魅惑のバスクシャツ /セントジェームスを着る
バスクシャツとは、スペインからフランスにかけてのバスク地方で漁師が着ていたとされるシャツです。もっとも多くの洋服の歴史が販促のために捏造されたり都市伝説であったりするように、バスク地方とは全く関係ないという説もあります。一見すると長袖Tシャツのようですが、ボートネックと呼ばれる襟ぐりが特徴です。このバスクシャツは、長い間多くの人を魅了してきました。
ボーダーが象徴するもの
かつてボーダー(横シマ)は、普通の人と嫌味嫌われる人を区別するために使われていました。囚人服はボーダー ですし、10世紀ごろは売春婦や死体処理人などにもボーダー の着用が義務っけられたりしました。
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| ※囚人服 |
この風習は長く続きますが、18世紀に入りアメリカ独立がボーダーのイメージを大きく変えました。赤白のボーダー旗を掲げて独立を勝ち取ったアメリカによって、ボーダーは反逆や独立のプロパガンダを象徴するようになります。さらにフランス革命では横シマの三色旗（後に縦シマに変更される）が使われ、自由の象徴としてボーダーが使われるようになりました。
フランス革命後にボーダーはフランス海軍の制服に採用され、今日でも水兵の制服にはボーダーが見られます。現在では可愛らしいイメージがあるボーダーですが、歴史的には軽蔑の象徴であり、反逆の象徴であり、自由の象徴だったのです。そして水兵に代表されるように、規律と勝利の象徴でもあります。ボーダーには、割と男臭い面があるのは見逃されがちですね。
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| ※フランス海軍の水兵 |
バスクシャツを好んだ人たち
パブロ・ピカソ
バスクシャツを着ている写真が、多く残されています。スペインのアンダルシア生まれですが、パリで長い時間を過ごしたピカソにとって、バスクシャツは身近なものだったのでしょう。着ているのは後述のセントジェームスだと言われていますが、オーシバルのものも持っていたようです。
ココ・シャネル
シャネル自身も普段着として着用していますが、なにより船乗りのシャツを普段着に取り入れた先駆者の1人です。自由を求め世相に反逆していた彼女にとって、馴染みの深いアイテムだったと思われます。
アンディ・ウォーホル
ダブルのライダースジャケットにボーダーシャツを合わせるスタイルを広めたのは、ウォーホルだと思います。
ジャン・ポール・ゴルチエ
前衛的なファッションを次々に発表するゴルチエですが、彼の普段着はレザーパンツにバスクシャツが定番です。自身のブランドでバスクシャツを展開したこともあるほどです。
映画のアイテムとしても使われることが多く、「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグや、「なまいきシャルロット」のシャルロット・ケンズブールもバスクシャツを着ています。日本でバスクシャツの着方は、ファッション雑誌で取り上げられてから「なまいきシャルロット」が手本の一つになったようです。
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| ※「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグ（左） |
バスクシャツの2大ブランド
セントジェームス
フランスのノルマンディ地方にある、セントジェームス市の名を冠しています。1889年に始まったブランドで、モンサンミッシェルの干潟の牧草で育ったウールを使用したセーターを作っていたことから、ブランドロゴにはモンサンミッシェルが描かれています。
オーシバル
1930年にフランスのリヨンで、チャールズ・バルトによって創業しました。セントジェームス同様にオーシバルも地名で、フランス中部の村の名前を冠しています。元々はパリで始まったブランドですが、戦争から逃れるためにリヨンに移ってきてオーシバルで現在の会社を立ち上げたようです。ラッセル編みと呼ばれる独自の複雑な編み方が特徴で、機械も少ないので大量生産ができません。1947年からフランス海軍の制服を納入していましたが、1970年頃から一般ユーザー向けにも商品を展開しています。
※私はセントジェームスしか持っていませんので、これ以降の話はセントジェームスが中心になります。別にオーシバルが劣っているとかそういうわけではありません。私の行動範囲に、オーシバルを安く売っている店がなかっただけの話です。
セントジェームスのサイズ選び
綿100%なので、洗うと縮みます。横の縮みは少ないですが、縦には3cm程度は確実に縮むと思った方が良いです。洗い方によっては5cmほど縮むこともあるので、縮むことを前提にしたサイズ選びが必用になります。サイズはTの後に数字が付く表記法で、数字が大きくなるほどサイズが大きくなります。私はT5かT6を着ています。割とピッタリ着るにはT5、少しルーズに着る場合はT6です。
サイズで迷ったら、縮みを考慮してワンサイズ大きめが無難な選択になります。しかし九分袖ぐらいで着てもさまになりますし、胸板のある男性なら小さめの方が映えるシャツでもあります。これは好みとしか言いようがない部分ですね。
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| ※映画「なまいきシャルロット」では、オーバーサイズの着こなしでした。 |
あまり縮ませたくない人は洗濯ネットを使って洗い、縮ませたい人は多くの洗濯物と一緒に突っ込んで、乾燥機にかけるとかなり縮みます。
セントジェームスの着心地
買ってすぐに着ると、着心地がよくありません。綿が詰まった生地なので、肌触りは固くごわごわしています。洗濯するたびに綿のクズのようなものがポロポロ出てきて、とんでもない安物を掴まされたと思う人もいるでしょう。良質の天然素材を使った製品の多くに言えることですが、買ってすぐは製品として8割程度の完成度で、使っていくうちに100%に近づいていきます。着ては洗ってを繰り返すうちに、ポロポロ出てくるクズはなくなり、生地が肌になじんできます。そうなると手放せなくなってきます。
生地が厚いので汗をよく吸収してくれて、暑い日も割と快適です。また目が詰まっているため、風を通さないので肌寒い日などにも適しています。真夏以外の3シーズンに着ることができます。
バスクシャツの合わせ方
ジーンズの上に単独で着ようが、チノパンだろうが、短パンだろうが、何でも合います。男性、女性問わず可愛らしくも粗野な雰囲気にも着ることができるので、たいていの人にお勧めできます。またボーダーに限らず、無地のものも多く出ているので、普通のTシャツと変わらないコーディネートが可能です。
男性ならリネンやコットンのサマージャケットにボーダーのバスクシャツを合わせるのもいいでしょうし、水兵の制服なのでミリタリー関連との親和性も高いのが特徴です。フライトジャケットの下や、ピーコート、ダッフルコートの下でもよく合います。ウォーホルのようにライダースジャケットの下に合わせるのは、90年代にもバイカーの間で流行りました。ちょっとハードな雰囲気のアウターの下に、ボーダーのバスクシャツはよく映えます。
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| ※ミランダ・カーはライダースジャケットに合わせていました。 |
ちなみに私はコットンのパーカーの下に合わせることも多く、アメカジテイストにもすんなり馴染んでくれます。ようするに何にでも合うので、好みでいろいろと試すことをお勧めします。
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| ※かわいいだけでなく、ワイルドな着方もありです。 |
まとめ
男性の中にはボーダーは似合わないと思っている人もいるでしょうが、合わせ方ひとつで表情がガラッと変わるので似合う人は多いんです。老若男女問わずに着ることができるのがバスクシャツの魅力ですから、ぜひ多くの人に試してもらいたいと思います。国産のカットソーにはない、独自の味わいを楽しめますし、ガンガン洗濯してもヨレないので高くても十分に元が取れる逸品です。
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