今ならセクハラになるだろう話 /新人Yとのやりとり

15年ほど前のことになります。私が以前勤めていた不動産会社に、Yという女性が新卒で入ってきました。隣の部署で直接一緒に仕事をしたことはないのですが、人懐っこい女性で何かと話す機会がありました。長身の童顔で、やや天然ボケが入っているホンワカした女性です。そのYが入社し、初めて会話した時のことは明確に覚えています。



Yとの遭遇

朝礼で挨拶をしていたので、Yの顔と名前は知っていました。たまたまYの席の近くに寄った時に、Yはしゃがんでロッカーの書類を出そうとしていました。Yはしゃがんだまま「はじめまして」と言い、私は軽く挨拶して「気をつけろ、パンツ見えてるぞ」と言いました。Yは顔を真っ赤にして「申し訳ありません。以後気をつけます」と言いました。それで打ち解けたのか、Yはちょくちょく話しかけてきました。

Yの足癖の悪さ

これ以降も全くYの足癖は治らず、何度か注意することになります。そのうち私が周囲に見えないように、しゃがんでいるYの前に背を向けて立つと「あれ?また見えてます?」と笑いだすありさまで、「見えてます?」「見えてるよ」というやり取りが普通になってしまいました。「足癖の悪さはどうにかならんのか?」と言うと「気をつけてるんですけど、気が緩んだ時に来るからですよ」と反省の様子はありませんでした。


Yの注文

昼休みに話していると、Yは「私がカワイイって言われる時って、バカにされていることが多いんですよ」と言い出しました。仕事ができないお嬢さん的なイメージで言われると言うのですが、Yは仕事ができないわけではありません。時々、強烈な天然ボケが炸裂するので、もしかすると仕事ができないと思っている人がいたかもしれません。

「カワイイがダメなら、なんて言われたらうれしいんだ?」
「えー、なんだろう・・・?」
「キレイとか?」
「あーー!!いいそれ!言って言って!」

もはや先輩と後輩の関係もあやふやな感じで、「いいから言って!」と耳に手を添えて催促します。会社の昼休みそんなことを言うのも恥ずかしいですが、あまりにしつこいので仕方なくYの耳に顔を近づけて「Yはキレイだよ」と言いました。

「ぎゃぁああああ!ささやかれたぁあああ!気持ち悪いーーー!!!」

と両手両足をバタつかせながら大声を上げて笑い出し、「言えっていうから言っただけじゃないか!」と私が言うと

「ごめんなさいぃいい!うれしいですけど、気持ち悪いーーー!!」

とイスから落ちんばかりに両手両足をばたつかせて笑い転げます。「落ち着け!パンツ見えてるぞ!」と注意すると「ごめんなさいぃいい!今それどころじゃないんですーーー!」と、笑い死ぬかと思うほど笑っていました。



Yとの議論

ちょっとした調査で、社内の書類をひっくり返していた時のことです。しゃがんで書類の束を片付けているYに「おい!」と声を掛けました。「あれ?見えてますか?」と言うので私がうなづくと、「いつもいつも汚いものを見せて申し訳ありません」と、ペコリと頭を下げました。そんなことを言われたので私も「いえいえ、結構なものを見せて頂きました」と返し、2人でゲラゲラと笑っていました。

それから数か月後に、何かのはずみで「Yが『いつも汚いものを見せて申し訳ありません』って言ったのには驚いた」という話になりました。しかしYはその話を真っ向から否定します。「私がそんなことを言うはずないじゃないですか!」と言うのです。



「いや、確かに言ったぞ」
「私は『見苦しいものを見せて』って言ったんです。私のパンツはキレイなんです!」
「キレイかもしれないけど、あの時は汚いって言ったぞ」
「ちゃんと毎日洗ってます!」
「そういう問題じゃないんだ!」
「私のパンツは見苦しいんです!」
「汚いって言った!」
「見苦しいんです!!」

そんな言い合いをしているとYの上司がひょっこり現れて「お前ら、何揉めてるの?」と言うので、Yは顔を真っ赤にして「見解の相違です」と逃げていきました。

Yの退職

私は違う部署に異動していて、Yが結婚して退職すると聞きました。もう長い付き合いになるので最後の日ぐらいは挨拶しておこうと思い、彼女の部署に向かいました。Yはしゃがんで机の引き出しから書類を出して整理しています。私が「Y」と声を掛けるとハッとした様子で顔を上げ「見えてます?」と言うので「見えてるよ」と答えると、「入社してから・・・最初から最後まで進歩がなくてスミマセン」と笑いながら頭を下げました。私も「最初に話したのが『パンツ見えてるぞ』で、最後の会話も同じかぁ」と笑い、Yは「私ってパンツ以外の印象がないですよね。でもお世話になりました」とペコリと頭を下げて、その日は別れました。確かに仕事の話をしたよりも、パンツの話をした時間の方が長かったような気がします。



まとめ

世の中でセクハラが話題になっているので、ふとYのことを思い出しました。これって今ならセクハラと糾弾されても仕方ないような気がしますが、当時もかなり際どい線で言い合っていた気がします。Yは自分からパンツネタを振ることもあったので、セクハラだと嫌がっていたわけではないと思いますが、毎回顔を真っ赤にしていたので当然ながら恥ずかしがっていました。顔を赤くしながら自らパンツネタを振る女性心理はわからないのですが、とりあえず私との会話は楽しんでいたと思います。

「他の人ともパンツトークしてるのか?」と尋ねると、「なにバカなこと言ってるんですか!そもそも注意してくれる人なんて他にはいませんよ!」と言っていたので、私以外は見えていても気づかないふりをしていたのでしょう。もちろん私だって誰にでもストレートに注意するわけではなく、相手によっては「ちょっと立った方がいいよ」とか、少し湾曲した言い方で伝えることもあります。しかし今の時代なら、このようにストレートに言うと周囲からセクハラとして懲戒の対象になるような話だと思います。セクハラは絶対にダメですが、なんだか息苦しい時代になったようにも思います。


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