ギター小僧を拗らせた映画 /「クロスロード」に取り憑かれた人々
先日、接点復活剤が欲しくなって久しぶりに楽器屋に行きました。ギターがズラリ並んでいる中で、禿げ上がった太鼓腹のオジさんが試し引きの準備をしているのが目に入りました。そのオジさんは風貌に似合わぬ流麗な手さばきで弾いた曲に私は吹き出してしまい、オジさんは私に気づいて「お粗末でした」とはにかんでいました。オジさんが弾いた曲は、ニコロ・パガニーニの「24の奇想曲」の5番でした。このクラシック曲は「クロスロード」という映画とともに、ギター小僧を激しく拗らせた曲として、一部では有名なのです。
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ロバート・ジョンソンは悪魔に魂を売ってギターの腕を手に入れたという伝説がありますが、ウィリーもまた、悪魔に魂を売っていたのでした。十字路に着いた2人の前にスクラッチと名乗る悪魔が現れ、自分の手下のギターリストとの勝負に勝ったらウィリーの魂を返すと言い出しました。ユジーンはウィリーを助けるためにギターバトルを行います。
しかしこの映画が今でも話題になるのは、ラストのギターバトルにあります。10分少々のシークエンスですが、これを見せるための前振りが80分ほどある映画と言ってよいと思います。そしてこのギターバトルを見て、当時のギター小僧の多くが拗らせてしまうのです。
そう、この映画はスティーブ・ヴァイとライ・クーダーのギターバトルを見ることができるのです(実際にはライ・クーダー以外のギターリストも音を当てている)。ライ・クーダーはスライドギターの名手で、ヴァイとはジャンルが違いますが超テクニカルなギターリストとして有名です。互いが超高度な技を駆使してギターバトルを展開する場面に、ギター小僧は凝視し耳を立てて集中しました。
ヴァイが次々に難易度の高いフレーズを弾き続けてユジーンを圧倒し、観客はヴァイの演奏に熱狂して勝負あったかに見えました。その時、ユジーンはブルースではなくクラシックの演奏を始めます。それがニコロ・パガニーニ「24の奇想曲」5番なのです。超高速フィンガリングで演奏するユジーンを食い入るように見つめるヴァイ。そしてヴァイも同じフレーズを演奏しますが、音を外して断念し、ステージを去りました。ユジーンの勝利が決まりました。
面白いのは日本だけでなくアメリカでも同じようなことが起きていたようで、それを私が知ったのはYouTubeが広まってからでした。YouTubeには、ラルフ・マッチオになりきって「24の奇想曲」を弾く人が大量にいて、さながら日本のニコ動の「弾いてみた」といった感じになっています。さらに演奏しているのが立派なオジさんたちで、30年前に「クロスロード」を見て拗らせたギター小僧たちが立派な中年になっても変わらず拗らせているのが確認できました。
ちなみに弾き方を教える動画も大量にあり、教えている人のほとんどが中年です。いったいどれほど多くの人が、この曲を真似したのだろうと思ってしまいます。そして私は渋谷の楽器屋で、ギターの試し引きでこの曲を弾くオジさんに遭遇してしまいました。「クロスロードですね?」と話しかけると「ヴァイのファンなんです」と嬉しそうに禿げ上がった頭で笑っていました。
なんのために出てきたかわからない少女が、なんだかよくわからない理由で姿を消してしまったり、ロバート・ジョンソンの30番目の曲がどうなったのかよくわからず(もしかしたら説明があったかも・・・)、そして何よりもクラシックと決別してブルースを学ぶことにしたユジーンがクラシックで勝利するという「アレ?」という感じもどういうものでしょうか。そんな疑問も最後のギターバトルで相殺された、と思える人にだけ楽しめる映画になっています。
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映画「クロスロード」とは
ラルフ・マッチオが主演して1986年に公開されました。ジュリアーニ音楽院で学ぶ学生のユジーンは、クラシック音楽よりもブルースが好きな少年でした。そんなユジーンが伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンと親交があったウィリー・ブラウンと出会い、ロバート・ジョンソンの30番目の曲を探してアメリカ南部を旅する物語です。ロバート・ジョンソンは悪魔に魂を売ってギターの腕を手に入れたという伝説がありますが、ウィリーもまた、悪魔に魂を売っていたのでした。十字路に着いた2人の前にスクラッチと名乗る悪魔が現れ、自分の手下のギターリストとの勝負に勝ったらウィリーの魂を返すと言い出しました。ユジーンはウィリーを助けるためにギターバトルを行います。
あまりおもしろくない映画
当時のラルフ・マッチオは映画「アウトサイダー」「ベスト・キッド」とヒット作に立て続けに出ていて、超売れっ子俳優でした。しかしこの2作に比べて「クロスロード」があまり有名じゃないのは、正直言って面白くないからです。ブルースやロバート・ジョンソンの伝説に詳しくない人にはピンとこないですし、知っている人からすると浅い解釈で話が進むのが退屈です。しかしこの映画が今でも話題になるのは、ラストのギターバトルにあります。10分少々のシークエンスですが、これを見せるための前振りが80分ほどある映画と言ってよいと思います。そしてこのギターバトルを見て、当時のギター小僧の多くが拗らせてしまうのです。
ギターバトル
悪魔のスクラッチが呼んだギターリスト、ジャックを演じるのはスティーブ・ヴァイです。もう、これだけで当時のギター小僧は大騒ぎです。ヴァイは超テクニカルなギターリストとして人気を集め、今やカリスマ的なギターリストです。そのヴァイ演じるジャックとユジーンが対決するのですが、当然ながら役者のラルフ・マッチオはギターを弾けません。実際の音は別のギターリストが当てています。そのギターリストはライ・クーダーです。※スティーブ・ヴァイ |
そう、この映画はスティーブ・ヴァイとライ・クーダーのギターバトルを見ることができるのです(実際にはライ・クーダー以外のギターリストも音を当てている)。ライ・クーダーはスライドギターの名手で、ヴァイとはジャンルが違いますが超テクニカルなギターリストとして有名です。互いが超高度な技を駆使してギターバトルを展開する場面に、ギター小僧は凝視し耳を立てて集中しました。
ヴァイが次々に難易度の高いフレーズを弾き続けてユジーンを圧倒し、観客はヴァイの演奏に熱狂して勝負あったかに見えました。その時、ユジーンはブルースではなくクラシックの演奏を始めます。それがニコロ・パガニーニ「24の奇想曲」5番なのです。超高速フィンガリングで演奏するユジーンを食い入るように見つめるヴァイ。そしてヴァイも同じフレーズを演奏しますが、音を外して断念し、ステージを去りました。ユジーンの勝利が決まりました。
弾いてみた
実はユジーンが演奏する「24の奇想曲」はスティーブ・ヴァイが音を当てていて、しかも一番目立つフィンガリングをラルフ・マッチオに教えているのですが、クラシックをエレキギターで流麗に弾くスタイルに憧れたギター小僧たちは、レンタルビデオ屋に「クロスロード」が並ぶとレンタルし(当時はVHS)、阿呆みたいに「24の奇想曲」5番を練習したのです。大学の軽音楽部の部室には毎日のようにこれが鳴り響き、ライブハウスでは無意味にソロの中にこれを入れるアマチュアバンドが現れました。面白いのは日本だけでなくアメリカでも同じようなことが起きていたようで、それを私が知ったのはYouTubeが広まってからでした。YouTubeには、ラルフ・マッチオになりきって「24の奇想曲」を弾く人が大量にいて、さながら日本のニコ動の「弾いてみた」といった感じになっています。さらに演奏しているのが立派なオジさんたちで、30年前に「クロスロード」を見て拗らせたギター小僧たちが立派な中年になっても変わらず拗らせているのが確認できました。
ちなみに弾き方を教える動画も大量にあり、教えている人のほとんどが中年です。いったいどれほど多くの人が、この曲を真似したのだろうと思ってしまいます。そして私は渋谷の楽器屋で、ギターの試し引きでこの曲を弾くオジさんに遭遇してしまいました。「クロスロードですね?」と話しかけると「ヴァイのファンなんです」と嬉しそうに禿げ上がった頭で笑っていました。
映画としてはツッコミ所満載
この白熱のギターバトルですが、最後にヴァイが間違えるところがどうもわざとらしく見えて、当時の私は少し萎えました。後のヴァイのインタビューによると、ノッて演奏している時に意図的に間違えるのは難しかったらしく、何度も撮り直しをしたそうです。普通のギターリストにとっては超高難度のフィンガリングですが、ヴァイにとっては簡単な演奏だったらしく、簡単な演奏を自然に間違える演技というのは、ヴァイにとっては弾くことより難しかったそうです。※ロバート・ジョンソン |
なんのために出てきたかわからない少女が、なんだかよくわからない理由で姿を消してしまったり、ロバート・ジョンソンの30番目の曲がどうなったのかよくわからず(もしかしたら説明があったかも・・・)、そして何よりもクラシックと決別してブルースを学ぶことにしたユジーンがクラシックで勝利するという「アレ?」という感じもどういうものでしょうか。そんな疑問も最後のギターバトルで相殺された、と思える人にだけ楽しめる映画になっています。
まとめ
ギター小僧のための映画で、ギターサウンドが好きな人なら最後のギターバトルは大いに楽しめます。しかしそれ以外の人には、なんとも微妙な映画になっています。しかしこの映画で拗らせたギター小僧が大量にいるのも事実で、ネットには同じ曲を弾く人が大量に見られます。ギターの腕に自信がある人は、この曲に挑戦してみてはいかがでしょうか。関連記事
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