工藤公康 /福岡県民が感謝しても仕切れない男

ソフトバンク・ホークス監督の工藤公康に、頭が上がりません。どん底にあったホークスを常勝チームにした立役者でありながら、酷い扱いでチームを追われました。しかし2015年から監督としてホークスに戻り、2回のリーグ優勝と3回の日本一をもたらしました。二度と福岡の地を踏まないと誓ってもおかしくないことがあったにも関わらず、工藤は福岡に舞い戻り優勝請負人と呼ばれるに相応しい戦いを演じています。



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新聞広告の衝撃

1999年、福岡の街はダイエーホークスのリーグ優勝に歓喜しました。人々は街に繰り出し、あちこちで歓喜の声を上げ、キャナルシティ博多の噴水に飛び込み、花火を上げて酒を飲みました。昼間のファミレスでもビールが無料で振舞われ、仕事中のサラリーマンも祝杯をあげました。そして日本シリーズも制して日本一になると、再び街は歓喜に包まれました。



89年にホークスが福岡にやってきてから10年で掴んだ日本一です。田淵監督時代には最下位争いを演じ、パリーグのお荷物と言われた時代からすると、福岡県民にとって夢のような出来事でした。そして優勝の立役者はMVPにも輝いた工藤公康でした。工藤は福岡の英雄になり、誰もが工藤を祝福しました。そんな優勝気分に冷や水を浴びせたのが、工藤が西日本新聞の一面を買い取って出した新聞広告でした。

工藤は断腸の思いでFA宣言をすること、そしてホークスファンへの謝罪を述べていました。福岡に激震が走りました。

優勝請負人としてホークス入り

西武ライオンズのエースとして君臨し、何度も優勝を果たしてきた工藤がFA宣言してホークスに入団したのは94年の暮れでした。ダイエーは大改革を行い、王貞治を監督に迎えると同時に西武から石毛と工藤を招聘しました。この時、工藤獲得の噂を本気にする人は少なく、負けっぱなしのチームに優勝できるチームから移籍するはずがないという声もありました。



しかし工藤はやって来ました。移籍金交渉の際、工藤は「チームを優勝させるために来た。移籍金は優勝した時に頂きたい」と、移籍金ゼロで移籍したと伝えられました。そしてドラフト1位で獲得した捕手の城島を育てるとともに、不振にあえぐチームの中で奮闘していきます。城島への指導は厳しく、時にベンチで城島が泣き出す姿をカメラが捉えていました。その城島は、やがて球界を代表する捕手へと成長していきます。

99年シーズン

怒涛の快進撃で始まった99年のホークスは、シーズン前半を首位で折り返すものの、明らかに息切れしていました。2位のライオンズは着実に勝利を重ねて猛追し、ホークスに1ゲーム差と詰め寄ります。ホークスの不振は深刻で、直接対決で負ければズルズルと順位を下げると思われました。



この天王山とも言える西武戦に登板した工藤は、気迫のピッチングで西武打線を1安打に抑え首位をキープすると、そのままホークスはリーグ優勝まで首位を譲らず走りきりました。この時の工藤のピッチングは、スピードとキレが冴え渡るだけでなく、ここで負けたら全てが終わるという断崖絶壁を背負ったかのような気迫が溢れていて、野手陣が工藤の背中に感動したと言わしめるものでした。

日本シリーズ

王監督から、最も重要な第一線で投げて欲しいと依頼され、この時も凄まじい気迫を見せて投げきりました。13個の三振を奪う完封で、工藤が生涯最高の出来と胸を張る内容でした。中日の星野監督が「敵を褒めるのは嫌だが」と前置きしたうえで工藤は大したものだと賞賛する内容で、中日が圧倒的有利と言われた下馬評を初戦で覆したのです。

※日本シリーズ優勝の胴上げ

これで勢いに乗ったホークスは、そのまま日本シリーズを4勝1敗で制して日本一になりました。数年前まで最下位争いをしていたチームが、見違えるようにその雄姿を全国に見せつけました。福岡のファンは工藤の活躍に興奮し、工藤は不動のエースだと認識していました。この優勝は工藤抜きには語れない、快挙でした。

署名運動

それだけに、新聞紙面で工藤が突然のFAを宣言した時、福岡には激震が走りました。これからホークスの躍進が始まるというのに、主役を欠いてしまうことになるのです。工藤は福岡に残りたいが、出ていかなくてはならなくなったことをファンに謝罪していました。ダイエーには事情を説明する声が集まり、街では工藤の残留を求める署名活動が始まりました。

※現在は岩田屋三越になっています。

天神岩田屋の前では、署名の順番待ちのために行列ができるほどでした。誰もが工藤に残って欲しいと思い、何が起こっているのか真実を知りたがりました。球団には質問と批判が集中し、ついに球団社長の高塚猛がウェブサイトに工藤への反論文を掲載しました。しかしこの反論文はメディアやファンの怒りを買い、球団は集中砲火を浴びることになります。署名は17万人以上にのぼり、もはや問題はダイエーホークスだけのものではなくなりつつありました。

徐々にわかってきた経緯

優勝の立役者だった工藤に対して、球団側は契約更改の場で年俸1000万円アップと、2年契約でFA権利の放棄を求めたそうです。工藤はこれを戦力外通告かと思ったほど驚いたようです。球団側は工藤が登板する火曜日の客入りの悪さを指摘し、工藤の家族サービスも考慮に入れていると言われました。

この内容は「今年は全く活躍しませんでしたね。本来は年俸を下げるところですが、ベテランですし球団への貢献度も踏まえて、お情けでちょっとだけ年俸を上げておきます」と言われたに等しい内容です。ましてや工藤は移籍金は優勝した時に頂きたいと言って入団しました。それを踏まえると、工藤は優勝に貢献するどころか障害になっていたと言わんばかりの提示です。

火曜日の登板は王監督から「週の頭が一番大事だ」と言われ、強い意気込みで行ってきましたが、球団からは何も評価されていないと感じました。そこで返事を保留すると、球団側は徐々に譲歩していき、実績を評価されることなく値踏みされていると感じるようになりました。

この数年後に起こる小久保事件で実態が明らかになっていくのですが、高塚猛球団社長と工藤の間には大きな溝があったようです。高額の年俸を受け取る工藤を、高塚社長は不良債権とみなしていました。

高塚猛という男

リクルートのスーパー営業マンとして、数々の記録を打ち立ててきた人物です。さらに多くの赤字企業に派遣され、数年で黒字に転換させた実績があり、再生請負人と呼ばれていました。ダイエーホークスの赤字を改善するべく、ダイエーホークスの社長に就任すると、大ナタを振るって改革を推し進めてきました。経営者としては敏腕ですが、高塚社長は野球に興味がありませんでした。そのため選手が1億円以上の高い年俸をもらっている理由がわからず、これらの選手の年俸を下げることに頭を費やしていました。

※高塚猛

後に小久保は2億円の不良債権と呼ばれ、チームを追い出される形でジャイアンツに移籍しました。工藤も高塚氏の経営方針からすると、あまりに高額な年俸だったのです。そのため工藤の年俸は優勝しても上がるはずがなかったのです。野球選手としての評価は年俸に現れます。工藤は何度も交渉を重ねますが、不信感が募るばかりでした。

高塚社長が、もう少し野球に関心があれば工藤が抜ける事の意味を知ることができたでしょう。しかし負債を抱える球団のテコ入れと、朝礼で女性社員を立たせてディープキスをしたり、勤務時間中に女性社員のスカートに手を入れることに忙しく、あまりに野球には無関心でした。

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読売ジャイアンツへの移籍

FA宣言した工藤を獲得したのはジャイアンツでした。福岡県民の17万人3000人にのぼる署名は虚しく終わり、球団への批判が強まりました。工藤は「これほどファンが応援してくれる球団はない」と感謝を述べ、約7年かけて署名した全員に感謝の手紙を送っています。



2000年から2006年までジャイアンツで投げ、優勝請負人として優勝も果たしました。ベイスターズに移籍すると、年齢による衰えと怪我に苦しみます。戦力外にされると古巣の西武ライオンズに戻り、そこで引退を表明しました。ボロボロになりながら一軍落ちを繰り返していた晩年には、全盛期を知る多くの人から引退を勧められましたが、ボロボロになってもがき苦しむ姿を子供達に見せたいと、現役にこだわっていました。

監督として復帰

解説者として過ごしていた工藤は、2014年にホークスの監督として復帰しました。常勝チームの監督として初采配というプレッシャーがある中で、優勝を繰り返しています。福岡の街は、再び工藤によって歓喜に包まれました。

※監督就任の記者会見

まとめ

工藤公康は優勝の立役者でありながらホークスを追い出されるように移籍し、再びホークスに監督として戻ってきました。工藤は優勝請負人としてだけでなく、数々の若手を育てた功労者でもあり、監督への就任は相応しい立場だと思います。ホークスというだけでなく日本のプロ野球にとって貴重な人物なので、これからもますます飛躍して欲しいと思います。



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