのは憲法違反ということになってしまいます。

天皇や皇族は戸籍もパスポートもない

法務省は戸籍について「日本国籍をも公証する唯一の制度です」と書いています。しかし天皇や皇族には戸籍がありません。皇族は戸籍の代わりに身分を記載する帳簿である皇統譜があるのみです。戸籍がないので我々が持っている姓名もありません。さらに戸籍がないため、パスポートを持つこともできません。皇族が海外に行く際には、外交用の1回限り有効のパスポートが発行されています。


世界中どこの国でも、パスポートはその人の国籍を示す有力なツールです。しかしパスポートを持てないというのは、その人の国籍が極めて不安定な状態だと言えます。戸籍もパスポートもない皇族は、日本国民だと言えるのでしょうか。

制度のズレと感情のズレ

このように憲法と皇室典範にはズレがあります。憲法では天皇の人権が制限される可能性があります。日本国民と天皇を別に定められており、憲法が定める基本的人権は日本国民に適用されるからです。憲法には皇族は登場しませんから、皇族は日本国民であると考えられますが、皇室典範では憲法で保証されているさまざまな自由が制限されています。

皇室典範で婚姻の自由が制限されているのは男性皇族だけですが、国民感情は女性皇族にも婚姻を制限することを求めています。今回の眞子内親王(当時)と小室圭さんの結婚騒動で明らかになったように、女性皇族の結婚相手は今後も何かと世間を賑わすことになるでしょう。

皇族の人権

憲法と法律と世間感情の3つが合わなくなっている現在、この問題は国民レベルで議論する必要があると思われます。見方によっては日本のど真ん中で国民の同意の元で人権侵害が行われている状態で、この歪んだ制度の負担を皇族だけに負わせている状態なのです。皇族にさえ負担を負わせておけば、大多数の国民にはなんら不都合も不利益もありません。ですからこの問題には関わらないようにして、蓋をしておけば良かったのです。2020年11月30日、秋篠宮は眞子さんと小室圭さんの結婚を認めました。その際に

結婚することを認めるということです。これは憲法にも結婚は両性の合意のみに基づいてというのがあります

と発言しています。これは皇族も日本国民であるという見解で、かなり思い切った発言だと言えます。皇族は日本国民ではないなから憲法の婚姻の自由は当てはまらないと発言していた人達に対して、痛烈な一撃を浴びせました。しかしこの発言は、大きな問題にはなりませんでした。小室圭さんを批判するトーンが下がり、これまで散々この問題に言及してきた人の多くは、皇族の人権という問題を避けたのです。

まとめ

皇族の人権が制限されるのは仕方ないのか?たまたまその家に生まれたというだけで、日本国民が保証されている権利の多くを手放さなくてはならないのは当然のことなのか?こういった問題を議論するのに良い機会だったはずですが、その機会は失われたように思います。今後も女性皇族が結婚する際には、このような問題が起こる可能性はあります。その時にも、再び同じようなことが起こるのでしょう。何も解決せず、何も進んでおらず、日本中が一斉に批判するだけのから騒ぎだったような気がします。 

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