スティーブ・ウォズニアック /アップル社を創業した天才ハッカー

アップル社の歴史が語られる時、スティーブ・ジョブズの陰に隠れてスティーブ・ウォズニアック(以下ウォズ)は「もう一人のスティーブ」と言われたりしています。しかし初期のアップル社ではジョブズは軽んじられていた面があり、社内ではウォズが会社の中心でした。そして完璧な天才のように語られるウォズも、多くの問題を抱える人間くさい人物です。



天才ハッカーの歩み

電気工作と数学が得意で、幼少の頃からラジオや無線機の組み立てを始めると、13歳で計算機(原始的なコンピューター)を組み上げて、科学コンクールに入賞します。そして男性誌「エスクワイア」で、電話をハッキングして長距離電話をかただでけられる装置「ブルーボックス」の存在を知ると、オリジナルのブルーボックスを作りました。

※ブルーボックスを使うウォズ

その後、自作のコンピューターを作るとそれを販売するためにアップルコンピュータをジョブズとともに立ち上げました。そこでさらなる革新的な発明をいくつも行なっています。さらにウォズが書くコードは必要最小限のコンパクトなもので、他人が見たときに「なぜこれほど少ないコードで複雑な処理ができるんだ?」と頭を抱えることもあったようです。

※アップルを創業した2人のスティーブ

コンピューター・エンジニアには大きく分けてソフト屋とハード屋がいます。ウインドウズを作ったビル・ゲイツやポール・アレンはソフト屋で、スティーブ・ジョブズはハード屋です。ウォズはハードにもソフトにも精通した数少ないエンジニアで、だからこそ革新的な発明が可能でした。ハッカー(飛び抜けてコンピューターに精通した人)として、今も多くの尊敬を集めている所以です。

ウォズのコンピューター作り

学生だったウォズは早くからコンピューターに魅力を感じますが、当時のコンピューターは一部の大学や大企業にしかありませんでした。購入価格も維持費も高額で、個人で所有するものではありませんでした。

ウォズはコンピューターのパンフレットやメーカーの仕様書を集めて研究し、独自に設計を始めます。実際に動かすことはできないですが設計図を描き、そこからチップの数を減らして効率的に動くように設計を何度もやり直しました。5年以上も紙とペンと電卓を使って、設計を繰り返しています。実際にウォズがコンピューターを作るのは、マイクロチップが格安で手に入るようになる数年後です。作ることができるかわからないコンピュータの設計を、紙とペンだけで何年も繰り返すのは狂気のようにも感じますが、ウォズにとっては楽しい時間だったようです。

ここで培ったノウハウは、ジョブズがアタリ社からブロック崩しゲームのチップ減らすことを依頼され、ウォズに任せてチップの数を半分にしたというエピソードにつながります。アタリ社は、なぜこれほど少ないチップでゲームが動くのか理解できず、ジョブズはその理由を説明できなかったので、アタリ社は採用しませんでした。そしてジョブズはウォズに低い報酬を払い、金をせしめることに成功しました。

ウォズはお金を誤魔化されたことではなく、ジョブズに嘘をつかれたのがショックだったと後に語っています。ウォズにとって魅力的な挑戦だったので「報酬が25セントでも引き受けたさ」と言います。ウォズの人となりを示すエピソードです。

初期のアップル社

アップルIIが大ヒットしたアップルは急成長し、多くの社員を抱えることになります。「林檎の木の下で」などの本でこの頃の社員のインタビューを読むと、多くのエンジニアがウォズと働きたくてやって来たことがわかります。アップルIIのヒットは、多くのコンピューターユーザーを生みました。手軽にプログラミングができる環境を手にしたユーザーは、プログラムを学び腕を上げました。そうした人達が、ウォズと働ける環境を求めてアップルに集まっています。彼らはウォズ学校と呼んで、ウォズの教えを受けながら仕事をしています。

※アップルII

ではジョブズの立場どうだったのでしょうか?ジョブズは役員でしたが、多くの社員は「たまたまウォズと友達だった幸運な人が」という声がインタビューに出ています。またエキセントリックで社員を怒鳴り散らすことがよくあったジョブズに、なぜ耐えられたのか?という質問には「私達はジョブズを上司とは思っていませんでした」という声さえあります。

ジョブズよりウォズが会社にとって重要だった事実は、初代社長のマイケル・スコットが社員番号1をウォズに、2をジョブズに与えようとしたことにも現れています。ジョブズは猛然と抗議し、結論としてジョブズには0が与えられました。ウォズが作ったアップルIIが収益の柱であり、社内でもカリスマ性があるウォズを中心に、アップルは動いていたのです。

ウォズが生み出したもの

アップルIの開発により創業すると、それを再設計したアップルIIを開発し、爆発的なヒットを生みます。その利益は数千億円にのぼり、アップルコンピュータは株式公開を果たしました。

アップルIIは家庭向けコンピューターとして、初めて完成品として売られた商品でした。それまでの家庭用コンピューターは、キットで売られていて、購入者が自ら組み立てる必要がありました。しかしアップルIIはテレビに繋ぐだけで利用が可能で、さらに開発環境が整っていたため多くのソフトウェアが作られました。

※アップルIIとウォズ

さらにウォズはフロッピーディスクドライブ、ディスクIIを開発しました。当時のディスクドライブはCPUを搭載していたのですが、ウォズはコンピューター本体のCPUを使って駆動させるアイデアで、安価なディスクドライブを完成させました。ディスクIIを見た業界関係者は、CPUを搭載しないディスクドライブが正確に稼働する様子を魔法でも見るように見ていたそうです。

※ディスクII

ジョブズの原動力?

社内で自分が軽んじられている空気をジョブズは感じていたはずですし、だからこそLisaのプロジェクトに没頭したと思われます。しかし社長のマイケル・スコットは、ジョブズがLisaプロジェクトを混乱させていると判断してジョブズを外しました。そしてジョブズが目をつけたのがマッキントッシュです。当初、ジェフ・ラスキンからマッキントッシュの話を聞いた時には反対していましたが、Lisaプロジェクトを追い出されたジョブズはラスキンを追い出してプロジェクトを乗っ取ります。

※Lisaはジョブズの娘の名前です。

また、アップルを追い出されたジョブズが、次に立ち上げたのはNextコンピュータです。赤字続きで成功には程遠い会社ですが、次世代のコンピューターの製作に取り掛かりました。さらにアップルに復帰すると、役員らを次々に解雇してアップルのCEOにおさまり、iMacやiPod、iPhoneを成功させました。

ジョブズはピクサーでアニメーション映画を作ることで成功を収めたにもかかわらず、コンピューターに見せた執念の裏には「ウォズがいなくても最高のコンピューターが作れた」ことを証明したかったように思えます。

ウォズは完全無欠ではない

ここまでウォズの天才性を中心に書きましたが、ウォズは完璧な人間ではありません。そしてジョブズが単に運が良かっただけのように書きましたが、そんなはずもありません。

ウォズが半田付けを行い製作して販売したアップルIと異なり、アップルIIは工場生産でした。ウォズのプロトタイプは快調に動くのに対し、ウォズの指示通り工場で作ったアップルIIは全く動かなかったそうです。これにはウォズも困り果て、電源などに問題があることが徐々にわかってきます。アップルは外部から何人もの専門家を雇い入れ、電源周りの再設計や、アップルIIの設計図の見直しを行い、なんとか工場生産のアップルIIが稼働するところにこぎつけました。

※アップルI

この時、並々ならぬ情熱で問題点の洗い直しと、専門家探しに奔走したのがジョブズだったようです。アップルIIはウォズの才能がなければ生まれませんでした。しかしジョブズの情熱がなければ、世に出ることはなかったようです。その意味でウォズは「アップルIIは僕が1人で作った」というのはプロトタイプまでの話で、世に出たアップルIIは2人のスティーブの共作だったと言えるでしょう。

お金の使い方

USフェスティバルと呼ばれるロックコンサートを企画して、大盛況のうちに終わるものの収益的には大赤字でした。しかしウォズは、みんなが喜んでくれたと大満足で、第2回USフェスティバルを開催して、再び大赤字を出しました。合計で5億円以上の赤字になりますが、それでも満足だったようです。

※USフェスティバル

ウォズは20代で数百億円の資産を持つことになり、金持ちになりました。金持ちの多くは子供を一流の学校に入れたがりますが、ウォズは息子が通う公立学校を一流にしようとしました。生徒全員分のコンピューターを寄付し、自らも教壇に立って数学やコンピューター工学について教えています。

なぜウォズの製品が少ないのか

アップルIがなければアップルは始まりませんでしたし、アップルIIの大ヒットは安価なフロッピーディスクドライブのデスクIIが大きく影響しています。そしてアップルIIが何千億円もの利益を上げたから、アップルは大企業になりました。これらは全てウォズの手によるもので、ウォズの功績はあまりに大きいと思います。

しかしこれほどの天才なのに、携わった製品が少ないのに違和感を覚えます。どうもウォズは常人では考えられないほどの集中力を発揮する反面、普通では考えられないほど気が抜けることもあるようです。例えば操縦していた飛行機で墜落したり、自動車事故を何度も起こしています。そのため仕事も移り気な面があり、集中できない仕事には全く取り組めていなかったようです。

※墜落したウォズの飛行機

つまりウォズはガレージでコンピューターを作っていた頃は大活躍しましたが、アップルが企業になっていくと従業員としては優秀とは言えなかったようなのです。企業の目標に会わせて製品を開発するのは苦手で、自身がひらめいたアイデアを元に自分の興味をそそるものにだけ、常人離れした集中力で開発を進めていました。そのためアップルでは製品化しにくいものもあったようです。

まとめ

ウォズの功績はギーくやハッカー以外の人には低く見られがちでした。その反動のようにウォズを評価する人は、まるで初期のアップルにジョブズは不要だったかのようにウォズを過剰に高く評価していたように思います。ウォズとジョブズが力を合わせたからこそアップルは軌道に乗ったわけですし、ジョブズが暴走したから追放されました。そして大企業に馴染めなかったウォズは、徐々にフェードアウトしていきます。私は天才として賞賛されるだけのウォズよりも、あれこれ欠点も露わになったウォズの方が人間くさくて面白い気がします。



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