映画「エイリアン」が行った女性解放 /なぜリプリーは脱いだのか?

※この記事は2016年4月4日に、前のブログに書いた記事の転載です。

かつて映画「猿の惑星」を見た黒人解放運動のリーダー達は、これは黒人を描いた映画だと評価しましたが、SFホラー映画「エイリアン」は、女性解放運動家を喜ばせました。エイリアンは、新しい女性の価値観と行動を示したと言われています。






中性的なヒロイン

シガニー・ウィバー演じるリプリーが乗るノストロモ号は、宇宙貨物船で鉱石を運搬しています。つまり長距離トラックの運転手のような仕事であり、その中で男に混じって肉体労働をこなしています。船長のダラスが船外活動を行う際にはノストロモ号の指揮をとり、強いリーダーシップを発揮しました。肉体労働を行う職場で男性に混じりリーダーとして振る舞うリプリーは顔立ちも中性的で、物語の冒頭から男性と変わらない存在感を示しています。

自立した女性像を主人公に据えただけでも当時としては画期的ですが、物語の中の役割も画期的でした。それまでホラー映画のヒロインは悲鳴をあげて逃げ惑い、最後まで生き残って間一髪のところをヒーローに救われる役目でした。女性は主人公によって救われる弱い存在であり、時に主人公の足手まといになり、物語をハラハラさせるための機能を持っていました。しかしリプリーは、 逃げ惑うだけでなく最後にはエイリアンとの一騎打ちを行い、男に助けられるのを待つだけのヒロインではなかったのです。リプリーには勇敢さがあり、知恵があり、決断力がありました。



エイリアンとの最後の一騎打ちの前に、リプリーは下着姿になって観客に女性であることを確認させています(あれはサービスカットではないんですよ)。元々は全裸になる設定だったそうですが、どちらにしても観客にリプリーが女性であることを確認させるための行為です。最も女性らしい姿を見せて一騎打ちに繋がることで、戦う女性の新しいヒロイン像が誕生しました。



鬼才H・R・ギーガー

そもそもエイリアンをデザインしたスイスの鬼才、H・R・ギーガーは、男性器や女性器をモチーフにし、有機物を無機質にデザインするのを得意としていました。当然ながら「エイリアン」の各デザインには生殖器のメタファーが散りばめられていて、性を意識せざるをえない画面構成になっています。エイリアンの頭部は男性器がモチーフなのか?と言われたりしました。



胎内で展開する物語

それに加え、舞台となる宇宙船ノストロモ号のメインコンピュータはマザーと呼ばれています。母の体内で物語は進わけで、ここに何かの意図を感じずにはいられません。男性器をモチーフにしたエイリアンがマザーの体内で暴れまわり、それを倒すのが女性という設定が女性解放運動とリンクしたわけです。

※ノストロモ号のマザー

密室とは正反対の舞台

本作は設定の勝利という評価もあります。古典サスペンス、ホラーでは閉ざされた空間が多く用いられました。怪しげな屋敷、橋が落とされて分断された集落などです。しかし「エイリアン」では、無限に広がる宇宙という閉ざされた空間とは反対のベクトルにありながら、広すぎるがゆえに訪れる孤独感を用いました。それまでも絶海の孤島などが舞台になることがありましたが、狭く窮屈な宇宙船と無限に広がる宇宙では、その孤独感が何倍にも増幅されたのです。


この絶望的な孤独感は、公開時のキャッチコピー「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」(In space no one can hear you scream)が、実によく表していると思います。

エイリアン女優として

絶望的な孤独の中で戦い抜く女性像は、フェミニストを歓喜させ、映画スタジオは新たなマーケットがあることを知ります。以降、女性を主人公にしたアクション映画が増えていきます。一方で、シガニー・ウィバーはそんなイメージを嫌ったのか「ゴーストバスターズ」では生贄にされて助けられるヒロインを演じたりしますが、結局はリプリー役で大成します。

※「ゴーストバスターズ」のシガニー・ウィーバー

ちなみに「エイリアン4」のシガニー・ウィバーのギャラは、「エイリアン」の時の約1000倍だったそうで、彼女はエイリアン長者と呼ばれています。これもアメリカンドリームですね。



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