キン肉マンと吉野家

※こちらは以前の「はねもねの独り言」に書いていた記事です。

牛丼の吉野家が17ヶ月連続で、売上が前年割れだそうです。同じ牛丼を販売するすき家や松屋が売上を伸ばしているのとは対照的に、牛丼戦線での一人負けを印象付けました。私の家の近くにも吉野家があるのですが、なんとなく行きたいとは思わないんですよね。一方、取引先の近くには松屋があって、時間がない時はそこで昼ごはんを済ませることもあります。味はどこも大差ないと思うのですが、メニューの少なさや割高感が吉野家のネガティブなイメージになっていて足が向かないんです。





吉野家はあらゆる意味で後手を踏んでいて、その一つ一つを取り上げれば失敗の歴史の本になりそうです。特にマーケティングが苦手のようで、それは漫画家のゆでたまご氏との騒動によく現れていると思います。漫画「キン肉マン」の作者ゆでたまご氏が、批判に答える形でツイッターにつぶやいたことから思わぬ騒動に発展しましたが、この事件は吉野家のマーケティングに関して象徴的な出来事のように思いました。

ことの発端はキン肉マンが、吉野家のライバルすき家のキャンペーンキャラクターになったことから、「ゆでたまごが吉野家を裏切った」とネットで批判されたことでした。キン肉マンは20年以上も前に漫画もアニメも大ヒットしたのですが、キン肉マンの好物が牛丼という設定で、お店の名前も吉野家が使われていました。主人公が毎週のように「牛丼一筋300年~」と歌い、小学生の間でこの歌が流行して経営再建中の吉野家の追い風になりました。

そのキン肉マンが、再び経営難に陥っている吉野家を見捨ててライバルのすき家のキャンペーンをやっているのですから、ファンとしては穏やかではなかったのです。そしてその批判に答える形で、ゆでたまご氏は吉野家との間に確執があることをツイートしました。

テレビ番組で永久無料で牛丼が食べられる名前入りドンブリを持参したところ、吉野家で無料を断られてしまいました。その放送直後に吉野家に苦情が殺到したために吉野家はタダ券を持参してゆでたまご氏に謝罪に行くものの、そこで逆にゆでたまご氏を怒らせる結果になっています。

キン肉マンの29周年(なぜハンパな数字なのだろう)を祝う企画が持ち上がった時に、集英社(キン肉マンを連載していた少年ジャンプの発行元)が吉野家に対して恩返しのチャンスだからぜひ協力をとオファーしたところ断られ、その時に牛丼の普及に努めてくれたキン肉マンにお礼がしたいとすき家が申し出てキャンペーンに使われたようです。名前入りドンブリを持ち込めば無料になるというのは、ゆでたまご氏の勘違いではないかという説もありますが、その真偽はともかく吉野家が受けたマイナスイメージの前ではそんなことはどうでもよくなってしまいます。

 吉野家は誰をターゲットにしているのでしょう。学生、サラリーマン、OL、高齢者などさまざまな人が吉野家を利用していますが、サラリーマンは彼らの主力ターゲットに違いないでしょう。その中でも、結婚していてお小遣いが厳しいけど働き盛りという中年のサラリーマンは、大きな割合を占めていると考えられます。

調べてみるとキン肉マンの漫画の連載開始が79年で、アニメは83年にスタートしています。キン肉マン消しゴム(通称、キン消し)の大流行は80年代半ばです。 アニメ放送開始に10歳だった少年は、小学校高学年でキン消しブームにドップリと浸かり、今は37歳ということになります。つまりキン肉マンのブームを支えた子供達は、今でも吉野家のメインターゲットと考えられるわけです。ちなみに私は40歳ですが、吉野家を知ったのはキン肉マンでしたし、今でも吉野家というとキン肉マンのイメージがあります。私は特に少年ジャンプを読んでいたわけでもなく、アニメが始まった頃には部活ばかりでテレビを見る暇もなかったので、アニメのキン肉マンを熱心に見た記憶はありません。

それでも当時はキン肉マンの牛丼=吉野家というイメージがつくほど、かなりのブームになっていました。 吉野家はアメリカ産牛肉を使い続ける理由に、固定ファンの重要性を説いていました。しかしその固定ファンがどうやってファンになったかという分析ができていなかったように思います。吉野家の社員は90年代に「つゆだく」という言葉を流行らせた華原朋美さんが、吉野家を流行らせた立役者と言っているそうです。確かにそれはその通りでしょうが、それ以前にもブームがあり、固定客を掴んだという事実を知る必要があったと思います。

「社員の多くが入れ替わって、当時のことを知らなかった」と吉野家はゆでたまご氏に弁解したようですが、当時の記憶がなくとも現在の顧客を調査すればどこかにキン肉マンというキーワードが出てきたでしょう。 メニューや精算方法、その他さまざまな要因が吉野家の低迷の原因だと言われていますが、吉野家の見解と消費者の想いにギャップがあるように思います。キン肉マン騒動は吉野家のマーケティング下手を象徴しているように感じました。








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AUTHOR: 通りすがり
EMAIL: IP: 59.139.44.8 URL:
DATE: 08/11/2010 02:10:25
> キン肉マンの29周年(なぜハンパな数字なのだろう)

「ニク」だからですよ、もちろん。


----- COMMENT:
AUTHOR: はねもね
EMAIL: IP: 210.234.61.174 URL:
DATE: 08/11/2010 21:43:13
★通りすがりさん
なるほど!そういうことですか。
納得しました!

----- COMMENT:
AUTHOR: Yes_No
DATE: 08/11/2010 23:32:44
特にこの不況の最中、安値合戦のニュースを見ると、なんか寂しくなりますね。

 出典は忘れましたが、営業の教科書に「値引きする営業は、最低の営業」 みたいに書かれていたのを思い出しました。 スーパーマーケットの卵の安売りは客寄せで、他の商品を売って利益をだしていますので例外です。すき家のようにメニューの種類が多いところでは良い戦略かもしれませんが、吉野家みたいにメニューの種類が少ないところでは自分の首を絞めるでしょうね。

コカコーラとペプシみたいに、上手く広告合戦して盛り上がれば楽しいのになぁ。 いっそ昔あったペプシマンみたいに自社製品のキャラクターを作ると面白いかも。 キャラクターは生身の人間と違ってスキャンダルも無いので安全です。 TVコマーシャルを少し抑え、ネットを上手く使えば経費削減の効果もありそうです。

たとえば、 吉野家太助、すき家与一、なか卯牛々 みたいに歴史を感じさせる様な2Dキャラクターを一般公募する。 その中で店の雰囲気に合った3つを選び、お店の応募ハガキで投票させる。 (投票の途中過程をネットで発表し、盗作でないかもネットでスクリーニングする) 一位に選ばれたら(著作権と交換で)100万プレゼント、ネットで盛り上げる。 選ばれたキャラクターを店のガラスに外から見えるように貼り、その吹き出しで 「いらっしゃいませ、吉野家太助です」 「ようこそ、すき家与一です」 「まいど、なか卯牛々です」 と呼び込みに使う。

Twitterを使い、キャラクター名で情報を発信する。 牛丼食べてシール10枚を集めたらキャラクター携帯ストラップを先着1万名にプレゼントする。 小さい子供を養っている方は、家族に強請られてシール集めに、お昼に通うかも。 ... 無責任な空想はキリがないので、このくらいにします。

----- COMMENT:
AUTHOR: 盆汁
DATE: 08/12/2010 15:02:07
こんにちは 前回ははねもねさんのネタを使ってしまいましたね(^_^;)

私は吉野家の味付けが好きなんですがこの前スキ屋に行って店内の雰囲気とメニューの多さに これではお客が吉野家に来ないわ ってのが正直な感想です。 premodernの吉野家 好きなんですけどね

あっそうだ この前宮城興行の 靴 初オーダーし 先週出来上がってきたんですよ。 セミブローグを注文したんですがなかなかの出来栄えでサイズもシューフィッターさんが1時間かけて採寸のおかげで調子良いです が 原宿のあのお店に比べられると困りますが 今年は店長さんにアルスターコートを所望しようかな では


----- COMMENT:
AUTHOR: はねもね
EMAIL: IP: 126.251.213.105 URL:
DATE: 08/13/2010 17:23:55
★盆汁さん
宮城興業で靴を作られたんですか。羨ましいです!
未だにパターンオーダーとかやったことないので憧れます。ビスポークは論外ですし、背伸びしてもパターンオーダーまでかなと思っているので、いつかはやってみたいと思っています。

それに、今は茶色のセミブローグが欲しいなと思っていたところなんですよ。 今年の冬はアルスターコートですか。私はアクアスキュータムのトレンチをもう一着買おうと思っています。一着だけだと汚れるし、痛みも早いですからね。本当はチェスターフィールドも欲しいんですが、そこまではお金が回りません。ウールのコートは来年かなぁ。


 ----- COMMENT:
AUTHOR: xsion
DATE: 08/13/2010 19:25:58  
個人的には吉野家ファンです。  

すき家、松屋、吉野家を比べれば吉野家が一番美味しいと思います。でも、一人負け。これは、『消費者は牛丼に味を求めていない。』ということだと思います。  

で、どうするかなんですよね。ボクはメーカーの人間だから、上流からの押込み思想(オレの牛丼は旨いんだから売れない訳がない)はすごく良く分かるけど今のようにぶれてるとチョッと厳しいと思います。

いずれにしても吉野家再生には強力なリーダーシップと情熱が必要だと思います。


 ----- COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 08/14/2010 08:45:48
★xsionさん
 >消費者は牛丼に味を求めていない。

これは私も100%同感です。ところが吉野家や、味へのこだわりとかお客さんとのコミュニケーションとか、求められていないものばかりに拘泥しているように思えます。つくづくマーケティングが苦手なんだと思います。


----- COMMENT:
AUTHOR: jojo
DATE: 08/14/2010 23:54:25
多分、吉野家は「味」へのこだわりを捨てることはないと思いますよ。ドキュメンタリー番組で、少し以前にもやはり吉野家に客が入らず、どん底の状態だった際、「一番旨い牛丼を作ろう」と時間をかけて今の味を作り出し、業界最大手の地位を復活させた・・・というのを見ました。

恐らく、今の吉野家トップはその頃の「味のクオリティを求めたことによる復活劇」を鮮明に覚えているはず。愚直な人たちなんでしょうね。私は、ただ単に「家から一番近い」という理由で吉野家使ってるんですが、できれば味へのこだわりは捨てないで欲しいですね。


----- COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 08/15/2010 12:02:04
★jojoさん
なんとなく思うのですが、当時の再建時には価格と味のバランスが取れていたんでしょうね。最高級の牛丼や最も美味しい牛丼は、今も昔も吉野家にはないですし。しかし今は多少美味しいよりも、少しでも安いものが求められているのが苦戦の理由のように思います。 少し前に流行ったプチ贅沢みたいに、少しだけ高価だけど美味しいというのを消費者に受け入れられるような施策が必要なのかもしれません。それには綿密なマーケティングが必要だと思うのですが、なんだか苦ってっぽいんですよね(^_^;)

コメント

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