伝わる言葉・伝わらない言葉

※こちらは以前の「はねもねの独り言」に書いていた記事です。

今回の原発騒動で印象的な言葉は「ただちに危険ではない」というものでした。これを危険の反対語「安全」を使って表現すると、どうなるのでしょうか。「しばらくは安全です」でしょうか?しかし「しばらくは安全です」と説明されるのと「ただちに危険ではない」と説明されるのでは、安心度が違うように思います。それにそもそも枝野長官が使った「ただちに危険ではない」という言葉の意味は、「しばらくは安全です」とは違うようにも思います。


鳥インフルエンザの風評被害が広がった時、鳥インフルエンザの危険性について理解している人は少数だったと思いますし、今でも理解が広がったようには思えません。あの時、鳥インフルエンザのリスクに関して小学生にでもわかるように説明できなければ、風評被害の拡散は止められないという指摘がありました。多くの人が正確にリスクを把握したうえで、消費者が的確な行動をとるには、子供にでもわかるような説明が必要だというのは、その通りだと思います。

実は「ただちに○○ない」というのは政府の常套句で、恐らくどこかの官僚が作って長いこと政治家が使っていたのだと思います。政府やメディアの信頼が今よりも高かった時代なら、こういう表現をされても「まあ、ああ言っているんだから大丈夫なんだろう」となんとなく納得した人もいたかもしれません。政府は変な事をする時もあるが、そこまで馬鹿なことはしないだろうと思われ、メディアはそれなりに中立だろうと思われていた時代なら、ある程度の説得力があったのでしょう。

そもそもこの言葉では「ただちに」という時間の長さが不明です。1時間なのか1日なのか1週間なのか1年なのかわかりません。そして「安全」という言葉を使って何かあった時に責任を追及されるのを恐れて「危険ではない」という、まわりくどい言葉を使ったように思います。つまり何かあった時に「私は安全とは言っていない。リスクがあることは説明していた」という言い逃れを用意しているように思えます。

今回の原発騒動で、説明する人は多くいても言葉の不足を感じました。いえ、言葉は多く発信されているのですが、誰もが状況を理解できる言葉がないのです。そもそも信頼性に欠けると思われている政府が発表している言葉が、上記のように逃げ道を残した言葉なのですから疑心暗鬼と不安が広がるのは当然だと思います。しかし核分裂とそれを発電に利用するシステムは高度な計算と技術が必要で、子供が理解できるようなものではないという反論もあるでしょう。

今、多くの日本企業が海外に先端技術を売りに行っています。例えば新幹線や発電所がその代表例ですが、これまでライバルではなかった中国や韓国との競争に苦戦しています。要因は価格もありますが、言葉の問題もあるようです。例えば新幹線はライバルの列車に比べて装甲が極端に薄くなっています。これを理由にカナダの会社は新幹線は危険だと主張して、カリフォルニアも納得しそうになっています。しかし新幹線の安全性は装甲の厚さには関係なく、高度にシステム化された運行ソフトにあります。

カリフォルニアの議会には、機械や電子工学に詳しい人が多いわけではありません。むしろ素人の方が多いのが実状です。その素人相手に運行システムの安全性を説明し「なるほど、そりゃ素晴しい」と納得させなければ「装甲が分厚い方が安全だよね」という理屈に負けてしまうわけです。それが不十分なまま「装甲が厚いと省エネ効果が薄い」なんて言ってしまうと「新幹線は乗客の安全性を犠牲にして経済効果を高める乗り物」というレッテルを貼られてしまいかねません。

専門性の高いものに関して「どうせ素人に言ってもわからない」とサジを投げるのではなく、専門家は素人にもわかるような説明ができなければ、今後もさまざまな壁にぶつかるでしょう。言語の問題というとすぐに英語の話が出てきますが、その前に私は日本語の問題の方が重要に思えてなりません。しかし数年前にはKY、空気が読めないという言葉が流行り、自分が説明できない又は説明力がないことを棚に上げて相手に責任を押し付ける風潮が出てきました。しかしこれではダメだと思います。

と、ここまで書いて私のブログも全くもって言葉が不足していると感じました。難しいけど、私も伝わる言葉を模索したいと思います。







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AUTHOR: maple
DATE: 04/18/2011 23:21:16
相手の理解度に合わせた説明能力が必須と、会社で教えられてきました。しかし、まだまだ到達できていません(T.T)

この原発騒動でなんとなく察したのは、本当のところは専門家でもはっきりとしたことはいえないし、いろいろな事象によって結果が大きく変わってくるのでは…ってところです。わかっているのは、即、目に見える障害が起きないことくらい。でしょうか。

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AUTHOR: hikaru
DATE: 04/19/2011 15:52:13
目に見えることは人間の力で改善できるが、目に見えないことを解決しなければ、それ以上の惨劇を繰返さなければならなくなる。
心は、人間の努力だけでは改善できない。
私たちが、今、しなければいけないことは『救世主スバル元首様』に、救いを求めることだ。
  もう、時間がない!!
http://www.kyuseishu.com/tanuma-tu-koku.html
http://miracle1.iza.ne.jp/blog/entry/2237566/

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AUTHOR: つるひめ
DATE: 04/19/2011 19:55:50
確率の概念は、直感的な理解をするには訓練が必要で、伝達することは正直なところ結構むずかしいです。
放射線もこれをキチンと説明しないと正しい恐怖にならないんですが、伝える側もこの概念の説明をはしょり、受け取る側もはしょる。

でも、正しく伝えて正しく伝わったなら、福島県人はパニックになるでしょうね。

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AUTHOR: 冬_寂
DATE: 04/20/2011 21:03:55
日本語は曖昧ですから。安全の定義も曖昧なので…極論すれば、「生きているから、ガンにもなるし死にもする」ワケで。
あ、どうでもいいことですが、新幹線のような非装甲の民生品に「装甲が厚い/薄い」という表現は不似合いな気がします。「外板が厚い/薄い」ぐらいが適当かと。一瞬、オイラみたいな表現(厚着の人に、「今日は重装甲だね」とか)を使うはねもねさんにびっくりしました(^^;)

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AUTHOR: はねもね
DATE: 04/20/2011 21:39:29
★mapleさん
相手のレベルに合わせるということは、まず相手を知らなくてはいけない高等技術ですね。でもそれができたら最高だと思います。

次々に新しい局面が訪れるので、メディアでよく使われる「ズバリ、お答えください」というような質問には答えられないと思いますし、こういう状況ではそういう問いもふさわしくないように思います。そしておっしゃるような誰にもはっきりとしたことが言えない状況ならば、それを正直に発表することも大事ですよね。

「ただちに説明はできない」って感じでしょうか(苦笑)


★hikaruさん
これはなんなのでしょうか?

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AUTHOR: はねもね
DATE: 04/20/2011 21:40:20
★つるひめさん
確かに確率は難しい一面がありますね。さらに今回は確率に確率が掛け合わさったような説明もされていますから、まさに「なんじゃこりゃ?」となってしまいます。

今回より規模ははるかに小さいですが、三宅島の噴火の時には溶岩が町を飲み込む恐れがあることを発表して、全島避難の指示を政府が出しましたね。当然ながら現地にはパニックも混乱もあったと思いますが、避難方法も同時に提示されて無事に全島避難ができました。大きなリスクを発表しても、その後どうすれば良いか具体的な発表が合わせてされれば混乱は最小限に収まるように思います。

今は説明もその後の対処法もはっきりしていない感じですね。


★冬_寂さん
あいた!確かに装甲は違和感がありますね。
おそらくこれを書く前に、戦闘機の本を読んでいたからだと思います(^_^;
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コメント

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