娘と「ふたりはプリキュア」について語ってみた

娘(12歳)と国語の宿題の話をしている時に、物語の構成の仕方から「ふたりはプリキュア」の話になりました。もちろん娘はプリキュアをとっくに卒業していますし、娘のリアルタイムは「Yes!プリキュア5」なのですが、娘に言わせると物語の作りこみ方はシリーズ第一作の「ふたりはプリキュア」が最も凝っていたと言い切ります。

※左がなぎさ(キュア・ブラック)右がほのか(キュア・ホワイト)



ふたりはプリキュアとは

2004年から2005年にかけてテレビ朝日系列で放送された、女児向けのアニメです。それまでの女児向けアニメと異なり、男児向けのヒーローもののように主人公が素手格闘をダイナミックに行うのが特徴で、「美少女戦士セーラームーン」以来の大ヒットになりました。

※変身すると、目と眉がくっついて凛々しい顔立ちになるなど細かい変化があります。

その加熱ぶりは全国の幼稚園で女児達が、互いを蹴ったり殴ったりして「プリキュアごっこ」が禁止されるなどの社会現象になります。クリスマスシーズンはプリキュア関連グッズが飛ぶように売れていき、50億円規模の売上なら大成功と言われる女児向け玩具マーケットで100億円を超える大ヒットになりました。

ふたりはプリキュアのストーリー

悪の勢力に7つのプリズムストーンを奪われかけた光の園の妖精ミップルとメップルは、それぞれがプリズムストーンを持って地球に逃げ込みます。二人は悪の勢力から逃げる最中に偶然出会った中学生のなぎさとほのかにプリズムストーンを与え、ふたりはプリキュアに変身して戦うことになります。



他とは違う物語の展開

いわゆる女児向けアニメのストーリーとしてはありきたりの構成で、ほのかはお嬢様タイプの大人しい女の子で、なぎさはスポーツ万能のボーイッシュな女の子として色分けされています。しかし面白いのは、二人は同じ中学の同じクラスなのに、ほとんど話したことがない他人行儀な仲として描かれている点です。ですから第1話で2人がプリキュアになってから、第1期のシーズンの途中までは、「美墨さん」「雪城さん」と名字で呼びあい敬語で話しています。

全く性格が違う二人が、唐突にプリキュアになることになってしまったからといって、急に仲良くなれるはずもなく、なんとも気まずい雰囲気になったり誤解が生じたりと、ぎこちない関係のまま物語がどんどん進んでいく展開は、他ではあまり見られませんでした。お互いが親しみをこめて「なぎさ」「ほのか」と呼び合うようになるのは、第8話以降からです。

娘が語るオープニングの巧みさ

オープニングソングが流れる場面では、ほのかとなぎさが他人のようにすれ違う場面が出てきます。当初は互いに名前を知っている程度で話したこともない関係ですから、道ですれ違っても声すらかけないのは当然のことでしょう。しかし物語が進んで、互いをなくてはならない存在だと認め合うようになっても、この映像は使われ続けます。そのため、途中から見始めた人には違和感を覚えてしまうほどです。

※1分ほどのオープニングに、このすれ違いが何度も繰り返されます。

娘は毎回このオープニングを見るたびに「こんな時期もあったんだよねぇ」と、1話から思い出してしまったようで、幼稚園児であっても二人の変化や成長を感じていたそうです。なんとなく二人が成長するのではなく、視聴者に二人の成長を思い起こさせる装置としてオープニングが機能していました。

中学生になって感じたこと

娘が中学生になり、なぎさとほのかに近い年齢になってきました。クラスには嫌いなわけではないけど、なんとなく話をする機会がほとんどない生徒がいて、なぎさとほのかの関係はこういうことかと妙に納得しているようです。避けているわけでも嫌なわけでもなく、でも毎日話しかけてくる友達は決まっているし、一緒に帰る友達もなんとなく同じになっていて、話をする機会がない人も「機会があって話したら、仲良くなれるかもしれないしね」と、漠然と思っているようです。

※コミカルな場面では、変身していても目と眉が離れます。

それに加えて、不器用ななぎさがほのかに仲直りしたい気持ちをなんとか伝えようとぎこちなく奮闘する場面など、幼稚園児の頃は「スパッと言えばいいじゃないか」と思っていたようですが、中学生になると「言いたいことを上手く言えなこともあるよね」と、共感しているようです。

妙にリアルなのは、ケンカをした二人が互いに関係を修復したいと思いながら、なぎさは積極的に動き、ほのかは殻に閉じこもってしまうのですが、いざ相対して言葉を交わすとほのかの方が猛烈に口撃することです。「こういう子、いるいる」といった感じです。

「ふたりはプリキュア」が巧みだったのは、このような大人の(対象年齢の4歳から6歳児にとっての大人)身近な友人関係をリアルに感じさせたことではないかと思います。

まとめ

娘がリアルタイムで見ていた「Yes!プリキュア5」は、「夢をあきらめない」というテーマが繰り返し出てきましたが、「ふたりはプリキュア」では友情を育む過程が丁寧に描かれていました。女児向けアニメとして「夢」というのもテーマになりえますし、「Yes!プリキュア5」では中学校での先輩後輩の関係など、さまざまな要素を網羅していて変化に富んでいて、これはこれで良かったと思います。

しかし「友達」「友情」という、身近なものを長期間にわたってじっくりと描いていき、その丁寧な描写で視聴者が成長した後にも「こういうことだったのか」と思い出させるクオリティを持たせたことが、長期シリーズの礎になったのではないかと思います。もちろん大人が見ると短絡的な部分も多いのですが、女児向けとしては十分に丁寧に描かれていたと思うのです。

※女児向けなのに無駄に迫力のある描写が続きます。

アニメ「ドラゴンボール」のスタッフを招いて描かれた本格的な格闘シーンや、授業に出てくる「枕草子」を他の場面で暗喩的に使った演出、さらにカメラワーク(構図)の巧みさなど、このアニメは他にもいろいろと見るべき点が多いと思うのですが、もう一回見返すのはちょっとキツイなぁ。幼稚園児のお嬢さんがいる家庭なら、子供と一緒に見てみると良いと思います。バカにできないほど、いろいろなことが巧みに描かれていますよ。





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