カタカナのビジネス用語の氾濫に想う

先日、「ショートノーティスにて失礼します」と書かれたメールを受け取りました。一瞬意味がわからず、short noticeだと気づくまでに少し時間がかかりました。なぜ「急な要件で失礼します」と書かないのでしょう?



80年代から言われるカタカナ用語の氾濫

カタカナ用語の氾濫は、私が覚えている限りでは80年代から言われていました。当時は「言葉のみだれ」とか「日本語の乱れ」と言われ、カタカナ用語ではなく正しい日本語を使おうと言われていました。最近では、この頃よりもさらに多くのカタカナ用語が飛び交い、さらに英語で言う必要のない言葉まで使われています。


※80年代 ディスコのお立ち台

最近のカタカナ用語

アサイン:割り当てる、任命する
アジェンダ:計画、予定
アライアンス:提携先
イシュー:要点、論点
エスカレーション:報告する
アサップ:出来るだけ早く
エビデンス:証拠
オンスケ:予定通り進行している
オーサライズ:公認する。正当だと認める
コミットメント:約束する
コンセンサス:同意を得る
コンプライアンス:法令遵守
サマリー:要約
シナジー:相乗効果
スキーム:枠組みのある計画
ステークホルダー:企業の利害関係者
セグメント:購買行動が似た顧客層
デフォルト:標準的、基本的
ナレッジ:付加価値のある情報
バッファ:緩衝、余裕
プライオリティ:優先順位
ペルソナ:典型的なユーザー層
マイルストーン:案件の進捗を確認する節目
メソット:方法、方式
リテラシー:情報を正しく選択する能力
リソース:経営資源

カタカナ用語の効果

カタカナ用語を使う理由の1つに、日本語にはない言葉だからというのがあります。80年代に使われ始めた「アイデンティティ」は、主体性とか自己同一性と説明されますが、これは力任せの翻訳という印象が強いです。本来の意味を日本語で解説すると、かなりの長文になり、A4一枚分ぐらいは使えそうです。このように日本語に置き換えることが困難な場合、カタカナ用語は使い勝手が良くなります。




またカタカナ用語の方が短くて済むという理由もあります。上記のセグメントを使わずに「購買行動が似た顧客層」と何度も言うのは、もどかしいと感じることもあるでしょう。

さらに日本語の意味だと誤解を生じるケースもあります。例えば「自由」という言葉は、英語ではlibertyとfreedomのどちらの訳にも使われます。しかし2つの意味は違い、libertyは他人の権利と衝突した場合に勝ち取る自由で能動的です。しかしfreedomは何の制限もない受動的な自由を意味し、時には何をやっても責任すら背負わない自由を指すこともあります。こういった違いを明確にするため、日本語でも「リバティ」や「フリーダム」を使う人もいます。



カタカナ用語の弊害

カタカナ用語は短く済むと書きましたが、むしろカタカナ用語の方が長くなるケースも散見されます。エビデンスというより証拠と言う方が短いのです。

会議などでカタカナ用語を多用すると、意味がわからない人が出てきます。意思決定や意思統一を図る場で、言葉の意味が伝わらないのは致命的です。カタカナ用語が会議の目的を阻害するケースは、あちこちの会社で起こってそうです。



さらに上記の中で、デフォルトの意味を「標準的」と書きましたが、英語にそんな意味はありません。デフォルトは棄権か債務不履行の意味です。日本で意味が変質したものもあり、英語が氾濫しているのではなく、まさに言葉が混乱している様子が伺えます。もともとは「何もしない」の意味で、パソコンなどで、初期状態に設定されたマシンを「デフォルト設定」と呼んでいたことから、日本語の「標準設定」と混同されて定着したようです。

個人的な見解

カタカナ用語の多用が致命的だと感じるのは、借り物の言葉に聞こえることです。何度も熟考し、絶対に伝えたいと思って発する言葉なら本来の自分の言葉を使うはずで、カタカナ用語が散りばめられると、言葉が軽くなってしまいがちです。適切な時に適切な使い方をするなら問題ないですし、会議のような場では意味の確認が必要な場合もあります。しかし「知らないと恥ずかしい」という雰囲気を作ってしまっては、意思の確認も統一もできません。

小池百合子東京都知事のカタカナ用語の連発が批難されることがありますが、小池都知事はカタカナ用語を上手く使っていると思います。話に中身がない時、問題の本質に触れて欲しくない時にカタカナ用語を連発して煙に巻きますし、メディアが記事にしやすい言葉を選んでいるので記事になりやすいのです。それが都知事のあるべき姿かと問われれば疑問が残りますが、パフォーマンスとしてはかなり巧みだと思います。



もう一つ思うのは、カタカナ用語が拡散するのは、参考にする文献や記事にカタカナ用語が溢れているからだと思います。それをそのまま使うので、どうしてもカタカナ用語が増えてしまうのですが、本当に意味が分かっていなければ安易な流用は危険だと思います。本来の意味からそれてしまい、正確に伝わらなくなるからです。国際化の時代だからカタカナ用語が増えて当然という声もありますが、和製英語では国際化もなにもなくなってしまいます。

蛇足ですが、日本の会社で「ノーリターン」と書けば直帰するの意味ですが、英語でNo returnと書けば「返品不可」の意味になります。こんな感じで国際化も何もないと思うんですけどね。


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