政治風刺には笑いが必要 /ラスタとんねるずの過激さ

ウーマンラッシュアワーの村本大輔が、M1で時事ネタを披露したことで物議がありましたね。お笑いに政治は不要という意見や、そもそもお笑いは風刺だという人もいて、ネット上では議論になっていました。私はお笑いというのは権力の風刺が多分に含まれていると思うので、時事ネタや政治風刺はアリだと思うのですが、最近はそれらのネタが減ったのも事実です。そこでふと思い出したのが、94年に放送された「ラスタとんねるず」という番組です。政治ネタをこれでもかと盛り込んだ、過激な内容でした。

ラスタとんねるずとは

当時、高視聴率を誇っていた「とんねるずのみなさんのおかげです」のロケで、天然記念物生息地で爆薬を使い、さらにゴミを投棄して荒らしたと問題視されてスタッフが処分されたことを受けて、番組を自粛して放送が中断しました。そこで自粛期間に全く別のスタッフで急遽組まれたのが「ラスタとんねるず」でした。

※ジャイアント将棋

番組は人形劇とジャイアント将棋の2部構成で、人形劇は政治家のマペットを使い、かなり際どいネタを放り込んでいました。もっとも人気だったのはジャイアント将棋の方で、人間を使ってさまざまな勝負をさせて勝ち負けを競うもので、多くのゲストが話題になっていました。女子プロレスラーの豊田真奈美(番組では雲梯の女王と呼ばれていた)などは、この番組でプロレスファン以外にも名前が知られたと思います。

人形劇のネタ

当時は自民党政権が倒れて55年体制が終了し、日本新党の細川政権から社会党の村山富市を総理とする村山連立内閣への移行期でした。55年体制を終わらせた「剛腕」と呼ばれた小沢一郎の存在感が強く、前首相の細川護熙も何かと話題の人物でした。番組ではこれらの政治家がマペットとして登場するだけでなく、アメリカ大統領のビル・クリントンなども登場しました。

※レギュラーだった村山富市総理

人形劇は政治ネタだけでなく、日本テレビの「24時間テレビ」を皮肉たっぷりに演じたりもしました。募金が目標額に届かないと騒ぎになり、小沢一郎が怪しげなポケットマネーを出して目標額を達成しますが、ゲストのアーノルド・シュワルツェネッガーのギャラを払うと募金が残らなかったなんて話もありました。日本テレビは「募金をギャラに使うことはない」と抗議し、フジテレビは謝罪することになりました。

他にもアメリカ大統領はやたら簡単に核ミサイルのスイッチを押しますし、日本の政治家はすぐに金を要求するし、村山富市はすぐに救急車で運ばれるしで、全体的にブラックな雰囲気の人形劇になっていました。

エンディング

番組の終わりは、マペットのバンドをバックに石橋貴明が替え歌を歌うのが定番でした。マペットがボーカルをとることもあり、曲によって楽器の担当もさまざまでした。バンド名は「総理ングストーンズ」、ザ・ローリング・ストーンズのパクリです。


「どんな総理も」は、槇原敬之の「どんなときも」の替え歌です。
※小沢一郎は繰り返しネタにされていました。
どんな総理も どんな総理も
小沢と仲良くしておけよ
この眉毛の薄い 強面でも 怖くはないよ
そしていつか 総理になって
黒幕と言われた昔を 笑い飛ばしながら
ふりかえれるように


「やっぱり小沢でナイト」は、ベイシティ・ローラーズの「サタデーナイト」の替え歌です。




「眉毛がすげぇ!」は、西城秀樹の「YMCA」の替え歌です。
※歌は後半から始まります。

ムラヤマ! 大正生まれだ
ムラヤマ! 眉毛が長いぜ
ムラヤマ! もう70でも
ニッポンの総理
ムラヤマ! ねぇ社会党だろ
ムラヤマ! 自民と手を組み
ムラヤマ! 自分が総理だ
やな爺さん


「連立チャンポン政権」は、クイーンの「伝説のチャンピオン」の替え歌です。

連立ちゃんぽん やべえ
自民 さきがけ 社会
連立ちゃんぽん 連立ちゃんぽん
誰がボス猿 つぎ狙っとるのは
オザワ〜


「まあええんじゃないかと言おう」は、スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」の替え歌です。

oh〜 安保も 自衛隊も
まあええんじゃないかと言おう

人形劇もそうですが、悪意しかないこれらの歌をゴールデンタイムに堂々と放送していたことに、当時のとんねるずとフジテレビの勢いを感じます。今なら放送できないのでは?と思ってしまいます。

まとめ

お笑いで政治風刺をやるなら、まず面白くなければなりません。ウーマンラッシュアワーのM1でのネタを見ましたが、観客は置いていかれていて笑いが起こりようもありませんでした。ラスタとんねるずは、当時としてはかなり過激でしたし笑えました。とんねるずが政治をネタにするのも異例なら、これほど強く政治を打ち出すのも異例だったと思います。そして過激で笑えたので、人気だったのです。

繰り返しになりますが、政治をお笑いに持ち込むのはありだと思います。しかし笑わせることができなければ、政治がどうこうではなくお笑いとして失敗だと思います。権威を笑いに変え、時に強烈な皮肉でニヤリとさせるようなお笑いは、日本ではほとんど見かけなくなりましたね。



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