イムコライター /古き良きオーストリアの名品

最近はライターを持つ人が少なくなり、高級ライターなんて売っているのを見る機会も減りました。そんな中、家を掃除していたらイムコライターがポロっとでてきましたので紹介したいと思います。シンプルらオイルライターで、クラシックなつくりで、オイルがすぐ切れます。そして安っぽいので、持っていても威張れません。しかしなぜか手になじむライターで、多くの人が愛用していました。日本ではアメリカ製のジッポーが人気だった頃も、このオーストリア製のチープなライターを好む人がいました。



イムコとは

イムコは1907年にユリウス・マイスターという人が設立した会社で、100年以上の歴史があります。もともとは洋服の真鍮製のボタンを作る会社だったようです。この真鍮製ボタンは、1914年に始まった第一次世界大戦の戦争特需で利益を上げたようです。しかし戦争が終わると特需も終わり、イムコはボタン以外の製品を作る必要が出てきました。そこで金属加工技術を持っていることを活かし、ライターを製造するようになりました。イムコ・トレンチ(塹壕)ライターが発売されたのは、第一次世界大戦が終了した1918年から1920年の頃のようです。ここら辺は、複数の説がネットにも散乱していてどれが正しいのかはっきりしませんでした。しかし一つ言えるのは、ジッポー社がオイルライターを発売したのが1933年ですから、イムコはジッポーより歴史のある会社だということです。


イムコ社が誕生した頃のオーストリアは、オーストリア・ハンガリー帝国時代の末期でした。1914年にサラエボ事件(オーストリア皇太子の暗殺)が起こり、第一次世界大戦が勃発し、敗戦によってオーストリアの政治が崩壊し、ナチスドイツの統治下になってもイムコはライターを作り続けています。しかしイムコの二代目社長はユダヤ系だったため、ナチスがオーストリアを支配すると絶望して自殺しているそうです。

ところがこれがイムコを延命させます。当時のナチスは、オーストリアのあらゆる企業に戦争協力をさせていました。ユダヤ人がオーナーの企業は社長が追放されて工場が没収され、軍事工場に転用されていきました。ところがユダヤ人社長が自殺したイムコはナチスの干渉が少なく、これまで通りライターの製造が続けられました。そして完成したライターは、ドイツ軍に納入されていったと言われていますが、実際にドイツ軍に納入していたのはオーストリアの別メーカーです。しかしイムコのライターはドイツでも多く売られていたので、ドイツのメーカーだと思っている人も多かったそうです。


第二次大戦後は金属加工の技術を活かして、タバコグッズや文具なども作っていました。主力商品のライターは21世紀になっても作り続けられていましたが、世界的な禁煙ブームによってライターの売れ行きは減少し、2012年にライター製造は終了しました。この時、日本では予備のイムコを買い付ける人が多数いましたし、製造終了後はネットに高値で売られていました。案外、人気があったんだなと、この時思った記憶があります。今でも会社は残っていて、文具のクリップが主力商品のようです。

参考リンク:IMCO

イムコのデザイン

何十年もほとんど変わらないデザインです。いくつかのモデルがありましたが、ほぼ共通するのはシンプルな構造とシンプルなデザインということです。戦争期に生まれ、戦争期に育ったライターですから、過度な装飾は好まれませんでした。質実剛健と言えばそうですが、気取らないチープなデザインが人気の秘訣にもなっていると思います。


現在のイムコライター

2012年に製造が終了し日本のファンが惜しんだため、柘植製作所が復刻しています。写真の私のイムコも柘植の製品です。柘植製作所は喫煙器具を製造販売している日本のメーカーで、80年以上の歴史のある会社です。以前は国内でイムコの販売を行っていました。現在のイムコの製造は、中国の工場で行われています。

イムコ・スーパー
IMCOの社名が入っているモデルと入っていないモデルがあります。1937年発売以来変わらないデザインで、スタンダードなイムコだと思います。私が部屋を掃除していて見つけたのも、このライターです。



イムコ・ジュニア
スーパーの風防を取り去ったのがジュニアになります。使い勝手はほとんど変わりません。正直言って、風防が役に立ったと感じたことがあまりないので、実用上はこちらでも問題ないと思います。



イムコ・ヒット2
1980年にイムコが発売したヒットは、樹脂製ボディのガスライターでした。そのヒットを継承し、電子着火にしたのがヒット2です。イムコらしくないと言われたりもしますが、性能はこれが一番安定していると言う人もいます。



イムコ・ストリームライン
1958年に発売されたストリームラインの復刻モデルです。薄型になっていて、ややモダンな印象を受けます。モダンでも垢抜けない感じがイムコらしいと言えるでしょう。



イムコ・シックフォー
パイプを吸う方には人気があったシックフォーは、タンパーを内蔵したパイプ専用のライターです。炎が45度傾斜した火口から出るので、パイプの着火が容易になっています。


まとめ

イムコはクラシカルな雰囲気の、チープなライターです。しかしチープさの中に戦争下で生まれた質実剛健差があり、アメリカ製のジッポーとは違った雰囲気を持っています。最近はライターを買う人も減りましたが、安価に使えるオイルライターの一つとして安定した人気を保っています。ジッポーの方が高い人気を保っていますが、イムコの存在も覚えておいてください。

コメント

このブログの人気の投稿

ナイフ一本で40人の武装強盗に立ち向かった兵士 /勇猛果敢なグルカ兵

アイルトン・セナはなぜ死んだのか

消えた歌姫 /小比類巻かほるの人気はなぜ急落したのか

バンドの人間関係か戦略か /バンドメイドの不仲説

懐中電灯は逆手に持つ方が良いという話