アメリカと映画と暴力の連鎖

※この記事は2016年7月31日に、前のブログに書いた記事の転載です。

ジョン・ヒンクリーという男が、35年収容されていた精神病院を来月退院することになりました。ヒンクリーはレーガン大統領を暗殺しようとして、逮捕された男です。この事件は遡ると、映画「時計じかけのオレンジ」にたどり着きます。



72年に公開されたこの映画は、近未来を舞台に暴力を描いたものでした。あらゆる残忍な個人の暴力よりも、国家の暴力の方が遥かに醜悪なものであることを描いていますが、そんなテーマよりもスクリーンに映し出される暴力が注目されました。



この映画の熱心なファンの1人に、アーサー・ブレマーという男がいました。ブレマーは社会性が欠けていて人付き合いが苦手なため、友人がいませんでした。女性をデートに誘うことに成功しても、ポルノ映画に連れて行って嫌われたりします。しかし本人は、なぜ嫌われたのか理由がわかりませんでした。

※アーサー・ブレマー

ブレマーの日記によると、自らの男らしさを証明するために暗殺を決意しています。大統領選挙の真っ只中、リチャード・ニクソンの暗殺を計画しますが、警備が厳しかったので対抗馬のジョージ・ウォレスを狙撃します。ブレマーの逮捕後に日記が発見され、日記が出版されると大きな反響を呼びました。

※出版されたアーサー・ブレマーの日記

支離滅裂な内容と同居して、社会の中の孤独感や満たされない者の飢え、周囲への怒りが記された日記は、すぐに映画化されます。「タクシードライバー」というタイトルで公開され、主演のロバート・デ・ニーロの熱演もあって大ヒット作になりました。映画館にはブレマー同様に屈折した若者が押し寄せ、行列ができたそうです。



その中に、冒頭のジョン・ヒンクリーがいました。彼は映画そのもの以上に、売春婦役で登場した13歳のジョディ・フォスターに夢中になりました。フォスターにファンレターを書き続け、ストーカー行為を行うようになります。フォスターに拒絶されると、彼女に認めてもらいたいという理由で、レーガン大統領を狙撃しました。

※「タクシードライバー」のジョディ・フォスター

狙撃の瞬間はテレビカメラに収められています。立て続けに響く銃声、倒れこむレーガン、そのレーガンに覆いかぶさるシークレットサービス、頭から血を流す報道官などが、映像で確認できます。レーガンは一命を取り留め、ヒンクリーは精神鑑定の結果無罪になりました。

※レーガン大統領暗殺未遂事件

この裁判結果は全米に衝撃を与え、各州で精神異常者の犯罪に関して法改正が行われました。ヒンクリーは、巨大国家アメリカの影の部分です。皮肉にも、大荒れの大統領選挙の最中の退院になりました。これが何を意味するのか、何も意味を持たないのか、今はまだ何もわかりません。





「タクシードライバー」でデ・ニーロはタンカースジャケットを着ていました。

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