日本よりアメリカの俳優が演技が上手いわけではないが /日米ドラマ比較

数年前は「アメリカのドラマって、なんか見る気しないのよね。ドラマは日本のがいい」と言っていた妻が、今やアメリカのドラマを週に4本見ています。そんな妻がある日、日本のドラマを見ながら「うーん、ただ顔をしかめてセリフ読んでる人ばっかりに見える」と言って、テレビを消してしまいました。「アメリカの方が演技力高いよね」と妻は言うので「日本の役者だって演技力は高いけど、制作事情が違うから仕方ないんだよ」という話をしました。



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根本的に予算が違いすぎる

ドラマ制作は予算は、日本とアメリカでは数倍の開きがあります。NHKの大河ドラマは1話あたり5000万円から7000万円かけているものが多く、日本ではトップクラスの制作費と言われています。民法のドラマだと、1話あたり2000万円ぐらいのものもあり、出演者のギャラを差し引くとロケ代すらままならないものもあります。

※シカゴ・ファイア


アメリカの場合、パイロット版と呼ばれる第1話に3億円ぐらい使うことはよくあります。5億円なんでケースもあるようで、アメリカのドラマは1時間で邦画1本分の予算を使い、それを毎週放送していることになります。制作費が高いのは、高速道路を通行止にして貸しきったり、ビルを爆破するためだけではありません。人件費にも多くの予算が使われています。

制作期間

日本のドラマは10話から12話ぐらいのものが多いですが、制作期間は3ヶ月から4ヶ月と言われています。NHK大河ドラマに出ていた俳優が、5日で1話分の撮影をすると言っていましたので、編集も含めて1週間で1話を制作するペースになります。大河ドラマは比較的予算が多いドラマだと言われていますから、民放の深夜に放送されているドラマなどはもっと短いと思われます。

アメリカの人気ドラマ「ブラックリスト」は、1話の撮影が10日だと出演者が来日した時に明かしていました。「ブラックリスト」は1シーズン22話ですから、撮影に入ると半年以上は撮影が続くそうです。制作期間が長いということは、それだけ長期に渡り俳優を拘束することになります。そのため出演料も上がり、制作費に影響していきます。製作費が少ない日本では、これほど長い時間をかけて制作することは難しいようです。

※ブラックリスト


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ではアメリカのドラマは日本の2倍の時間をかけて撮影しているかというと、2倍ではなさそうです。人気ドラマ「シカゴ・ファイア」で主演しているテイラー・キニーによると、撮影に入ると主要人物を演じる俳優は、1日に16時間は役になりきっているそうです。そのためオフの時も役が抜けきれず、寝ている時の夢も演じる役のまま見てしまうそうで、撮影が終わっても素の自分に戻れないことがあったようです。

※テイラー・キニー


日本は俳優というよりマルチなタレントがドラマに出ることが多いので、ドラマの撮影と並行して他の仕事をすることもあります。アメリカの場合は拘束時間が長いので、主要キャラを演じると他の仕事はできないようです。ドラマの製作期間はアメリカの方が2倍ありますが、拘束時間で比べると数倍の開きがありそうです。

準備期間の違い

ドラマ「シカゴ・ファイア」は消防署の物語ですが、出演が決まった役者は消防隊員や救急隊員の研修を受けているそうです。新シーズンが始まる前にも全員が再訓練になることもあるそうで、役者になったつもりなのに消防隊員になった気分だとぼやく役者がいるほど、長い期間を訓練に費やしています。この研修はドラマにリアリティを出すために重要なので、かなりハードな訓練になるそうで、上手くできない役者が落ち込んだりすることもあるそうです。逆にこのドラマでは、救急隊員を演じたローレン・ジャーマンが番組のファンである本物の救急隊員から「あなたの処置は手際が良くて尊敬している」と言われ、涙が出るほど嬉しかったと語っていました。本職の人が関心するレベルになるまで、訓練を重ねているわけです。

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日本のドラマでも職業訓練を受けることはありますが、期間が全く違います。アメリカでは数か月わたって役者を監禁して訓練を受けさせることも珍しくありません。それほどの期間を拘束すると役者は他の仕事ができないので、ギャラの高騰につながります。日本のドラマに主演する俳優を何か月間も拘束し、訓練だけを受けさせるとなると、金銭的な問題だけでなく他の仕事の兼ね合いが出てくるので難しいでしょう。

アメリカの俳優の方が上手いという誤解

アメリカの俳優の多くは、大学の演劇課を出るか有名演劇学校を出て俳優を志します。俳優の数が多いため、20年以上のキャリアを積んで40歳を過ぎてからようやくテレビのレギュラーを掴んだという人は珍しくありません。アメリカには演技派俳優という言葉もなく、俳優である以上は演技が上手くて当たり前になっています。そういった役者がオーディションで選ばれて、ドラマに出演しています。アメリカのドラマでは主役でも端役でもオーディションで選ばれるため、その中で勝ち抜かなければ出演することができません。演技ができて当たり前の人達の中から、脚本のイメージに合った人が選ばれるのです。



一方で日本の場合は、事務所が推薦するタレントを起用するケースが多く、演技力が乏しくても人気があればドラマに主演することも珍しくありません。日本のテレビは芸能事務所なしには番組を作ることも難しかった経緯があり、事務所の力がものをいう一面があります。日本ではムロツヨシが20年以上も下積みを重ねて人気役者になった話が美談として語られます。しかしアメリカではムロツヨシのように20年間下積みというのは、ごく標準的な役者の姿なのです。

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アメリカの場合は演技力の高い人を起用してドラマで人気者にしますが、日本は人気者をドラマに使います。この差がドラマ内の演技力の差になっていて、日本の役者の演技レベルが低いというわけではありません。人気が先行して演技経験が乏しい人が出ることもあるため、そう見えてしまうだけです。高い演技力を持った役者は日本にも大勢います。アメリカには芸能事務所がないので、事務所の影響力で役が決まることはありません。役は全てオーディションで決まるので、その役に見える演技ができる人が選ばれるのです。

資金力があるから役者を拘束できる

アメリカのドラマは日本のドラマに比べて資金力があります。日本のドラマは放送局がドラマの権利を持っていますが、アメリカでは制作会社が持っています。そのため日本で例えるなら、フジテレビで放送されていたドラマの再放送がTBSで行われ、さらに再々放送が日本テレビで行われるということはザラにあります。こうして製作会社は再放送のたびに放送料を得ることができるのです。

またアメリカのドラマの多くは海外展開しているので、アメリカ以外からの収益も得ることができます。人気ドラマなら数十か国で放送され、DVDが販売されます。ヒット作が出ると利益も大きいので、面白い企画であれば予算を高く設定できるのです。日本国内の需要がほとんどの日本のドラマでは、アメリカのような高額の予算を設定することは難しいのが現実です。



そのため役者の出演料も全く違い、日本ではトップクラスの役者で1話あたり500万円と言われていますが、アメリカでは1話あたり1億円の役者がいたりします。1億円は極端な例ですが、高い出演料を設定しているので、役者を長い時間拘束することが可能になっています。

まとめ

日本とアメリカではドラマの製作事情が全く違います。アメリカの方が制作費が高いので十分な時間を使って撮影ができますし、準備期間も多くとることができます。また役者は撮影期間にほとんど拘束されるため、他の仕事をすることもありません。そのため多くの時間をドラマに費やすことが可能ですし、高い制作費を掛けているので失敗できない切迫感もあります。あまりにも環境が違うので、日米を比較するのは難しいですね。


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