伊調馨のパワハラ騒動 /レスリングに何が起こっているのか

レスリング関係者と思われる人物から、内閣府に提出された告発状を発端に、女子レスリングが騒がしくなっています。週刊文春が事の真意を確かめるために伊調馨選手に取材をしたところ、告発状の内容を認める発言があったために一気に過熱しました。今回は経緯をまとめるとともに、この問題を少し考えてみたいと思います。

※栄和人コーチ(左)と伊調馨選手(右)

告発状の内容

女子レスリングでオリンピック4連覇を遂げた伊調馨選手に関するもので、レスリング協会理事の栄和人(さかえかずひと)氏に従わなかったため、さまざまな圧力を掛けられているといいます。この告発状はレスリング関係者から出されたものだと言われています。



・伊調馨選手は男子の合宿への参加を禁じられた。
・伊調馨選手が練習場にしていた警視庁レスリングクラブへの出入りを禁じられた。
・田名部力(たなべちから)氏に、伊調馨のコーチを辞めるように圧力が掛かった。
・田名部氏が警視庁のコーチから外された。
・現在、伊調馨選手は東京オリンピックに向けて練習ができない状況。

栄コーチの元を離れた伊調馨選手は、栄コーチからさまざまな妨害を受けているとのことで、伊調馨選手のオリンピック5連覇を阻止する動きがあると告発しています。


週刊文春の取材

この告発状を受けて、週刊文春が伊調馨選手に取材をしました。現在は東京オリンピックに向けて、練習ができない状態にあるようです。



「練習……そうですね、自分が求めていけば、練習させてくれるところはたくさんあると思うんですけど、私が(練習に)行ったことで、栄監督による圧力が周りの方にかかるというのはちょっと懸念している部分ではあるので。うーん、『来て欲しい』って言って下さる方はたくさんいるんですけど、『私が行ったらどうなるのかな』って……」

「現役を続けるとなると、栄体制の元でやるしかないので、また色んなことを我慢しながらやっていくとなると……。朝練とか午後練も練習環境がしっかり整わないと、なかなか腹をくくれない部分があります」

こういった伊調馨選手の答えを受けて、週刊文春が栄コーチに取材をしたところ、パワハラを否定したうえで「(東京五輪に)出たければ、出ればいいだけの話」と切り捨てています。

時系列にまとめてみると

伊調馨選手と栄コーチの関係を、報道されていることを元に時系列に並べてみたいと思います。これが真実というわけではなく、報道されていることを並べているだけです。

2008年
8月 北京五輪金メダル(二連覇)
    五輪後に姉の千春とともに引退表明 ←周囲の説得で撤回

※北京オリンピックの伊調馨

10月 世界選手権(東京開催)をめぐるトラブル
伊調姉妹が負傷のため欠場 ←栄コーチと協会の説得に応じなかった

2009年
12月 伊調馨選手がカナダ留学から帰国して全日本選手権で優勝

2010年
栄コーチの元を離れ、警視庁の田名部力コーチに師事する。
9月 世界選手権(モスクワ)で優勝
栄コーチから田名部コーチへの圧力がある。
「伊調のコーチを辞めないと男子代表コーチから降ろす。これは福田富昭会長と高田裕司専務理事も承諾済みだ」

2012年
8月 ロンドン五輪金メダル(三連覇)
「男子の合宿練習に参加することを禁止」 ←栄コーチからの指示

※ロンドンオリンピックの優勝

2016年
8月 リオ五輪金メダル(四連覇)
警視庁への出入りを禁止される。 ←栄コーチからの指示
田南部コーチが警視庁のコーチを外される。 ←栄コーチと警視庁の話し合いで決定



メンツの問題なのか?

現状では栄和人氏が一方的な悪者に見えますし、伊調選手が練習するのに苦労している様子が伺えます。栄和人氏は吉田沙保里を筆頭に、数々のメダリストを輩出して日本レスリング界のシンボリックな存在です。今や発言力は絶大だそうですし、これほどの実績を出せば当然だと思います。

※渦中の栄和人コーチ

伊調馨選手がなぜ栄コーチの元を離れたのかは不明ですが、栄コーチが自分の元を離れた選手が活躍するのを快く思っていないという論調を多く見かけます。特に吉田沙保里選手が4連覇を逃し、伊調馨選手が4連覇を達成したことで栄コーチのメンツが潰れたという人もいるようです。

教え子のためなのか?

現在、栄コーチの元には、若手級成長株の川井梨紗子と川井友香子という姉妹がいます。梨沙子はリオ・オリンピックの金メダリストですが、現在は階級を変えて58kg級にいます。つまり伊調馨と同じ階級になったわけで、伊調馨が練習できない環境に追い込まれたのは栄コーチにとって都合が良いと言われています。

※金メダルを獲った川井梨紗子に投げられる栄コーチ

栄和人コーチには栄希和(さかえきわ)という娘がいます。レスリングの選手で、60kg級で全日本選手権優勝を果たしています。60kg級はオリンピックにない階級なので、一つ落として58kg級に行くと思われています。しかしこの階級は伊調馨選手が君臨しているため、娘のために伊調馨選手を外したいのではないかという憶測があります。

※栄希和

レスリングはムラ社会なのか

さまざまな団体に派閥があるように、スポーツ界でも派閥は珍しくありません。かつての日本サッカー界でも早稲田卒で古河電工に所属していた人たちが、Jリーグや代表を牛耳っていました。同じ釜の飯を食った人達の方が通じ合うものが多いので、どうしても一緒になりやすいのでしょう。基本的に日本で団体ができると、よほど関係者が意識しない限りムラ社会ができあがります。


栄コーチは私財を投げうって選手を育ててきました。合宿所がないため私費でマンションを購入し、選手に住まわせたりしています。また、それが離婚の原因にもなっています。栄コーチが手塩にかけて育てた伊調馨選手が離れていった時に、ある種の寂しさや悔しさがあっても何ら不思議ではないでしょう。そういった想いが暴走したというのも考えられます。

まとめ

現段階では、一方的に栄コーチが悪者になっていますが、情報が限られているので決めつけは禁物です。まだ明らかになっていない事実もあるでしょうし、伊調馨選手にもなんらかの落ち度がある可能性もゼロではありません。

しかし世界一の実力を持ち、東京オリンピックに出たいと考えている選手が、練習できないというのは異常事態です。こんな状態で数年が過ぎているのはおかしいですし、協会が批判の矛先が向かうのも当然です。こういう問題が起こるたびに、日本で第三者機関が機能していないというのが残念でなりません。


2018/3/9追記

大学時代にレスリングをやっていた人の話によると、女子レスリングでメダルを量産した栄氏の功績で、レスリング協会は潤いました。そのため栄氏は総監督や強化本部長などのさまざまな肩書きがついています。ところが女子の監督の栄氏が男子の選考などに口を出すようになると、反発が起こったようです。

「歴史が浅い女子の技術と男子の技術ではレベル的に雲泥の差がある。女子でしか実績がない栄氏が男子に口出しするのは、ちょっと待ってくれと誰だって思う」

「サッカーのなでしこの佐々木監督が、『オレはワールドカップで優勝経験があるんだぞ』って男子の代表の選出や練習方法に口を出したら反発が起こるでしょう。レスリングではそれが起こってしまってる」

「伊調馨は男子の練習に参加して実績を出しているから、栄さんを鬱陶しく思っている人達の攻撃材料になってたんじゃないかな」

派閥争いが起こっているみたいですね。その渦中に伊調馨選手は存在してしまったようです。




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