なぜリヴァイはエルヴィンを死なせたのか /奴隷からの解放

 アニメ「進撃の巨人」第55話「白夜」(シーズン3 18話)で、エルヴィンが死亡しました。エルヴィンかアルミンのどちらか1人しか救えない場面で、リヴァイはエルヴィンを救うべきと主張しながら最終的にはアルミンを救いました。なぜリヴァイはエルヴィンではなくアルミンだったのでしょうか。今回はこのリヴァイの行動について考察したいと思います。


※一部にネタバレを含みます。

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第55話「白夜」の主な登場人物

エレン・イェーガー

調査兵団に所属する本作の主人公で、何らかの理由で巨人の力を継承しています。幼馴染のアルミンやミカサとともに入団し、今回のウォール・マリア奪還作戦に参加していました。


アルミン・アルレルト

エレンの幼馴染で、調査兵団に所属しています。機転が効き、たびたび優れた頭の良さを見せ、調査兵団団長のエルヴィンやリヴァイ兵士長からも一目置かれています。


エルヴィン・スミス

調査兵団13代団長で、優れた頭脳と統率力の持ち主です。柔軟な思考の持ち主で、巨人になったため誰もが恐れたエレンを調査兵団に入団させたり、新兵のアルミンの言葉に耳を傾けたりします。


リヴァイ

巨人討伐数で他を圧倒する、人類最強の兵士と呼ばれています。粗暴な口ぶりと態度で周囲に恐れられていますが、仲間想いの一面を覗かせることもあります。


フロック・フォルスター

エレンと同じ104期生で、駐屯兵団に所属していました。しかし後に調査兵団に転入し、ウォール・マリア奪還作戦に参加しています。


第55話「白夜」の概要

アルミンが捨て身の作戦を実行したことにより、エレンは超大型巨人を倒すことができました。中にいるベルトルトを引きずり出すと、そこには黒焦げになったアルミンがいました。こうなることはわかっていたはずだと落ち込むエレンの前に、獣の巨人を追うリヴァイが現れます。リヴァイは巨人の力を奪う注射薬を持っていました。その注射薬をアルミンに注射し、巨人化したアルミンがベルトルトを食えばアルミンは超大型巨人として息を吹き返します。エレンはリヴァイに注射するようにお願いします。


リヴァイが注射薬を取り出した時、瀕死の重症のエルヴィンを抱えたフロックがやって来ます。獣の巨人への特攻で生き残ったフロックは、虫の息になったエルヴィンを抱えてリヴァイの元にやって来たのです。エルヴィンに注射すればエルヴィンの命を救うことが可能です。リヴァイはエルヴィンに注射することを決めますが、エレンとミカサが猛抗議し、エレンはリヴァイに殴られミカサはリヴァイを襲います。アルミンかエルヴィンのどちらかした助けられない状況で、リヴァイは改めてエルヴィンを救うことを決めました。

なぜリヴァイは殴られて礼を言ったのか

なぜリヴァイは長年の盟友であるエルヴィンではなくアルミンの命を助けたのか?実はアルミンを助けたのではなく、エルヴィンを死なせてあげたのです。それを理解するには、第47話「友人」を読み解く必要があります。この47話では調査兵団を追い詰めたケニー・アッカーマンの最期が描かれています。

幼少のリヴァイを育てたケニーは、憲兵団を率いて調査兵団を襲います。しかしケニーは敗走し、瀕死の状態で発見されます。死を目の前にしたケニーは、巨人になる注射薬を持っていましたが使いませんでした。その代わり、ケニーはリヴァイに告げます。


「俺が見てきた奴は、みんなそうだった。酒だったり、女だったり、神様だったりもする。一族、王様、夢、子供、力、みんな何かに酔っ払ってねえと、やってられなかったんだな。みんな、何かの奴隷だった。あいつでさえも・・・」

シーズン3 第47話「友人」

残酷な世界に生きてきた人々は、みんな何かの奴隷になり、それにすがって生きてきたと言うケニーはリヴァイに「お前は何だ?英雄か?」と問います。リヴァイはそれに答えません。しかし多くの仲間を亡くした痛みに耐えつつ生きているリヴァイにとって、自分は英雄として生きていくしかないのではないか?と、このケニーの一言によって考えたのでしょう。ケニーは力の奴隷でした。そして注射して巨人になることは、奴隷のままい続けることを意味します。ですからケニーはリヴァイに注射器を渡し、死んでいったのです。ケニーは力の奴隷から解放されました。

調査兵団に戻ったリヴァイは、女王に就任したヒストリアに呼び出されます。ヒストリアは勇気を振り絞り、普段の恨みを込めてリヴァイの腹を殴って「どうだ!私は女王様だぞ!」と言い放ち、それを見た104期生の仲間は「おお!」と歓喜と感嘆の声を上げます。誰もが恐れるリヴァイを殴ったヒストリアでしたが、リヴァイは微笑みを浮かべながらそこにいた全員に感謝を述べます。

お前ら、ありがとうな

全員が意外な表情を浮かべるのですが、これはリヴァイにとって解放された瞬間でした。英雄として生きるしか無いのか、生きなくてはならないのか?そう考えていたリヴァイに、ヒストリアは上から目線で挑発し、それを見て喜んでいる仲間たちがいます。少なくとも調査兵団の中では、リヴァイは英雄として生きなくてもよいのです。104期生のバカな行動は、追い詰められたリヴァイを救ったのです。 

エルヴィンの独白

シーズン3 第53話「完全試合」では、獣の巨人の投石により主力部隊を失った調査兵団が全滅の危機を迎えていました。目の前には獣の巨人、壁の後ろには超大型巨人と鎧の巨人がいて、ただ獣の巨人の投石を浴びるだけになっており、脱出するにも時間がありませんでした。リヴァイは自らを犠牲にしてエルヴィンとエレンを逃がそうと考えますが、エルヴィンは最後の手段を提案します。それは自らの命を掛けた作戦でした。しかし同時に葛藤も吐露します。


俺はこのまま地下室に行きたい。俺がこれまでやってこれたのも、いつかこんな日が来ると思っていたからだ。いつか答え合わせができるはずだと

シーズン3 第53話「完全試合」

何度も死んだほうがましだと思った。それでも、父との夢が頭にちらつくんだ。そして今、手を伸ばせば届くところに答えがある。すぐそこにあるんだ。だがリヴァイ、俺たちの仲間が。仲間たちは俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったか知りたいんだ。まだ戦いは終わってないからな

シーズン3 第53話「完全試合」 

エルヴィンが抱える最大の心の傷は、幼少期にあります。教師をしていた父に人類の歴史について質問をしまが父はその時は答えず、家に帰ってから仮説を説明しました。王政が配布する歴史書には多くの矛盾があり、人々は王政によって記憶を改竄されたのではないかと父に言われ、エルヴィンはそのことを友人らに話します。父は憲兵に拘束されて、その後事故死という形で他界しました。エルヴィンは自らの行いが原因で、父を失ったのです。

ですからエルヴィンは、その答えがあるエレンの家の地下室に行きたいと熱望しています。同時に調査兵団団長としての勤めを全うしなくてはとも考えています。エルヴィンには地下室を見ることなく死んでいくことへの未練があり、最後の特攻を躊躇っていました。それを知ったリヴァイはエルヴィンに告げます。

お前はよく戦った。おかげで俺たちはここまでだどり着くことができた。俺は選ぶぞ。夢をあきらめて死んでくれ。新兵たちを地獄に導け。獣の巨人は、俺が仕留める

シーズン3 第53話「完全試合」 

この場面で、これまでのエルヴィンの行動は人類のためというより私怨であったことが明かされます。ケニーの言葉を借りれば、エルヴィンもまた過去の過ちの奴隷だったのです。ですからリヴァイの言葉はエルヴィンの私怨ではなく人類のために戦えというメッセージではありません。自らを奴隷から解放しろという意味であり、それを自分が後押しするという盟友への花向けでした。ですから死んでくれと言われたエルヴィンは、かすかに笑ったのです。

人類を救うには悪魔が必要だ

エルヴィンかアルミンかを選ぶ必要が出てきた際に、リヴァイはエルヴィンを選びました。「俺は人類を救える方を生かす」というリヴァイの判断は当然でした。ハンジが言うようにアルミンは逸材ですが、エルヴィンほどの経験も統率力もありません。ですからエレンやミカサの抵抗にあっても、全員を退けてエルヴィンに注射を打つと決めたのです。

しかしこの過程で、フロックが思わぬことを言います。エルヴィンの命令で獣の巨人に特攻を行い部隊が全滅する中、奇跡的に無傷で生き残ったフロックは虫の息のエルヴィンを見つけました。フロックは全員で特攻することを命じ、全滅の惨状を作ったエルヴィンは悪魔だと言います。だから瀕死のエルヴィンにとどめを刺すことも考えました。


でも、それじゃ生ぬるいと思った。この人にはまだ地獄が必要なんじゃないかって。そしてわかったんだ。巨人を滅ぼすことができるのは悪魔だ

シーズン3 第55話「白夜」

 この言葉にハッとさせられたリヴァイは、エルヴィンを生き返らせることこそが彼を地獄に落とすことだと気づきます。エルヴィンは自分のせいで死んだ父親が、正しかったことを証明するために戦っていました。しかし調査兵団団長としてのエルヴィンは、人類のためと言って大勢の部下の命を失いました。生き残るということは、その良心の呵責に苦しむエルヴィンに、さらに苦しみ続けろと言うことになるのです。

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リヴァイがアルミンを選んだ訳

リヴァイは全員を避難させ、エルヴィンに注射しようとしますが、エルヴィンとの記憶が蘇ります。リヴァイは「お前の夢ってのが叶ったら、その後はどうする?」と問い、エルヴィンは「わからない、叶えて見ないことにはな」と答えます。そしてケニーの言葉を思い出します。「みんな何かに酔っ払ってねえと、やってられなかったんだな。みんな何かの奴隷だった」

そしてエルヴィンに注射しようとした時、突如エルヴィンは左手を上げてうわ言のようにつぶやきます。「先生、壁の外に人類がいないって、どうやって調べたんですか?」この言葉は、エルヴィンの父が死ぬきっかけになった子供の頃のエルヴィンの言葉です。これでリヴァイは悟りました。エルヴィンは父親の仮説が正しかったことを証明するという夢の奴隷でした。そして夢のために突き進み、部下に嘘をついて死なせたことへの罪悪感にも苦しんでいました。エルヴィンを死なせることは、エルヴィンを奴隷から解放することです。ケニーは自ら注射を使わずリヴァイに託すことで、自らを奴隷から解放しました。だからリヴァイはエルヴィンを解放することにしたのです。


まとめ

リヴァイはエルヴィンを救うためにアルミンを選択しました。エルヴィンを生かすことは地獄に連れ戻すこと、夢の奴隷を続けさせることでした。そういった状況からエルヴィンを救いたいと考えたリヴァイは、苦しみながらも決断しました。この決断に至るにはケニー・アッカーマンの死と、エルヴィンの独白が強く影響していました。また夢を実現した後はわからないというエルヴィンに対し、海を見に行こうと未来に希望を抱くアルミンというアルミンという違いもあったと思います。そしてこの選択は、やがてフロックとの間に大きな溝を作ることになります。この物語がよくできているのは、このような連続性が絶え間なくできているからだと思います。


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